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【夜中に見た鏡の恐怖】

  

 ここは大町界隈にあるカクテルバー「Reiko」です。


 雅夫くんは水割りを一気に飲み干して、自分の身に起こった恐怖体験を話しはじめました。

 

 これはお盆に実家に帰った時の話なんだよ。

 光治は知っているけどオレの実家はけっこう金持ちだったんだよ、昔の話だけどさ。だから家は古いけど、それなりに大きな作りなんだ。

 

 オレの部屋は2階の西側の奥で、トイレは東側奥にある。その東側の突き当たりには大きな鏡があるんだ。

 

 小さい時から死んだじいさんに、「夜中に鏡を見ないことだ、時々この世の物じゃない物が写っているからな」と言われてたんだよ。


 その日は夜中にトイレに行きたくなって目が覚めた。そして部屋を出ようとした時に、じいさんの「夜中に鏡を見ないこと……」という話を、急に思い出したんだ。

 

 幸い廊下には手摺がついていて、それを伝って歩けばトイレの戸にたどり着くことをオレは知っているから、手摺を撫でるようにしてトイレに行ったんだ。

 

 目をつぶってさ。


 スッキリしてトイレを出たオレは、じいさんの言葉を忘れてうっかり鏡を見てしまった。

 

 

「ヤバい」って思ったけど、鏡にはオレ以外なにも写っていなかった。



「なんだじいさん、大丈夫じゃないか」


 オレは死んだじいさんに話しかけながら部屋に帰ろうとした時、物凄い違和感があった。

 

 背をむけた鏡に変な感じがしたんだよ。


「なんだろう」と思って振り返ると、鏡の中のオレが正面からオレを見ていたんだ。

 

 オレは振り返ってたんだから鏡のオレも振り返っているはずなのに、普通に立っていたんだ。


 あまりに急なことだったから声を出すことも走って逃げることもできず、オレはブルブル震えながらやっとの思いで部屋に入って布団の中に逃げ込んだ。

 

 

 その後は一睡もできずに朝まで震えていたんだよ。

 

光治:そりゃ怖かったろうな…… でも、寝ぼけてたってことはないのか雅夫。

雅夫:お袋とおんなじこと言うんじゃねぇ、話はまだ終わってねぇよ。


香織:え! 雅夫くん、どういうこと。



 オレは朝早く起きてきたお袋のところに行って、昨夜の話をした。


「お前寝ぼけてたんだよ」って言うお袋に頭にきて、「なんでもいいからあの鏡なんとかしろよ」と言った。



「お兄ちゃん本当に寝ぼけてたんだ」

 

 オレの声に起こされたと言って起きてきた妹が、頭をかきながらオレに言ってきた。

 

「オレは寝ぼけてたわけじゃねぇ、本当に見たんだ」って言ったら、「じゃ、もう一度見てきたら。あの鏡、この前私が壊しちゃったのよ」って妹が言うんだよ。

 

 ビックリして慌てて2階に行ったら、鏡があった場所が真っ白な壁になっていたんだ。

 

 と言って、雅夫くんの話は終わりました。


「え!」と言ったきり、光治くんも香織さんも絶句していました。

 

さて、みなさんの家にも鏡がありますよね。

夜中は見ない方がよさそうですよ……

 


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