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【デットなのに負債じゃない!?】使いこなせばメリットが大きい資本性ローン!

スタートアップの融資を支援しているINQの若林( @wakaba_office )です。

また、「スタートアップ投資TV」というYouTubeチャンネルで、#融資相談室 というスタートアップ融資に関する情報を発信しています。

本記事は「【デットなのに負債じゃない!?】使いこなせばメリットが大きい資本性ローン!|スタートアップ投資TV」という動画の内容を書き起こしたものです。

情報経営イノベーション専門職大学(IU)客員教授で日本政策金融公庫の融資に詳しい佐藤俊太さんをゲスト、Gazelle Capital 株式会社の近藤絵水さんを司会に、資本性ローンについて語っています。

資本性ローンについて

若林:まず資本性ローンを簡単に説明すると、スタートアップ向けの融資のことです。5年1ヶ月以上先の返済期限を指定して、毎月返すのではなく期限が来たら一括で返済します。
その途中は金利だけを返済すれば良く、金利の支払額も業績に連動するので、例えば先行投資をして赤字のスタートアップの場合、最も低い金利になります。

さらに資本性ローンは、貸借対照表(BS)の中では負債に入りますが、金融機関の眼鏡で見たときには、負債ではなく資本に入れて良いことになっているので、BSが良く見えます。ゆえに後続の融資を誘発しやすい点も特徴です。

佐藤さん:公庫ではそれを「呼び水効果」と呼んでいます。資本性ローンは証明書のような一枚紙が出てくるのですが、それを貸借対照表に付けてもらうと「この融資は資本性ローンだな」と分かります。加えて、資本性ローンは出資に近い融資になるので、他の金融機関やVCからの評価が上がることもあります。

若林:確かに、通常の融資に比べれば資本性ローンは審査のハードルもメリットも多いがゆえに評価も高くなりますので、資本性ローンのシビアな審査に耐えたスタートアップだと見られやすくなり、後続の融資にもつながりやすくなりますね。

資本性ローンメリット・デメリット

近藤さん:融資と資本性ローンの違いやメリット・デメリットはありますか。

若林:通常の融資だと、毎月決まった日に決まった金額を返済していくことになります。一方、資本性ローンは5年1ヵ月以上先に一括で返すことになるので、その間のキャッシュアウトがないことがメリットと言えるでしょう。

佐藤さん:資本性ローンは、Jカーブをちょうど埋められるのが良い点ですよね。赤字を掘ることになったとき、元金を返済したらその分が資金効果として働かなくなってしまいます。例えば5,000万円借りても、1,000万円を返済したら使えた金額は4,000万円となってしまいます。その間は毎月の返済を無しにしてもらって、成長した後に一括返済する。これが資本性ローンのメリットです。

若林:それから通常の融資の場合、金利があらかじめ決まっています。スモールビジネスや既に収益が出ている企業などは金利の負担が読めるので、通常の融資でも問題ありません。一方、資本性ローンは先行投資をすると金利が最も低い水準になるので、スタートアップ向きと言えます。

佐藤さん資本性ローンは出資に近いですよね。まだ赤字を掘っているときに配当などをもらうことはまずありません。だから金利ももらわないという建て付けで、もし黒字になってきた後はしっかり返済してもらうということになります。そのため通常の金利よりは高いけれども、資本調達コストから考えると、出資に比べて安くなる傾向があります。

近藤さん:特に初期でのエクイティで一定の規模の調達をするのは難しいですし、事業投資にたくさんの費用を充てたいとなると、スタートアップと資本性ローンは相性が良いと感じます。

佐藤さん:そうですね。

若林:一方、通常の融資と比べると審査ハードルは高くなります。金額にもよるのですが、一般的に新規だと約1ヶ月、既存だと2〜3週間で融資が決まるところを、資本性ローンの場合は1〜3ヶ月かかるケースも多々あります。そのため、審査期間を含めた負担が重いというところは通常の融資と異なる部分です。

資本性ローンの難易度

近藤さん:すごくアバウトな質問かもしれませんが、資本生ローンの審査の難しさはどれくらいなのでしょうか。

若林:公庫の担当者の話では、都心から遠い支店だと相談が年間1件あるかないかだそうです。支店によっては頻度としてそもそも資本性ローンは少ないと思われます。

佐藤さん:スタートアップ自体がそれほど多くないことも頻度の少なさに影響していると思います。ただ、コロナ資本性ローンなど、再生型は件数が増えてきています。

若林:そうですね。コロナ後は資本性ローンの利用が増加傾向にあります。コロナ型だとよりスタートアップ向けの条件も追加されています。例えば、VCが入っている、他の金融機関との協調融資などの条件をクリアすることで金利が優遇されます。

