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【映画備忘録#2】ザリガニの鳴くところ

「ザリガニの鳴くところ」という本をご存じでしょうか。

以下、簡単なあらすじ。
ノースカロライナ州のとある町で殺人事件が発生する。足跡は残っておらず、決定的な証拠もない。そんななか、容疑者と挙げられたのは、沼地の少女と呼ばれ蔑まれている主人公カイアだった。
実は、カイアは幼い頃に一家離散の目にあい、たった一人で沼地へと残されてしまっていた。読み書きも出来ない。友人もいない。そんなカイアの成長と苦悩、恋物語。
カイアにいったいなにが起こったのか。そして殺人事件の真犯人とは……。

著者(ディーリア・オーウェンズ)が動物学者なこともあって
豊かな湿地と多種多様な動物の描写に興味を惹かれ、そこに人種差別や偏見が組み込まれたストーリーは読んでいて胸が痛くなると共に、深まる謎が魅力的な本です。
私はオーディブルを使用したのですが、涙腺が崩壊しかけた作品です。
そんな本作を原作とした映画を観ました。

キャッチコピーそれでいいのか?

大きなネタバレを出来るだけ避けて好きなところを紹介していきます。


沼地!

「ザリガニの鳴くところ」の舞台はノースカロライナ州の沼地なのですが、原作で描かれる美しい沼地をしっかりと再現されていました。冒頭、湿地の空撮から始まるのですが、蛇のように蛇行し入り乱れた川や、閉鎖的でじめじめとした沼地、そしてどこまでも伸びる孤状の砂浜は、原作を読んでいて想像していた情景でした。
渡り鳥の飛来も、舞い上がる色とりどりの葉は、それだけで絵になり、画面を彩っていました。
特にお気に入りなのが、(紆余曲折あり)カイアが警戒心を高めるシーンで、湿地に不穏な雰囲気を纏わせた所ですね。僕たちが想像するような恐ろしさ(正体不明の鳴き声、全てが敵だと怯えてしまうあの瞬間)が、それまで美しさを強調されていた沼地に表れるんです。美しくもあり、残酷でもある。幼少期のカイアにとって唯一の友人であった沼地の残酷な一面です。綺麗でしょ!だけで終わらせないのは、この物語の根底に近い物があると思います。


人情!

母もいない、父もいない、きょうだいもいない。カイアは自力で生きる術を身に着けていきますが、それでも限界はある。そこでカイアに手を差し伸べるのが、商店を営んでいる黒人のジャンピン夫妻なんです。この夫妻が良い人過ぎてさ!マジで好き!
時代設定が1950年代なので人種差別が根強くのこっている時代です、ジャンピン夫妻もかなりの差別的扱いを受ける描写があります(劇中ではカットされていましたが)。夫妻も余裕があるわけでもないでしょう。それでも温かい心でカイアのことを助ける。その姿がカイアを取り巻く事情や沼地とは対照的でグッとくるんです。


恋ロマンス!

カイアの前にある男の子が現れます。テイトと名乗る男の子は、まだ家族がいたころのカイアを知っていて、彼女の手助けになろうと近づいてくるわけです。最初は、鳥の羽の交換から始まり、読み書きの出来ないカイアの先生となり、恋人となり……。孤独のため心の殻を閉じていたカイアが殻を開き、乙女に、そして女になっていく。しかし、そんなにうまくはいきません。不意な出来事でテイトと別れてしまうことになります。傷心のカイア。そこに現れたのは、物語の中心である「沼地殺人事件」その被害者なのです……。
原作でも感じましたけれど、女と男の違いを際立たせるような表現が印象的でしたね。キラキラではなくヌルヌル。生温いラブロマンスではなく、もっと生物的な、それこそ交尾に近いのでしょうか。


出版社との出会い

個人的にグッときたシーン第一位は「カイアが出版社に認められる」ところですね。沼地で育ったカイアだからこそ、孤独を耐え抜いたカイアだからこそ、書ける内容を認められ、それがお金になっていく。それが嬉しくて堪らないんです。うちの娘も大きくなったなと、謎の父親心すら芽生える始末で……。


まとめ

原作が綺麗に2時間に纏められていました。美しい自然描写は映像という体を得たことでさらに鮮やかに、カイアの成長は容姿の変化が加わることで実感を帯び、ミステリー要素も損なわれず、満足度の高い作品となっています。

この作品はハッピーエンドではあります。
ですが、アナタも観終わったあとに「冷たいナニカ」を感じるはずです。
それは沼地の温度か、それとも別の温度か……。
自然界で、弱者は強者を殺すために様々な策を弄するのです。

ぜひ観てください!
もっと言えば、原作を読んでいればさらにさらに楽しめるかと!

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