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【HANOWA(ハノワ)の新井さんと対談#03】2019〜2023年の「エクイティファイナンスの冬の時代」にスタートアップ調達を経験して

スタートアップの融資を支援しているINQの若林( @wakaba_office )です。

前回に引き続き、私のPodcastに株式会社HANOWA(ハノワ)代表取締役の新井翔平(あらい・しょうへい)さんをゲストに迎え、お話いただいた内容をお届けします。

今回は、2019〜2023年のスタートアップ調達の環境が激動していた時代に、新井さんが資金調達のためにどんなことをし、どんなことを考えたのかなどについてうかがいました。
#2はこちらです。

このnoteは若林によるPodcast「INQ若林のDebt&Alive」をテキストコンテンツとして再編集したものです。Podcastでは、起業家の方や起業準備中の方に向けて、デットファイナンスに関するTipsやノウハウを毎回5分程度にまとめてお送りしていますので、ぜひフォローしてください。

金利の引き上げにより、エクイティファイナンスのバブル時代から冬の時代へ急変

若林:2019〜2023年はコロナ禍真っ只中ということもあり、資金調達を行うスタートアップにとっては冬の時代だったと思います。その中で資金調達に成功したポイントを聞きたいのですが、その前に2019〜2023年の資金調達の環境の変化について振り返っていただきたいです。

新井さん:2018〜2019年は資金調達におけるバブルのような時代だったと認識しています。当時、大阪にいたスタートアップの先輩から「アイデアで1億、プロダクトがあって2億、ユーザーがいて3億、トラクションが伸びて4億」という、ざっくりとした資金調達金額の目安となる話を聞きました。そんな話が出るくらい、2018〜2019年までは日本全体の調達金額や調達数がうなぎ登りで増えている状態だったんです。

2020〜2021年に差し掛かるにあたって、国内での調達金額は8,000億円に到達。しかし調達金額の合計は増えているのですが、件数がガクッと下がったのがこの時期でした。この頃から潮目が変わり始めていると感じましたね。

コロナ禍が収束し始めたことで、アメリカの中央銀行もジャブジャブとヘリコプターマネーをばら撒いていましたが、インフレが加速しそうだということで金利を引き上げたことに端を発して、エクイティファイナンスの環境が手のひら返しのような状態になったのが2022年頃です。これまで10年くらいのスパンで起きてきた環境の変化が、ここ2〜3年ほどで起きたように感じました。

若林:なるほど。ここまでの話を少しまとめます。

2018〜2019年にかけて追い風が吹いていたエクイティファイナンスの環境が、コロナ禍に突入したことでどう変化するか予想できなかったものの、2021年頃には調達金額で見るとピークに達した。しかし調達件数は減少傾向で、金利の上昇によりテックグロース株にエクイティファイナンスが流れなくなり、2022年以降は資金調達が難しい冬の時代が続いているということですね。

エクイティの冬の時代でも資金調達に成功した秘訣1:事業をしっかり伸ばしていく

若林:このような環境でもHANOWAはエクイティ、デット合わせて3億円の資金調達をされたわけですが、成功した秘訣は何だったのでしょうか?

新井さん:やはり顧客のニーズに応える事業をしっかり運営することが最も重要だと思います。エクイティファイナンスの環境は変動するかもしれませんが、その変動と顧客のニーズが紐づいているわけではありません。私たちの目の前にいるのは「人材を確保したいけれど、上手くできない歯科医院」と「働きたいけれど短時間勤務しかできず、それでも働ける医院を紹介してくれるサービスを欲する歯科医療従事者」です。こういった顧客のニーズに応える事業を展開できていなければ、資金調達の土俵に立つことは難しいでしょう。

その上で公庫などの金融機関に月次の成果報告を欠かさず行い、事業が成長していることや試行錯誤していることをアピールすることで資金調達につながると考えています。特に公庫の資本性ローンを借りるときは、将来的に返済が可能なのかをシビアに評価されます。弊社が資金調達できたのは、事業に力を入れ、成長していることを報告できていたからだと思います。

若林:おっしゃる通りですね。赤字のスタートアップが資金調達するには、トップラインを含め事業がしっかり伸びていることが大前提になります。事業が黒字化するかどうか、融資をするかどうか金融機関が判断するのは、一定の規模まで事業が育ち、着実に顧客に受け入れられていることが分かってからが一般的です。そのための資金調達の一丁目一番地は、自社事業に集中して伸ばしていくことだと私も思います。

エクイティの冬の時代でも資金調達に成功した秘訣2:アンラーニングをする

新井さん:3億円のうちの1.5億円を調達した3回目のエクイティファイナンスのとき、特に実感したことがあります。2回目のエクイティファイナンスを行ったのが2021年4月で、3回目までに2年間空けているんですが、その間GMV(*1)で見ると20倍以上伸びたんです。それもあって「3回目のエクイティファイナンスでは強気な交渉ができるのでは」などと考え、ワクワクしながら進めていました。