佐藤さん:もちろん要件に当てはまればですが、コロナ資本性ローンがあるうちは、そちらにチャレンジした方がメリットが多いでしょう。

資本性ローンが向いている起業家

近藤さん:視聴者の中には、まだまだ赤字の状況にある起業家もいると思います。改めて、資本性ローンはどのような起業家に向いているのでしょうか。

佐藤さん:これからもまだ赤字を掘る段階であるスタートアップに向いていると思います。しかし、金融の理屈はしっかり作らなければなりません。金融の理屈とは「きちんと返済できるか」ということです。きちんと返済できるかどうかは、まだ事業が試作品だけの段階や、売れるかどうか分からない段階だと作りにくいでしょう。普通の金融機関だったら売れるというのが分かってきて、ある程度トラクションが見えてきて、出すというパターンが多いのですが、その前の段階で出せるのが公庫の良いところだと思います。しかし出しに行くときに「まだ研究開発段階で商品ができていないんです」と言われてしまうと金融の理屈は作りにくいとは思います。

若林:民間の金融機関だと支店などに持っていったときには、スタートアップ的な用語で言うとPMFをしていてある程度トラクションができている段階で、そこまでの足元の実績を見て貸せる貸せないを判断するのが一般的だと思います。しかし、PMFの香りがしているプレAやシリーズAの、段階でも貸してくれるのが公庫です。

とはいえ、どの会社もそのような状況だと良いというわけではなく、スタートアップ向きの融資ではあるので、傾向としてはVCがしっかり支援しているし、VCが入っているところの方が明らかに取り組みやすいと思います。

佐藤さん:資本性ローンもデットファイナンスの一部です。デットは大きな金額を入れられません。一方、エクイティの良いところは大きな金額が入る点で、スタートアップとして成長してIPOを目指すのであれば、当然エクイティの資金が必要です。そこが見えていないとスタートアップではなく、スモールビジネスだなと思います。日本の企業はスモールビジネスからスタートアップに変わるパターンが多いので、それでも良いのですが、ご自身のプレゼンの中でどちらなのかを言った方が良いでしょう。

若林:そうですね。スモールビジネスを否定するわけではないけれども、5年1ヶ月以上先に利益剰余金の中から一括で返済していく理屈なので、それまでに返済できるだけの利益を積める事業の大きさまで成長させる必要があります。5年1ヶ月はそれほど長い期間ではありませんから、その段階でその事業まで急成長できているビジネスモデルだと考えると必然的にスタートアップになってくると思います。

それに対して、エクイティマネーが時間を買うという意味では絶対に必要になってくるし、エクイティマネーが入っていれば、そういう事業体なのだろうという評価ができます。

佐藤さん:VCも運用する期間は10年くらいです。そのため公庫の資本性ローンも7年、10年で組む人が多く見られます。資本性ローンは5年1ヶ月、7年、10年、15年、20年という形で組むことができます。

近藤さん:まさにスタートアップのモデルといいますか、私たちが見ている目線感とすごく似ています。

若林:ちょうど中間的な、メザニン(中二階)のような雰囲気ですね。

数字の計画法

近藤さん:黒字が出るところの蓋然性はどのように見ているのでしょうか。

佐藤さん:まずはロジックで作ってほしいなという気はしています。ロジックが何かというと、例えば売上高は「単価×量」で決まります。世の中の数字のものは構造と要素でできていて、構造は計算式の話で、要素は構造を構成している項にあたります。まず売上高イコールどういう単価をとって、どういう量をとるのか、その計算式が合っていると言い切れるのであれば、次はその単価がとれる理由、その量がとれる理由を導き出していきます。単価は基本的に価値に関わります。その価値があることを、どのように仮説検証したのか。量であればある程度マーケティングの世界なので、どういう資金を投下してお客様を獲得していくのかというマーケティング戦略を説明する。そうすればロジカルになりますよね。数字だけ提出されて、その裏付けとなる理由やロジックがないと、評価する側としては困ります。つまり売上の構造である単価と量を、根拠を持って示すことで蓋然性が高まるということです。

近藤さん:SaaSだと、新規の顧客獲得数がどれくらいで、チャーンレートがこれくらいで、ACVがどれくらいでということを、プレAやシリーズAの手前でいかに詰めているか、先が見えているかが、重要になるということですね。

佐藤さん:そうですね。あとは利用見込み客や大口先が一個でもあれば、そういうところにヒアリングをして裏を取ることは、当然どの会社もやっていることだと思いますが、公庫でも実施します。

