見出し画像

厨二病的メンチカツ

あ・い・う・え あいらぶ らーぶらぶらりるれっ(ラブラブ!)
ら・り・る・れ ロピアは らーぶらぶろーぴあっ
な・に・ぬ・ね にこにこ はーひーふーへーほっほっほ
ら・り・る・れ ロピアは らーぶらぶろーぴあっ


(感じる……おそらく、この先だな……)

高位魔導士による精神操作系の上級呪文スペルを意識の遠くに聞き流しながら、倭咖那ワカナは足早に歩みを進めた。全身を包む漆黒のコート、左手に厳重に───まるで『何か』を封じるかのように───巻かれた包帯、右眼を覆い隠す眼帯。照明器具に煌々と照らされる店内で、倭咖那の周囲にのみ、夜の帳が舞い降りたかのような空気が漂っている。

店に足を踏み入れた際にはごく微弱だった「気配」は、建物の奥へと進むにつれ、鮮明に倭咖那の第六感を刺激するようになった。今やそれは倭咖那を挑発するかのように、濃厚な存在感をむき出しにしている。

「っふ……其処か」

倭咖那は躊躇いのない足取りで気配の下へと辿り着くと、包帯をしていない右手でそれを持ち上げる。浄化の儀式を受けた真っ白な箱には、暁の空を思わせる薔薇色の物体───聖獣の血肉あいびきにく───がびっしりと敷き詰められて封印パッキングされ、その上から呪符が無造作に張り付けられている。呪符をひと目見るなり、倭咖那は自分の第六感が間違っていなかったことを確信した。



画像1


「それが世界ほんじつ選択とくばいか……」


倭咖那はうつむき、刹那、ふっと笑みを浮かべた。眼帯に覆われていない左眼に、やわらかな光が宿る。

けれどその光は、さながら大地に舞い降りたばかりの雪の結晶のように、瞬時にして消失した。再び前を向いた時、倭咖那の顔は戦場へ赴く兵士のそれへと変わっていた。



数刻後。

倭咖那はほの暗い研究室ラボの片隅で、自らが厳選した呪物を調合していた。


その肌を傷つけんとする者が涙でうち震えるほどの毒を持つ薬草や、土・火・風属性の術式で特別に精製された粉末、朝と昼とを支配する天体の姿をそのまま写したかのような宝玉───そして、先刻手に入れた『世界の選択』。


画像2

ひき肉570gに対して、玉ねぎみじん切り1個分、キャベツみじん切り100g、パン粉60g、たまご2個。お好みでマヨネーズと白味噌、ナツメグなんかもどうぞ。味つけは塩こしょうです


それらすべてをオリハルコンの鉢におさめると、倭咖那はおもむろに左手の包帯を外し、掌から上腕部にかけてを念入りに浄化した。

これより始めようとしている術式と、その代償として己が身に降りかかるであろう災厄を前に、精神世界アストラルサイドを研ぎ澄まし集中させたのち、静かに呪文の詠唱を始める。


「此方に集いし者達よ───いにしえよりの姿を棄て、新たな力を我が前に示し賜え。崩壊せよ、混合せよ、結合せよ……」

詠唱と共に、封印を解いた左手を鉢の中へと送り込み、呪物を片端から蹂躙していく。倭咖那の左手の前で、あっけないほどにその姿を崩してゆく呪物たち。しかしながら、術式開始から数十秒後、倭咖那の左手は鋭い冷気に包み込まれた。


「くっ……やはり来たか。エターナル・フォース・ブリザード……!」


エターナル・フォース・ブリザード:一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させるすごい呪文。相手は死ぬ。


『世界の選択』が、自分を蹂躙せんとする術者に対し、最期の抵抗と言わんばかりに水属性の最上級呪文スペルを行使したのだ。総てを凍てつかせる最強にして最悪の冷気が左手を呑み込んでゆく。倭咖那の額から冷たい汗が伝い落ち、飛沫を散らす。だがそれは、水属性最強呪文エターナルフォースブリザードへの恐怖から流れたものではない。倭咖那が最も警戒しているのは、自らの───


今や永久凍土のように堅牢な砦となり、倭咖那の左手を上腕部にかけてまで覆いつくそうとしていた氷と冷気が、ひたり、とその動きを止める。

刹那。

氷は粉々に砕けて大気に霧散した。氷の中から再び現れた倭咖那の左腕、その肌には、黄昏よりもなお昏く、血の流れよりもなお朱い、禍々しいほどに鮮やかな緋色の痣が浮かび上がっていた。