しかし、3回目のエクイティファイナンスを2022年末に始めて、そのワクワクした気持ちは2021年に置いてくるべきだったと感じました。いわゆるアンラーニング(*2)ですね。2021年までと2022年以降ではエクイティファイナンスの状況が大きく変わったので、この変化を認めた上で、いくら資金調達できるか現実的な数字を改めて見定めた上で調達を進めていくことがとても重要だったのです。

*1)Gross Merchandise Valueの略称。流通取引総額。
*2)持っているスキルや知識のうち、有効ではなくなってものを捨て、代わりのスキルや知識を取り入れること

若林:2020〜2021年のバリュエーションの感覚を知っていたからこそ、2022年以降に資金調達をするのはより厳しく感じられたということですね。

新井さん:金利の変化によってエクイティファイナンスが流れる場所も変わるのだなということを実体験できたのは、ある意味幸運だったと思います。「スタートアップはエクイティファイナンスで資金調達する」という考え方しか持たないのは非常に危ういと感じますし、エクイティファイナンスの環境が変わることも考えて、常にさまざまな選択肢を持って資金調達することが大切なのだと学ぶ機会になりましたね。

エクイティの冬の時代でも資金調達に成功した秘訣3:デットファイナンスも活用する

若林:他に思い当たるポイントはありますでしょうか。

新井さん:エクイティとデットの二刀流で資金を集めるという心構えを、経営者が持つことも重要ですね。常にエクイティファイナンスの調達コストが低い状況はないと思いますし、デットファイナンスの調達コストが下がることもあると思います。状況に応じてエクイティとデットの両方を使えるような体制ができていると、資金調達もしやすくなるでしょう。

最近、銀行の担当者に「行員のみなさんは、どういう契約が取れたら銀行内での評価が高まるのですか」と聞いてみたところ、興味深い話を聞けました。

銀行員は2〜3年おきに別の支店に移動になるので、この2〜3年の間に融資の実行先が成長し、もう1回融資を実行できると担当者としては誇らしく、評価も上がるそうです。

弊社のようなスタートアップは、年々一定ペースで成長している中小企業などとは違い、飛躍的に成長する可能性を秘めています。この点をアピールして、2〜3年の間に企業としての成長を伴った融資が2回以上できることを銀行の担当者に認識してもらえれば、融資に対して前向きに考えてもらいやすくなると考えました。このようなアプローチで取引をすればお互いにメリットを実感でき、より強い関係性が構築できると思います。

ここまでの話は私個人の経験や考え方をもとにした内容ではありますが、重要なのはエクイティファイナンスを進めている最中でも銀行との話を進め、融資を受けられる体制を作ることが、エクイティファイナンスの環境変化への対応につながるということです。

若林:前回、HANOWAが赤字の状態でもデットファイナンスで1億円調達できたポイントを3つお話しいただきました。このうちの3つ目である「銀行担当者との関係性を強化する」ことにつながってきますね。

「どうしたら銀行担当者の役に立てるか」というスタンスで相談をするのは、担当者から見てもありがたいことでしょうし、そのような話をしてくれる企業とは前向きに取引を進めたいと考える人は多いと、私も感じます。

スタートアップでもデットファイナンスを活用できることを発信し、冬の時代を乗り切ったスタートアップの象徴になることを目指す

若林:最後に、今後の展望についてお聞かせください。

新井さん:エクイティファイナンスだけでなく、デットファイナンスも活用した良いスタートアップが生き残り、成長していくことが私にとっても理想なので、弊社の事例をもっと発信したいです。

エクイティファイナンスの冬の時代では一定の淘汰は起きるかもしれませんが、こういった時代だからこそたくましく、したたかなスタートアップが生まれるとも思います。弊社がこの冬の時代を乗り切ったスタートアップの象徴の1つになれるよう、引き続き事業に取り組んでいきます。

若林:新井さん、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

まとめ

2019〜2021年はエクイティファイナンスの調達金額がピークに達し、いわゆるバブルのような状態でした。しかし2022年頃から状況が一変し、冬の時代を迎えることになります。

冬の時代を乗り切るために、株式会社HANOWAでは以下の3つのことを意識して、資金調達を行いました。

  1. 事業をしっかり伸ばしていく

  2. アンラーニングをする

  3. デットファイナンスも活用する

エクイティファイナンス以外の資金調達の選択肢を作る上で、今回の新井さんのお話はスタートアップ経営者の方にとって非常に参考になる内容だったのではないでしょうか。

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