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[エッセイ]ブラウンの彼の話

数ヵ月前、アメリカで高校留学していた時の友達から1年ぶりくらいに連絡が来た。

「最近あの頃をよく思いだすんだ。1番楽しかったし、みんなが恋しいよ。」と。

どうやら彼は最近失恋したらしい。彼女ができてから、彼は仲の良かったグループの子達とは連絡を取る事がほとんどなくなり、私も1年の交換留学だったため、帰国後は段々と疎遠になっていた。

彼について少し書くと、とても陽気でいつもみんなをジョークで笑わせてくれる人。ただ、これは私が彼をまだよく知らない段階で受けた印象であって、17歳の私は段々と想像を越える彼の抱える事情や繊細さについて理解していくことになった。

私は、留学に行く前までは、アメリカでの差別の実態については何も知らず、アメリカは人種のるつぼと言われるくらいなんだから、きっと大丈夫だ。なんて呑気なことを考えてた。が、現実はそんなに甘くなくて。私が通った高校は、白人が96%を占める超田舎の学校だった。
幸い、私自身は、留学生だったこともあり、差別という差別を受けはしなかったけれど、それなりに現地の黒人学生に対する差別は目の当たりにした。

彼は、白人の父と黒人の母を持ついわゆる“ブラウン”で、拙い英語しか話せない私にも明るく話しかけてくれた友達の1人だ。
そんな彼は祖母と一緒に暮らしていた。私が今ままで出会った人たちの中で、彼は1番複雑な家庭事情を抱えていた。母は自殺し早くに亡くなり、父は再婚して別々に暮らしていたのだ。そんな事情も相まってか、私が初めて彼の暗い顔を見たのは彼が父と電話している時だった。彼はあまり多くは語らなかったが、彼は父のことをよく思っていないということだけは見て取れた。

私が彼と友達になってしばらくして、彼に彼女ができた。私はその彼女とも仲が良かったこともあり、すごく嬉かったのをよく覚えている。ただ、この2人の交際はそんなに続かない。理由としては、彼女の父親の存在だった。彼女は白人だったのだが、彼女の父親はブラウンである彼との交際をよく思っておらず、結局2人は破局することになった。

当時の私は、好きなのになんで別れるの?と疑問で、「今の時代でもそんなこと言う人がいるんだね?」と、言うと彼はそんなに珍しいことでもないよ、と仕方ないという風に肩をすくめていた。そんな彼を見て、これが差別か、と噛み締めると同時に仕方ないと流せてしまう彼をなんだか悲しいなと思いながら見ていた。

それから段々と私は彼の繊細さを垣間見ることになる。時々、仲の良い友達同士が集まるグループチャットで「自殺をしたくなる時がある。」「死にたい。」と言うのだ。その度にみんなが彼の話を聞い励ましたりしたものだった。もちろん、そんな話をずっとしているわけでもないし、殆どがたわいもない高校生の会話だったが。ただ、日本でそれまでずっと育ってきて、周りに自殺をしたいと言う人など1人も出会ったことがない私にとって彼の発言はものすごく衝撃的だった。

今思い返すと、彼自身の問題というよりは家庭の事情や差別など、取り巻く環境や社会によって彼は翻弄されていたし、高校生の彼に生きづらいと感じさせてしまう社会って、どんなに辛いんだろう。と想像すると同時に日本で育ちそんな環境とは無縁で育った私はなんて恵まれていたのか、と噛み締める。

1年の交換留学を終え、日本に帰国してからしばらく経った頃、彼に新しい彼女ができたと知った。今度こそうまくいくと良いな、などと考えていたのだけど、それから特に連絡を取ることもなく、数ヶ月後、どうやら破局したらしいと共通の友達から小耳に挟んだ。彼は彼女に振られたようだった。

そして、彼から1年ぶりくらいに連絡が来た。

「最近あの頃をよく思いだすんだ。1番楽しかったし、みんなが恋しいよ。」と。

私もあなたが恋しいよ。何か辛いことが有ったらいつでも話を聞くからね。と返したが、そこから特に長くメッセージのやり取りが続いた訳ではない。

彼は、今元気にしているだろうか。最近、SNSもあまり更新されていないけれど。
久しぶりに連絡してみよう。


#エッセイ #アメリカ #差別 #留学

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