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実験的親子丼

みなさん、親子丼ってお好きですか?

私は大好きです。



親子丼っていいですよね。鶏もも肉とたまごと玉ねぎっていう、どこにでも売っててお値段もお手頃な食材で作れるし、材料切って出汁で煮るだけって行程も簡単らくちんだし、ごはんさえ炊いておけば20分かそこらでできあがるお手軽さ。そしてみんな大好き甘辛味。安い、早い、うまい。まさに庶民の味方的メニュー。丼だから食べ応えはばっちり、でもやさしい味わいで、食べている最中のほっとする感覚は何物にも代えがたい。いいですよね親子丼。


そんな風に気取りのない家庭料理の定番的メニューでありながら、お店に行けばご家庭の味とは一味違う、プロの味に舌鼓を打てるというのもすばらしい。丹精込めて育てられ磨き上げられた鶏肉に、プロフェッショナルが緻密で丁寧なお仕事を施した一皿(一丼というべきか?)。いつもより背筋を伸ばして、ちょっと贅沢な気分に浸りつつかっこむ幸せ。あれもまたいいんだよなあ。


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いつぞやに食べた「鶏三和」さんの親子丼。食べた後もしばらくにやにやが止まらないほどおいしかった。ふわふわのトロトロは万物を弛緩させる。梅干し付ってのがニクい。


まあそういうわけで、私は親子丼が大好き。当然、料理を覚えたての頃から現在に至るまで、数えきれないほど繰り返し作っている。おかげで近年は大失敗するってことはなくなった。まあ、たまごが固くなりすぎたり(あるある)、反対にゆるすぎてTKGみたいなOKDになってしまったり(ごくたまに)、具を欲張りすぎて追いごはんをするはめになったり(2回に1回程度)、小さなミスはあるけれども。たいていは20分程度の調理時間をつつがなく過ごし、自分好みの甘辛加減の、そこそこおいしい親子丼にありついている。

そんな、穏やかで平和な親子丼との日々に満足していた私。だがしかし、最近我が家にやってきたアレのせいで、ふとした思いつきに心を捉われてしまった。


「アレを使えば、おうち親子丼のクオリティを向上させることが可能なのでは?」


アレといえばもちろんこれだ。


かくして私は、とにかくなんでもピチットしたくてたまらん衝動のおもむくままに(新しいおもちゃを与えられた子供状態)、新兵器貴族のラップを用い、QOO(Quality of OYAKO-DON)を向上するための実験に乗り出すことを決意した。前置きが長すぎる。


さて、まずはメイン食材である鶏もも肉。これは産地から直送で取り寄せた高品質の比内地鶏、もしく名古屋コーチンを用意……できたら最高なのだけれど(むしろ実験終わるな?)、そんな王族のたべものをうかつに持ち込もうものなら、うちの台所が恐慌をきたしてガスコンロが爆発するかもしれないし、そこまでいかずとも私のお財布は確実に恐慌をきたす。よっていつも愛用している、大帝国ロピアの国産鶏もも肉(100g78円・ちなみに底値は68円ただしキロ単位販売)を用意。これを貴族のラップでピチットしまして、冷蔵庫にて一晩お休みいただく。

先日扱った豚肩ロースなんかに比べると、鶏もも肉ってめちゃくちゃうるおい感あふれていることに、今さらながら気づいた。さながら肉界における石田ゆり子さん。これは二晩、あるいは三晩脱水してもビクともしないかもしれないな……等と考えていた。

翌日。貴族のラップがいい具合にぷよぷよしていたので、シートを交換しようと開封すると、なんと皮の部分が干物みたいにカッピカピになっている!ぷよぷよになった貴族がなかなか剥がれないくらい脱水されてる!


……やっちまった?

