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デミソース入りミートソーススパゲッティ

一週間前に保護したねこさんを、不覚にも脱走させてしまったのは昨日の午後のこと。



保護している隔離部屋への出入りには気をつけていたのに、網戸があるからと油断して窓を開けたのが大失敗だった。保護ねこちゃんが網戸に牙突零式もかくやという鋭い一撃を浴びせ、その衝撃で外れた網戸の隙間から外に出てしまったのである。完全に私の失態だ。

すぐに探しに行ったものの、ご近所を何周巡ってみても姿はおろか気配すら捉えられない。先住ねこたちもごくたまに脱走することがあるのだけれど、小一時間も経たないうちに戻ってくるし、なんなら私の目の届く範囲でゴロゴロ転がって私をおちょくっているくらいだ。だが今回は……まだ保護して一週間にしかならない子だ。表のバス通りからうちの玄関までついてきてくれた子だから、我が家を覚えてくれていると思いたい。でも、もし覚えていなかったら……表のバス通りまで行ってしまっていたら……なんかの隙間に挟まって出られなくなっていたら……うちの近所をうろついてる鹿やハクビシンとエンカウントしていたら……

汗だくで周辺を散策すること二時間弱。悪い考えばかりが膨らみ続けて吐き気がしてきたので、とりあえずいったん自宅に戻った。お腹が空いたら戻ってきてくれるかもしれない、と必死で自分に言い聞かせる。


家に戻ったものの、気分はどんどん沈んでゆく。何も手につかない。しかし、こういう時に何もせずにいればネガティブな妄想の翼がひろがりんぐで大空に飛び立ってしまう(=メンタルに大恐慌をきたす)ことを、経験則的に理解している。

こういう時はあれだ。みじん切りだ。


台所を確認すると、必要な食材は揃っている。敬愛する凄腕料理人、ケイチェルおじ上殿を真似っこしようと思って買っておいたアレもある。トマト缶に赤ワインは常備してあるし、これならいける。


デミグラスソース入りのミートソースと聞いて、一度作ってみたかったんですよねえ


ということで、ミートソースを作ることにした。

玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにくをできるだけ細かいみじん切りにする。我が家にはフードプロセッサーなんて高級調理器具はございませんので、辛抱強く粘り強く、野菜を汁にするくらいの心構えでもって細かく刻む。みじん切りに集中していれば、わずかではあるが気持ちが落ち着く。いい感じだ。玉ねぎを刻み終えたら家の周りを巡回し、また台所に戻って次はにんじん……また巡回……次はセロリ……。しかし相変わらず保護ねこちゃんの気配は辿れない。気を抜くと涙が出てきそうになる。いかんいかん、落ち着かなければ。味噌炒めにでもしようと買っておいたなすもみじん切りにした。

鍋にオリーブ油を熱し、にんにくを除いた野菜チームを弱火でじっくり炒める。全体をかき回したら蓋をして蒸らすようにして、その間に庭を確認する。いない。再び台所に戻ってかき回して蓋して、今度は玄関周辺……てなことを30分ほど続けているうちに、野菜チームがだいぶしんなりしてきた。

ここでフライパンを熱し、オイルは敷かずに合挽き肉とにんにくを炒める。出てきたジルを捨て、肉全体に軽く火が通ったところで野菜チームに合流させる。トマト缶、缶をすすいだ水、トマトペースト、赤ワインを投入。月桂樹の葉を落としてしばらく煮込む。


ここで、脱走直後に状況を知らせた恋人から連絡が来た。私の少々偏執的なねこ愛ぶりを熟知している彼は、今からうちに来て一緒に探そうか、と申し出てくれた。ねこはもちろん、私のメンタルも心配してくれたのだと思う。すごくすごくうれしかったけれど、恋人と保護ねこちゃんはまだ対面させていないから怯えてしまうかもしれないし、何より今私が彼の顔を見たら気が緩んで泣いてしまいそうだったので、気持ちだけありがたく受け取ってお断りした。


「でもよかったら明日、ミートソース届けるから味見してもらえるとうれしい」
「え?いやそれは俺の方こそうれしいけど、なんでミートソース?」
「何かしてないと落ち着かないから今作ってんだけど、具材刻みすぎてすごい大量になった」
「そうか……ありがたくいただくわ。落ち着いてってのもきついだろうけど、なるべく冷静にな」


そんなやりとりをしながらも、家のごく周辺で保護ねこちゃんへの呼びかけを繰り返す。相変わらず気配は感じられない。つけたばかりの首輪の鈴の音も聞こえない。うう……

鍋の中がいい感じになってきたので、ここでハインツのデミグラスソースを入れる。おじ上殿がはちみつを入れていらっしゃったので、塩こしょうで味を整えながらそれも入れる。しばらく煮込んだのち、ソースが完成した。