若林:プレシード・シードの段階だと、起業家・事業・市場性がどうかというところで、不確実性をあえてとりにいくというのはVCファイナンスの特徴かと思います。しかし、シリーズAとなるとVCでも実績がどうなのかは論点の割合として大きくなります。よりロジカルに、再現性がどう生まれていくのかというところで、結果として黒字化していく蓋然性がある計画を立てることができれば融資の土台に乗ると思います。

佐藤さん:スタートアップなので、来年の売上がどうなるかは分かっていてほしいところですが、2〜3年後は分からないと思います。5〜10年後はさらにどうなるか分からないでしょう。その点は公庫も把握していますが、金融は理屈の世界なので、説明しないと金融としての責務を放棄することになります。そこで、少し気を遣ってロジカルな説明ができるようにしておくと、融資は受けやすくなるでしょう。私自身「そんな先のことは分からない」と考えているタイプなのですが、それでも融資を受けるなら金融側の解像度を上げることが重要だとは感じています。

若林:資本性ローンを受けるためのポイントとしては、どうすれば返済できるかをロジカルに説明して、提出した数字一つひとつを理屈をもって解説するということですね。

佐藤さん:資本性ローンに限った話ではなく、創業のとき全般に言えることかもしれませんが、解像度が大切だと思います。起業家がスタートアップを始めるときに、事業に対する解像度、お客様に対する解像度、市場に対する解像度など、さまざまな面で解像度を上げていきます。が、資金調達するときだけ、金融機関に対してだけ解像度ゼロの状態でやって来る起業家も少なくありません。それが私たちにとって困るポイントです。例えばエクイティ用の計画を持ってこられても、金融機関とVCとでは融資の目的が異なるので期待に沿った対応は難しくなってしまいます。

若林:他の動画の中でも、VCに出した事業計画書と同じものを出さない方が良いと言ってきましたが、本職の佐藤さんも仰っているので、間違いないかなと思います。ネガティブなプラン、中間のプラン、ポジティブなプランがある中で、基本的には最も保守的なプランをベースにしつつ、きちんと返済できるロジックを出していくことが重要ですね。

佐藤さん:融資をするときもという話を先ほどもしましたが、例えば自分がやる事業に対して「やったことがありません」という状態だと周りの人は「本当にできるの?」と疑問に感じますよね。経験があるというのは事業の解像度が高いということですから、融資をするときに経験の話を聞くことが多いです。もしスタートアップで全く新しい市場を作るのであれば、その周辺として何をやっていたんだろうか、だからこういう解像度があるんですということをアピールしてほしいですね。

若林:解像度が1つポイントで、高めた解像度を金融のロジックで落とし込んでほしいということですね。

佐藤さん:あとは目的ですね。何のためにこの計画書があるのか。これはVCから出資してもらうために必要なのだろうか。それとも金融機関から融資をしてもらうためなのだろうか。もしくは優秀な人材を獲得するためなのだろうか。このような目的によって出てくるものが変わると思います。計画は1つでないといけないなんてことはなく、たくさんあって良いわけです。その計画が何のためにあるのかという目的から逆算して計画を作っていくのが良いと思います。

資本性ローンにおいて重要なこと

若林:他に資本性ローン特有の落とし穴はありますか。

佐藤さん:ここまでに挙げた点を押さえてもらうこと、そして粘り強く取り組んでもらうことも大切ですね。スタートアップの案件は難しく、公庫の担当者は毎日膨大な案件を扱っているので、足の長い案件をやるのは大変だと思います。その際に、担当者が理解しやすいように起業家側で工夫するのがおすすめです。特にSaaSやテック系は専門用語が並ぶので、伝わりにくい場合もあります。

若林:以前の動画で、Base connectの中辻さんが「融資・資金調達も法人営業だ」ということをおっしゃっていました。カウンターパートである相手のことを慮って、相手の助けになるようにしようということだったのですが、その話に近いことを佐藤さんからも聞かせてもらった感じですね。

佐藤さん:そうですね。他に落とし穴としては融資をした後にきちんと報告をしてもらう必要があるので、スタートアップ初期にCFOがいないのは当然かもしれませんが、経理がままならないと、後で苦労すると思います。

近藤さん:1回借りて終わりではないということですね。

佐藤さん:デットの良いところはコミュニケーションコストが低いことではありますが、試算表を作る、決算書を期日通りに提出するなどは最低限こなしておくべきでしょう。

若林:バックオフィス体制も整っていないと、後々響いてくるということですね。実際、試算表をタイムリーに出せるかどうかは普通に融資を受ける段階でもかなり影響しますから、重要な部分だと思います。

佐藤さん:特に研究開発型の社長だと経理は後回しになっているときがあるので、注意が必要かもしれません。


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注釈

本記事は執筆・公開時点で発表されている情報を解説したものです。以後制度が変更になる可能性があります。

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