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小説「バスター・ユニオン」

第一話 獣人の扱い Ⅵ
 とある地下にある広間。そこではバスター・ユニオンの兵達が列を作り並んでいる。

 その列には先程の紫苑を追いかけた男が先頭で直立しており、その列を上から見下ろすようにガラス越しで見る男がいた。
 その男を一言で表すならお金が大好きなクズである。

「おはよう諸君。今日は『バスター・ユニオン』開設から百年経った記念日である」

 堂々と高らかに宣言するその姿は、自分の組織に誇りを持っているように見える。
 ただ、宝石の指輪を付けているうえ、派手なヒョウ柄のスーツを着ているのを見れば、複数の獣人と契約を結んでいる金を持つクズだと理解できる。

「我々は百年経っても、この国を守り続けた。これは獣人が地球人を恐れている証拠である。そう、獣人こそ我々に従うべき存在だ‼」

 ただ、この場では地球を守りたいという意思が見える。
 それに加え、BUの兵達は賛同するように首を頷く。

「これからも地球を守る希望だと忘れない様に」

 男が立ち去ると皆は敬礼をして、まるで立派な社長のような正しい姿勢をする彼に尊敬の目を向ける。そして、ボディーガードを連れて、次のスケジュールを確認した後、突然笑いだす。

「いやぁ、やはりトップとは良いものだな」

 やはりゲス野郎であった。彼は一般兵たちには見せていない感情を露わにする。

 この人物の名は上田銭太。バスター・ユニオン二代目総長である。

「おい、今日の予定を教えろ」
「は、はい。午前は政府との会議。その後、市民館でまた百年記念の演説があります」

 彼の隣にいる黒いスーツを着た男は時間帯について詳しく説明していた。しかし、上田は全く聞かずに、何故か携帯端末を見ていた。

「あ、あの。上田代表」
「ん?なんだ?」
「なっ、何をしていらしゃるのですか?」
「ああ、私の側室が来てほしいと騒いでいてな」
「は、はぁ……」

 見た目と顔で女癖が強いのが一目でわかる発言だ。もう少し自重しろと言いたくなる。
 眼で女性を見る視線の送り方、その視線で分かる好きな女性の体部。傍から見れば、そいつがこの男の好きな女性だとすぐに判断できる。

「ああ、そうだ。キミ」
「な、何でしょうか?」

 その時、返答に対して真面目に答えたスーツの男は、突然に拳銃を突きつけられて脳天を撃ち抜かれる。ホテルのカーペットや鍵ドアは真っ赤な血で染められてスーツの男は意識を失って倒れた。

「まったく。使えない男だ」

 ゴミというのは使用済みになれば捨てる。それは人も同じ。
 その残虐な思考を持つ男が上田銭太である。

「お前ら処理しておけ。死体が生臭くなる」

 社長の指示にボディーガードは首をコクンと頷き一言も口に出さず黙って従った。
 上田代表。彼の家系はバスター・ユニオン初代総長の死後、初代の補佐から二代目として引き継ぐことになっていた。そのため、現代のバスター・ユニオンは初代の子孫ではなく上田家の方針に従うことになったのだ。上田銭太はその三代目である。

「さてと、たしか次は政府との会議か……面倒だから休むとしよう」

 大事な対談を放り出す。これは珍しい事でもない。
 むしろプライベートの方が大事にするのが上田銭太の性格である。

「それじゃあ、今日は遊郭にでも行こうか」

 彼は心を弾ませて遊郭へと移動する。その時だった。

「上田代表‼やはり此処にいましたかっ」
「……誰だ?」
「私はバスター・ユニオン所属の者です‼ご報告することがあります‼」
「そうか。用件は何だね?」

 焦ったように上田に駆け寄る彼は緊急事態だと報告。
 それほど深刻な状況なのだろうか。それとも本当に小粒ほど小さい要件なのか。一先ず即刻殺そうとは考えずに耳を傾ける。

「はい‼実は遊郭から逃げだした獣人が我々地球人の住まいに逃げ込みました‼」
「……なんだと?」

第一話 獣人の扱い Ⅶ
 地球人の住宅は何処にでもある。
 だが、地球人と獣人、彼らの住まいを比べた時に異なっているのは家の質だ。
 貧困層、富裕層。貧富の格差の大きさが違う我々と獣人で比べると、獣人の方が生活費を繰り出すのが苦しい。
 そして、乾紫苑は獣人にも関わらず男を惑わす美少女。遊郭の娼婦にスカウトされた若い女の子である。

「で、でもアイツに関わったら、俺が獣人を匿ったって告発されるって」

 遊郭で指名された可愛い獣人を救い出す危険性。
 確率的にはとても高いし、候補に選ばれた獣人を救うのは傍から見れば正義だが、同時に地球人に対する謀反でもある。それだけは本当に嫌であるし、地球人として安定的な人生を過ごす方が平和なのである。

「よし、今日は遅いから寝るか」

 俺は布団へと向かい横になって体を倒す。
 明日も学校があるため遅刻する訳にはいかない。
 と就寝の準備をしていた時に、誰かが俺の家にあるインターホンを押してきた。……夜中の一二時頃にだ。

(誰か知らんが、時間帯考えろよ)