そもそも、これから煮込むものを脱水することに意味はあるのか?(今更)


100g78円、および1枚60円の無駄死にフラグに怯えた私は、実験計画を多少変更することにした。

小鍋に昆布だしを張り(いつもはほんだしで済ませています)、ごく薄切りにした玉ねぎを入れて火にかける。煮立ったらていねいにアクを取り、玉ねぎから甘みが出てくるまでゆっくり煮込んでから、料理酒と醤油で味付け。さらに、わずかな甘みが感じられる程度に、ごく少量だけみりんを追加して、これを常温まで冷ます。出汁が冷めたら一口大に切った鶏もも肉(脱水済)を入れ、冷蔵庫にて再び一晩お休みいただく。なおこの日の夕食はカップ麺になった。


いつもは20分で作っている親子丼。二晩を費やすのは当然初体験だ。いくつになっても初めての経験というのはドキドキする。緊張と怯えと甘やかな期待に心拍数を乱しつつ、トムヤムクンヌードルを啜った。


そして本日。鶏肉入りの小鍋を火にかけ、煮立ってきたらていねいにアクを取りつつ、鶏肉に火が通るまで煮る。ここでもう一度味を見て、物足りなければ醤油か白だしで味を決める。ここではまだ甘みは足さない。味が決まったところで、鶏肉だけ引き上げて別皿に取る。残った汁をさらに煮立て、若干煮詰まって味が濃くなったところでみりんを追加して、今度はしっかり甘みを強めたところで、鶏肉を戻す。すぐに溶きたまごの半量を流し入れ、火力をごく弱火にして、たまごが半熟になったら火を止める。残りの溶きたまごを流し入れ、蓋をして余熱でたまごを蒸らしつつ、丼にごはんを用意する。たまごがいい塩梅になったところで、丼ごはんの上にたっぷり盛り付けて、仕上げに紫蘇の実漬けを飾ってできあがり。


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予想してたけど見た目めっちゃいつも通り。


親子丼の肝って、やっぱりあのふわとろたまごだと思うのだけれど……あれ本当に難しいですよね。今回は黄身と白身をあまり混ぜ合わせないようにして、白身→黄身の順で流し入れるように心がけてみたものの、なんとも微妙な仕上がりになった。鶏肉に対してたまごの量がちょっと少なすぎたかな、というか鶏肉の量が多すぎるな?そしてこの鶏肉が過剰脱水でバリカタになってんじゃねえかという恐怖。


おそるおそる食べてみると……まあ、なんということでしょう


お肉とってもやわらかい!!おいしい!!


そもそも一晩程度ピチットしたくらいでは、鶏もも肉のうるおいにさほどの影響がないのか?はたまたジルに一晩漬け込んだのがよかったのか?ともかく、ちゃんとやわらかく仕上がっていることにまず安堵。ピチットで濃縮された鶏肉のうまみがしっかり感じられるし、出汁もよく効いている。対するたまごの方は、後追いで入れたみりんの効果でこっくり甘い。

途中で鶏肉を出し入れしたのは、お店でいただく親子丼の「鶏肉とたまごの味の違いを楽しめる」ってのを目指してみたかったから。お店のレベルには遠く及ばないものの、いつもの「全体がすべからく甘辛い」親子丼とは一味違うおいしさ。完全に自己満足レベルだけれど、ひと手間かけた甲斐があったな。

出汁醤油味がしっかり染み込んだプリプリの鶏肉に、くたくたの玉ねぎ、ふんわり甘いたまご。どれもお腹に染み入るように、しみじみとおいしい。そしてやさしい味だ。くしくも今日は一段と涼しかったけれど、こういう肌寒い日の親子丼って本当においしいし、なごむ。鶏肉が多すぎてお腹がはつはつになったけれど、身体もぽかぽかになった。満腹満足!ごちそうさまでした。やっぱりいいなあ親子丼。


ということで、どうにかこうにか、初めてのQOO向上実験は無事終了。鶏もも肉がいつもよりおいしく感じられたので大成功!と言いたいところだけれど、ピチット効果なのか出汁漬け効果なのか、あるいはその両方なのか、真相は湯気の向こうに隠れて見えなかった。私の脳は非常に単純明快な構造になっているので、単なるプラシーボ効果という可能性も否定しきれない。困ったな、また作って食べてみないと……。

ふわとろトレーニングも、引き続きがんばります。


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