織川くんの下日記 二日目
四月末。
これからゴールデンウィークに入ろうとしている世間。ニュースでは大抵、高速道路の渋滞情報とか観光地のこととかを取り上げていた。
もちろん、高校生になったので、そういう世の中の動きだとか、世界情勢だとかに興味を持った方がいいのだろう。それはわかる。
しかし、俺はそんなことよりも、もっと大切な事が気になっていた。
『息子の身長はどれくらいかと』
ことの発端は一時間前のこと。
自室にて、タブレットでいつもの動画配信サービスのバラエティ番組を見ていたところ、ある街頭インタビューで女性がこう言っていたのだ。
『セ◯レには十六センチ以上欲しい』
これを聞き、俺は我が息子のサイズが気になって仕方がなかった。もちろんこの情報は正しいとは限らないし、あくまでこの女性の主観的な主張であるに過ぎない。
しかし、俺はどうしようもなく興奮していた。こういった女性が存在するという事実に。まるで十六センチ以上あればしてくれるみたいな口ぶりじゃないですか。
と、いうことで早速スマホを片手に息子の成長を促す栄養剤をチェックする。‥‥‥よし、いい加減に育ったな。
「定規、定規は‥‥‥あった」
机に散乱していた文房具のなかに定規を見つける。
そして、包みを外し、あらわになった息子の隣に定規を合わせると‥‥‥
「十三センチ‥‥‥だと!?」
まさかの三センチも足りてなかったのだ。普段息子の世話をするとき、もっとあるものだと思っていた。それはただの幻覚だったのか。
確かに日本人男性の平均は約十三センチだと聞く。しかし、しかしだ。
平均ということは、それが普通であり、特別ではない。つまるところ、求められるような長さでは無いということだ。
そんなはずはない。
諦めきれず、もう一回定規を当ててみると、あることに気づく。
「この定規‥‥‥ぴったり0センチからではない!?」
定規の端っこは少し間があってから0の表記があった。大丈夫。まだ可能性は残されているということだ。が、しかしこれ以上はリスクが高いのでやめておこう。多分だけどこの定規の隙間はパッと見、三センチ以上あるから。絶対そうだから。
「‥‥‥まだ高校生だから」
そんな言い訳をしつつ、虚な目でスマホを見る。すると、あることを思い出す。あの女性はこうも言っていた。
『やっぱサイズもですけど硬さの方が私は欲しいですかね』
そこで俺は片手でとあるサイトを開いた。
『やはり硬さは重要!?あなたの息子の硬さをセルフチェック』
そこにはこんな旨の文章が。
『やはり女性が気にするのは長さより硬さの方が多いという事が調査で分かっています。その他にも角度や頭の大きさも重要らしいです。』
そうなのか。で、肝心の硬さはどのくらいがいいんだ?
『硬さは、硬ければ硬いほどいいんですね!』
だからそれってどれくらいだよ!
結局はっきりしないサイトを閉じて縮んでしまった息子をしまう。
「はぁー‥‥‥」
寝るか。
とりあえず息子のことは置いておこう。
そんな機会ないだろうし。
気分はまるで賢者のようだった。
ベッドに寝転んでいると窓から桜の花びらが風で散っているのが目に入る。
『いつか、できるといいね』
まだ花を開かず風になびかれている芽が、そう語りかけてきているようだった。
今年もまだ、始まったばかりである。
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