夏の終わりに③

注意)以下、淫猥18禁表現があります

駐車場はほぼ満車状態。浜辺へ向かう道も人でごった返しているけど、彼女が優雅に歩いていくと周りの人々は彼女が近づくにつれて自然と道をあけ始める。明らかに彼女からは不思議なオーラが放たれていた。彼女の豊満なスタイルにほぼ極限まで小さくされた水着は周囲の光を反射して輝いている。その光がまるで時の流れをゆっくりとしたものに変えて、彼女の周りだけがゆっくりと動いているように見える。彼女のまわりだけが見えないバリアに貼られているかのように、混雑したなかにぽっかりと一つの空間が出来上がる。

その空間の中から彼女が僕に声を掛けてくる。

「ほら~早く行こうよ~!!」

そういいながら左手を掴まれると空間の中に引き込まれる。その空間のなかに入ってしまうと恐ろしいほどの視線が突き刺さる。老若男女年齢を問わず周りにいる全員の視線がその空間に注がれる。いや正確には空間ではなく、彼女を見ている。後ろから見るとほぼ紐しか見えない水着、前から見ても乳輪にほんの数センチしか加えられていないトップスと、太ももを閉じると見えなくなってしまいそうなパンツ。加えて彼女と一緒にいるこの人間は何者?という視線。

彼女は左腕に抱き着きながら見上げるようにして笑みを漏らす。

思わず手にしていたテントや荷物をその場に放り出して、彼女を押し倒して襲ってしまいたい気分になるけど、周りからの突き刺さるような視線にふと我に返る。

「ほら、、、みんな、、、見てるよ、、、」

そう言うと、彼女はそっと顔を近づけて

「、、、それが良いんじゃない!」

小さく囁いた。

海水浴場へと続く道、二人だけの空間はずっと続いていた。浜辺の一角についてもその空間は変わらなかった。周りでは海に向かって走る人、子供達の歓声、波の音、海の家から聞こえる音、様々な音や声が入り混じる。カラフルなビーチパラソルが空を覆い、その下では楽し気な会話が繰り広げられている。

気が付くと彼女は黙ったままテントを手に取り、組み立て始めた。僕も彼女の動きを見ながらテントを張るのを手伝った。テントは一人用のソロサイズ。二人で入るにはちょっと狭い。でも浜辺で休憩するには丁度いいサイズ。場所もそんなにとらないから組み立てるのはあっという間だった。

海辺に埋め尽くされたビーチパラソルの中にテントが一つ。先程までの隔絶された空間にはテントが加わった。テントの前に敷いたシートに彼女が座ると自分も隣に座った。あいかわらずテントの周りは人が行きかうけれど、先程まであれだけ喋っていた彼女は一言も言葉を発しなくなった。

まるでこれから起こる出来事をわかっているかのように。

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