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364 喜の章(5) 3月18日から24日

17日目:2020年3月18日(水)
全国の感染者数 39人
十海県の感染者数 0人

 昨日帰り際にコンビニで買ったカッターナイフで、受け取ったDM3通を開封する。中身はほとんど見ずに、宛名の部分をくり抜いて細かく切る。自分の個人情報もさることながら、彼女の住所と苗字が表示されている。お世話になっている手前、おろそかにはできない。

 午後から雇用保険説明会のためにハローワークに行く。参加者は10人くらい。多いのか少ないのかわからない。制度の説明、いろいろな手続きや書類の書き方について。求職中の過ごし方や、ハローワークの利用方法についての説明もある。2時間ほどの説明会の最後に、受給者資格票が渡された。基本日額は6000円弱。給付日数90日。
 説明会に引き続き職業講習会。失業保険給付に必要な求職活動にカウントされるとのことなので参加する。
 次は4月8日の初回認定日。忘れず出頭しなければならない。

 政府が国民一人ひとりへの現金給付を検討しているという。住民票を移せてよかった。これも彼女に感謝。

18日目:2020年3月19日(木)
全国の感染者数 39人
十海県の感染者数 0人

 雨模様だけれど南風で気温が上がった。今日は、城址図書館が蔵書整理の休館日。AUショッピングモールのフードコートで、ファーストフードのコーヒを何度か買って、時間を過ごす。ここのコートのオムライスも結構美味しいのだけれど、さすがに一昨日特大サイズのお世話になっているので、今日はうどんにしておく。

19日目:2020年3月20日(金)
全国の感染者数 52人
十海県の感染者数 0人

 春分の日。祝日はたいてい出勤していた。仕事が終わらないから。会社に勤めていても辞めてもどうでもいいことには変わりない。
、天気予報は、晴れて暖かい日が1週間ほど続くとのこと。

 ずっと毎日来ていた兄貴からのメールが、ついに昨日は来なかった。たまたまなのか。それとも、ずっと返事がなくて諦めたのか。

 オリンピックの聖火が到着したという...って本気でやるのだろうか?

20日目:2020年3月21日(土)
全国の感染者数 35人
十海県の感染者数 0人

 彼女からLINE。ハガキが届いたとのこと。「早く渡したほうがよさそうなので、よかったら明日の昼にどうか」とのこと。天歌(あまうた)駅改札前で12時の待ち合わせ。

 午後から「マスク巡礼」。成果なし。

21日目:2020年3月22日(日)
全国の感染者数 45人
十海県の感染者数 0人

 待ち合わせの5分前。二人はほぼ同時に改札前に着いた。今日の彼女はカジュアルなファッション。

 彼女について駅の南側に出ると商店街を少し行く。「JUJU」を過ぎたあたりにある蕎麦屋に入る。昼時にしてはやはり空いている。

「わたしは、にしんそばにするけれど、キミもよかったらそうしない?」
 にしんそばっていうと京都が本場だよね。このへんでは珍しいね。
「うん。十海でも出している店が見当たらなくて、ここがわたしの知っている唯一のお店」
 二人ともにしんそばを注文する。

「母方の祖母が関西の出身で、年越しそばはいつも、にしんそばだった。ときどきここに来て食べている」
 懐かしい味ってことかな。
「おつゆが薄口の関西風だと完璧なんだけど、贅沢は言えないよね」

 ほどなくにしんそば二人前が運ばれてくる。
「いただきま~す」
 いただきます。
 そばがほとんど隠れるほどに大きな身欠きにしんの煮つけが乗っかった、温かいおそば。
 甘辛いにしんが、そばの風味とマッチして美味しい。息もつかずに食べる。
「そんなに慌てなくたって、おそばもにしんもどこかに行っちゃうわけじゃないし...わたしもここにいるよ」
 そう言うと彼女はクククと笑った。
 結局ぼくは、ほとんど一気に平らげてしまった。
 対照的に、ゆっくりと味わいながら食べる彼女。ボクが食べ終わって10分くらいして「ごちそうさま」

 一息入れると、彼女がポーチからハガキを1枚取り出した。
「ごめん、見ないようにしたんだけれど、これ、お母さまからだよね」
 申し訳なさそうな彼女の表情に、見とれてしまいそうになるのを我慢して答える。
 気にしないで。ハガキの宿命だなら。
 受け取って見ると母親からのハガキ。相変わらず丁寧な文字でしたためられている。帰ってこれなくても、居場所だけでも教えておくれ、という内容。
「会社辞めて、そのままご実家に帰るつもりだったのかな。あ、ごめんなさい。わたしが口を挟む問題じゃないよね」
 いや、何て言うか、キミにはお世話になっているから。気にかけてくれてありがとう...事情はいずれ話すね。
「わかった」
 店員さんが持ってきた熱いお茶を、二人黙ってゆっくりと飲む。

 国内の感染者数が、累計で1000人を超えた。

22日目:2020年3月23日(月)
全国の感染者数 39人
十海県の感染者数 0人

 改めて母親のハガキを目にする。兄貴にメール。ごめん、しばらく帰れない。元気でやっているからと、おふくろに伝えて欲しい。
 ひとこと、わかった、とだけの返信メッセージ。

 夜遅くになってコインランドリー。24時間営業だからか、この時間も人がいる。

23日目:2020年3月24日(火)
全国の感染者数 89人
十海県の感染者数 0人

 相変わらず人通りの少ない街を「マスク巡礼」。今日も「福音」は無し。

 東京オリンピック・パラリンピックの1年延期が決定したらしい。国民が必要なマスクすら用意できない状態では、当然といえば当然だろう。
 ただ、パラアスリートの人たちには気の毒だと思う。オリンピックとは比較にならないくらい恵まれない環境で、頑張っておられるのだから。

 毎年GWに開催される「天歌まつり」も中止が決定した。天歌城址公園の天満宮から出発、城下町エリア、文教エリアを通って天歌川の河原まで練り歩く武者行列が、今年は見られなくなった。

<つづく>


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