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小説「バスタ―ユニオン」

(注:先にプロローグを読んでください!)
第一話 獣人の扱い Ⅰ

気候は穏やかで太陽が出る温かい気温の昼頃。
俺は家事が終わって獣人たちの熱い戦いを画面越しで見ていた。
そもそも獣人と言うのは高校の教科書では日本を襲った悪人であるとされている。
しかし実際のところ、人間では不可能な速さや力を持つ獣人がいるため、このようにテレビで取り上げて有名になる者もいるのだ。

「そこだ‼いけっ‼」

 昔のスポーツ競技は人間がしていたらしいが、俺たちの生きる時代は獣人がしている。
 何故なら人間より獣人の方が盛り上がり、それこそが地球人にとって当たり前だからだ。
 つまりは人間とは比べ物にならない運動神経を持つ彼らを見物にする。それこそがこのスポーツ競技を運営している目的なのである。

また、このような考えを持つ人類はスポーツだけにこの制度を適用しているわけではない。
接客業、生産業、洗浄業、輸送業など。
政治活動以外は全ての仕事を獣人が行っている。
だから、先進国も発展途上国も獣人が労働して経済を回しているのだ。
 その結果、獣人が働いた金は税金として地球人に贈与として渡されている。
 どれくらい負担しているかは知らないのだが、政府によると獣人の給料は地球で暮らせる程度で負担させているらしい。

「元信、お前もオッズ賭けるか?」
「やめとくよ。どうせ勝てないし」

 少子高齢化時代にお年寄りが多くいた日本は、今や獣人の手によって好循環になっている。世界中の金融機関は彼らが居ることで、月間の手取りは一般人であれば、およそ四十万。富裕層はその十倍は貰っている。

 そして、民間銀行も獣人との契約書を提出すれば、例えギャンブルをして借金を抱えても、半分払う制度となっている。
 ただ、借りている金額が大きければ、刑罰を食らい手取り金がマイナス分差し引かれる。なので、贈与分をよく考えて使う人もいれば、生活費を多くの獣人と締結して賄う人間も居たりする。
 この世界では、それが当たり前なのだ。

「まったく。お前は賭け事に関しては付き合いが悪いなぁ」
「そういうお前は獣人と契約しすぎだ」
「いいんだよ。どうせ俺のお金になるなら人数なんて関係ない」

 信じられないだろうが、このようなクズが生まれるのはこの社会では常識である。
 所謂、獣人と契約したヒモと言うやつだ。

「お前、これ以上は獣人に恨まれるぞ」
「大丈夫だって。ちゃんとご飯は与えてるし、ここは獣人が働いた給料を貰うだけで暮らせる国だからな」
「・・・・・・」

 もう一度言うが、これが今の常識である。
 正直な話、この世界で俺の様に獣人と契約せずにお金の使い方を考える奴は少ない。
 獣人との契約は地球に住んでいれば誰でも必要であることだ。

「本当に賭け事をせずに獣人と契約してない人間はこの世界でお前だけだぜ?」

 それでも賭け事を関わらないのを貫いているのはある人物との約束があるからだ。
 俺の幼い頃に旅行で様々な国に連れたお爺ちゃん。
 一人暮らしをするといって絶縁した父が唯一尊敬しているお爺ちゃん。
 そのお爺ちゃんが幼い頃に亡くなったので記憶が鮮明ではないが、とても優しく俺に気を遣ってくれた。
確証はなく断片的な記憶であるが、それだけは今でも覚えている。

「•••••俺は約束があるからな」
「またそれかよ。覚えてないなら守る必要なくね?どうせ赤の他人とかだろ」

 もちろんその可能性はある。理由は彼の言う通り、赤の他人で血も繋がってない人が子供の俺と指切りをした記憶かもしれないからだ。
 しかし、俺はあの・・・・・・
「・・・・・・」
「どうした?」
「いや別に」

と、友人に怪訝な表情をされて俺の顔をマジマジと見る。
そうだ。この話はするなと親に聞かされたんだった。
俺は焦りを隠すような表情をして、何も言っていないと嘘をつく。

「?そうか。まあ、いいけど••••••」

口が滑りそうになる危険を回避しほっと息をつく俺。
しかし彼は「それよりも」とまるで今の話が気にもならない様子で自分の会話を続ける。

「一度経験すれば楽しさが分かるって。な?」
「••••••断る」
「一回だけでいいから。な?」
「何度も言うが断る。そんな金の使い方は常識的じゃない」

 そう言い聞かせた発言に友人は付き合い悪いなぁと不満になる。
 ここまで何回も断るのだから、この日本の中で上位にランクインするほど友達が少ないとよく皆に言われる。それでも俺は賭け事が好きじゃない。(ただし宝くじは好きだ)

 地球で獣人が汗水垂らした給料から贈与分を差し引いた金銭が俺らの元に振り込まれる。それは人類にとってありがたい事なのだ。
だから、そんな金を無駄遣いしないのが当然の思考だ。

「そうか…なら、俺は別の奴と行くわ」
「おう。ごめんな」

 そんな付き合いの悪い俺は自宅にいた友人に「行ってくる」と別れを告げて街へ出かける。


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