火を止めて、再び近所の巡回に出る。すでに日が暮れているので、懐中電灯で照らしながらの探索だ。首輪の鈴の音が聞こえないかと耳をすませるけれど、聞こえてくるのは向かいの山で鳴いている鹿の鳴き声ばかりだ(田舎っぷりがお察しいただけましょうや)。もし首輪が外れていたとしたら……夜が明けるまで、見つけ出すのは非常に困難だ……。

何度めになるか分からない探索から家に戻った時に、こらえきれず嘔吐した。「アンタ、メンタル弱すぎ!」ってシンエヴァのアスカに吐き捨てられるレベルで精神が脆弱だ。情けない。でも無理なんですよ、ねこが絡むと。

せっかくできあがったミートソースを食べる気にもなれず、その後も半泣きになりながら近所をうろつき回った。


そして日付が変わった深夜、鈴の音が聞こえたような気がして家を飛び出すと、果たして!我が家の車が停まっている傍に、保護ねこちゃんがちょこなんと座っていたのだ!



盛大に鼻水を垂らしながら近づいて行った私に、すりすりと身を寄せてくる保護ねこちゃん。急いで抱き上げて家の中に連れ戻し、隔離部屋にてボディチェック。外傷はない。よかった……本当によかった……!!(号泣)

ぼろぼろ出てくる涙に、たった一週間でとっくに情を移してしまっていたことを自覚した。


その後2時間にわたって、保護ねこちゃんの大冒険のおみやげ(=ノミ)をブラシで除去しながら駆除し(ノミ対策の薬はすでに投薬済みだったけれど、けっこうな量をお持ち帰りになっていました……)、汗まみれになった体をシャワーで清めてから床に就いた。週明けから完膚なきまでに寝不足ガンギマリである。でもいい、無事に帰ってきてくれたから。本当によかった。ごめんね、脱走なんてさせてしまって。


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ブラッシング中の保護ねこちゃん この可愛い顔で牙突零式すんだから……おなごは本当に見かけで判断してはあかんな


そして本日。大変に前置きが長くなりましたが(2,500字)、今夜の晩ごはんは、デミグラスソース入りのミートソーススパゲティです!


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アルデンテに茹であげたパスタにバターを絡めて、ミートソースを載せて、パセリと粉チーズを振りかけたらできあがり。

わあー、なんか喫茶店で出てくるミートソースっぽいな。


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ソースの煮込みに赤ワインを使ったので、お供も赤ワインで。


デミグラスソースを使ってミートソースを作るのは初めての体験なのだけれど、いつも作っているトマト味のみのものと比べると、とってもコクが深くてあまーい!おーいしーい!!先ほども書いたけれど、お店屋さんで出てくるやつみたいだ。阿呆のようにみじん切りした野菜(金輪際この細やかさは達成できまいと思う)からも、とてもいい旨みがふんだんに滲み出ている。おじ上殿にならってパスタにバター絡めたのも大正解だったな。こっくりと甘口なソースに、乳製品の芳醇な香りとこってり感がよく似合っている。ソースが甘めなので、少し強めの塩加減で茹で上げたパスタとの相性もばっちりだ。それにしても挽肉ってすごいですねえ、一度乾煎りして余分な脂捨ててるってーのに、がっつり重厚なパンチ力。赤ワインによく似合う味だ。おじ上殿がおっしゃっていた通り、セブンイレブンのミートソースにはひと味足りない感じだけれど、それでも、家でこんな風にお店風ミートソースを楽しめるって感激の方が勝る!デミグラスソースの偉大さに敬服しつつ、ごちそうさまでした。


先ほども申し上げた通り、錯乱状態をなだめすかしながら作ったせいか、どえらい大量になってしまったミートソース。恋人宅にもお届けしたけれど、それでもけっこうな量のソースが冷凍庫に保管されることになった。後日アレンジしておいしくいただきます。


昨日のつぶやきには、あたたかく力強い励ましや、一緒に帰還を喜んでくださるお優しいコメントの数々を賜り、本当にありがとうございました!noteって本当にあったかい場所ですね……どれだけ心慰められ、励まされたことか。私もいつかどなたかに、そんな言葉を投げかけられると良いのだけれど。


今夜は帰宅後に、今週のお弁当の仕込みを大車輪でやっつけたので(昨夜はそこまで頭が回らず……)、へとへとです(笑)。今夜は早めに休もうと思います。

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