「っは……し、鎮まれ……私の腕よ……怒りを鎮めろ!!」


水属性最強呪文エターナルフォースブリザードをあっけなく退けてなお、まだまだ暴れ足りぬと言わんばかりに呪力を高めてゆく左腕を、倭咖那は必死で抑え込む。

(この左腕に施したの封印、その中でも最弱の封印を解除しただけだというのに……)


「まだまだ、だな……」

倭咖那は自虐的な笑みで口元を吊り上げ、己が腕を睨みつける。少しでも気を抜けば、暴走した呪力が紅蓮の炎となって鉢の中身を消し炭にするだろう。倭咖那は再度精神世界アストラルサイドを極限にまで研ぎ澄まし、己の矜持をかけて左腕を制御しながら、術式を再開した。


数分後───

掌に伝わる抵抗感が次第に薄れるにつれ、鉢の中身はなめらかな粘り気をまとってひとつの個体へとまとまったのち、術式前とは全く異なる薔薇色の球体へと変貌を遂げた。


画像3

粘り気が出てまとまったらこねるのをストップして


画像4

お好みの大きさ・形に成形します。丸めにくいときは冷蔵庫でちょっと休ませると扱いやすくなります


「っふ……危なかったが───まあ、こんなものか」


こめかみになお浮き上がる汗を拭いながら、倭咖那は眼下の景色に小さく頷くと、貯蔵庫から取り出した新たな呪物を並べた。今しがた出現したばかりの球体に、それらを順に纏わせてゆく。


画像5

小麦粉または片栗粉、またはコーンスターチ→溶きたまご→パン粉の順で衣づけします。衣づけの前に冷蔵庫で休ませると扱いやすいかも。溶きたまごがちょっと物足りないけど、ふたつ割ったら余るな~って時は、少量の水で溶きのばすのがおすすめです


ミスリル銀が放つ鈍色の無機質な輝きの上に、整然と並ぶ褐色の球体。そのひとつひとつに欠損がないことを確かめたのち、倭咖那は長年使い込み、今や手にしっくりと馴染んだ魔道具フライパンを取り出した。この地を統べる精霊によって呪力を施された香油サラダあぶらをなみなみと注ぎ込む。


三度、精神世界アストラルサイドを極限の極限にまで研ぎ澄ましたのち───右眼を覆う眼帯をゆっくりと毟り取る。

魔道具フライパンを満たす香油と同じ黄金色こんじきの瞳が、その禍々しく眩い輝きを露わにした。


「拘束制御術式第参号・第弐号・第壱号開放。状況A孟智剋メンチカツ発動による承認認識───」


香油がぐらりと揺れ、細かな泡を吐き出しながら熱を帯びだす。


「目前敵の完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始」


今や地獄の釜のごとくぐらぐらと沸き立つ香油めがけて、ミスリル銀製の盆からつまみ上げた球体を投げ入れた刹那。倭咖那の唇が、夜空を切り裂く三日月の姿かたちを描いた。


「悲鳴をあげろ 豚の様な」




画像6

160℃くらいの低温に熱した油でじっくり揚げます。投げ入れたりすると油が跳ねて危険だしメンチのボディも崩壊するので、端からそろっと入れるの推奨です。揚げてる時の音はかなーり静かになります


画像7

メンチの輪郭が色づいてきたらひっくり返す目安。仕上げにちょっと火を強めてジュワー!すると、かりかりサクサクに仕上がるそうです


画像8

術式完了ミッション・コンプリート───」


大地を駆け抜ける聖獣きつねがまとう羽衣もふもふ色に染め上げられた宝玉を見下ろし、倭咖那は深く長く、満足のため息を洩らしながら、黄金色きんいろの右眼に再び封印がんたいを施した。

芳しき香りを撒き散らす宝玉を、世界樹の幹から削り出した皿に積み上げ、円卓へと運ぶ。


穏やかな春の日差しを思わせる微笑を浮かべながら、倭咖那は長きに渡る術式の、最後の呪文スペルを唇に乗せた。


画像9

ラ・ヨダソウ・スティアーナいただきます





本記事の執筆にあたり、偉大なる先駆者ちゅうにびょうかんじゃの遺した聖典を参考にさせていただきました。末筆ながらあつく御礼申し上げます。ラ・ヨダソウ・スティアーナよかったわたしだけじゃなくて

いただいたサポートは、外で暮らすねこさんたちの生活が少しでもよきものとなるよう、関係団体に送らせていただきます。