 俺は面倒なのでまた明日来てもらおうと無視する。
 ただ、30分間ほど無視をしても2分間隔でボタンを押してきた。
 お陰で寝つくことができなかった。

「たくっよぉ。こんな遅い時間に誰だよ」

 俺は諦めてテレビカメラを見に行くことにした。
 そこに映っていたのは黒いスーツを着た胡散臭い男だった。
 何かの宗教勧誘だろうと踏んだ俺は取りあえず追い返そうと用件だけ聞くことにした。

「はい、何でしょうか?」
「あ、初めまして。わたくしバスター・ユニオンの関係者の者です。少しお時間頂けませんでしょうか?」
「……結構です」

 俺は直ぐに画面を消して寝室へと戻る。
 しかし、またもやあの近所迷惑な騒音が寝室の部屋まで響く。

「少しお話だ————」
「いいから早く帰れ‼」
「ですが—————」
「聞こえなかったか?お前に用はねえ‼」

 本当に面倒な事態になったらしい。

(クソ、やっぱり関わるべきじゃなかった……)

 正体が割れた以上この家から出て行く以外の選択肢はない。
 すぐに脱走の準備をすると寝巻から私服に着替えて走りやすい運動靴を履く。
 だがあの胡散臭い男もドアの鍵を開けて部屋に侵入をして、知らない間に三人ほど増えていた。

「待てっ、逃げるな‼」
「ウルセェ‼鬱陶しい奴らめ」

 家の中は奴らが荒らして机も脚が折れてひっくり返る。
 最早ゴミが散らかって無法地帯。俺の自宅なのにとショックを受けるも逃げていく。

「クソ、今すぐ追え‼」

 スーツの男は連れの衆に命じて俺を追おうと捜索をした。
 隅から隅まで逃げ道は早急に捜索して、スーツ男の指示で通り道を封鎖すると俺を囲って、正義の組織だと主張する兵隊たちが道を塞いでいた。
 だが、そんなチンケな策で捕まる男ではない。

「おい、あの腰抜けはどこに消えた?」
「それが何処にもいなくて……すいません」
「そうか、逃げ足の速い奴だ」

 これではトップのあの人にも殺される。彼らは獣人を匿った男を確保できなければ殺されると内心焦っていた。

「もっと隈なく探せ。まだ遠くには消えていないはずだ」
「了解いたしました‼️」

 スーツ男の指示で兵は敬礼をして部下たちに散策を命じる。
 そして、『一体どこへ消えた?』と頭を抱えて地図でルートの確認をする。


 一方、その上手く撒いて逃げ切った俺は何処に消えたかというと。

「よし、追手は来ていないな」

 祖父から教えてもらった裏ルートに逃げ込み、自分しか知らないある場所にいた。
 この道を通った先にある建物。そこには子供の頃に隠れ家として使っている秘密基地があり、何年振りかは覚えていないが久しぶりの光景であった。

「懐かしぃ……よく残ってたな」

 夢が詰まった宝箱のような建物。幼い孫ができたら、リフォームをして連れていきたい。
 そして何故か分からないが、長年の時が経過した木造建築を見ると、消えかかっていた古い記憶が沸々と蘇っていた。そして、いつか将来の末裔にまで代々引き継がれて子供の憩い場所になる。ついそんなことも考えてしまう。
 子供がいる前提で話をするなって?自分の未来は誰にも分からないだろう?

「よし、今日はここで待機だ」
「そうね。ここなら誰もいないし安全だわ」
「ああ、そうだ……?」

 何故だろう?一人しかいないはずが、もう一人いる気がしてならない。

「い、いいや。勘違いだ」
「いいえ、勘違いじゃないわ」

 そ、そんなわけない。俺は取りあえず人がいるかを確認する。
 すると、その隣には一度会ったことがある獣人がいた。
 関わりたくないと言い放して、面倒な厄介事を俺に持ってきた獣人。
 扇風機の前にいる時のような風圧を尻尾で切る女の子。

「乾紫苑⁉」

 俺は状況の理解が遅れて、頭の処理が追い付かないので腰を抜かした。

「何かしら?そんな見つめたら気まずいわ」
「お前、何で此処にいるんだ⁉」

 意味が分からない。裏ルートの存在を何故知っていたのかも気になるし、どう考えても状況を飲み込むのが早すぎる。もう恐怖で前身から鳥肌が立ってきた。

「愚問ね。もちろん逃げるためよ」
「いや‼俺が言いたいのはそういう事じゃない‼」

 一回だけ冷静に考えたが、やはり納得をして受け入れる状況ではない。
 そんな様子を見た彼女は深い溜息をついて説明するのも面倒臭いと表情を露わにする。

「別に何でもいいでしょ?」
「いいや‼全然、全く、絶対に納得いかない‼」

 俺は顔を近づけて、誰でも納得のいく説明を追求するように問い詰める。
 これ以上関わるのが嫌だから逃げようとしていたが、即座に反応をして彼女の腕を掴む。裏道を知る者以外がここから逃げ出せば、この地下ルートが発覚するからだ。

 そのため俺の尋問のような質問攻めに腰を折ろうと諦めた彼女は不服そうにするも掴まれた腕を解いて答える。

「……はぁ、分かったわよ。一から話すわ」

 そして、自分の知っている情報を話すと承諾した。

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