旅人X

 (以下は短編のフィクションです)

 旅人X「私の名はエックス。宇宙を旅している。」
 人間A「急に話しかけてきて何なんですか一体。宇宙を旅?一体どうやって。」
 旅人X「私は自分を自由に分身させることができる。そして分身させた存在が更に枝分かれして宇宙に散らばっていった。君は枝分かれした先のほぼ末端程度の存在だ」
 人間A「末端とは失敬な!あなたはどの立場から言ってるんですか?見た感じ普通の中年のおじさんじゃないか」
 旅人X「君よりも遥かに進化した存在だ。私は自由に姿を変えることもできるのだ。カラスでもアリにでも石ころにだってなれる。あと何でも作れる。すごいだろ?今は君に気付きを与えるためだけにこの姿をしている。」
 人間A「気付きって何?さっきから支離滅裂だよ」
 旅人X「よく気付いた、宇宙とは支離滅裂に存在が放り込まれたカオスでもある。君も時期がきたら私の立場に到達するよ、だいぶ先だけど」
 人間A「そこまで言うなら教えてくれ。俺の人生は悲惨でとことんついていなかった。その上最近会社をクビになり言葉にする気力ももうない。この先に救いはあるのか?」
 旅人X「最後は必ず救われる。と言いたい所だが断言できないし、既に他人より救われていても気付けないまま死ぬ場合もある。仮にひとつ例を上げると、君がいい旅夢気分のような旅行の道中にアリを踏み潰したとしよう。そのアリは他のアリと比べてハッピーだったのかどうかなんて推し量ろうとする人間がいるだろうか?踏んだことにすら気付かないだろう」
 人間A「なんだか雑な例えで分かりにくいな、、要するにバッドエンドもあるって事か?ふざけるな!」
 旅人X「最初に分身した存在だってそこまで考えちゃいないさ、おそらくね。私だって分身が更に分身したあとの存在だ。」
 人間A「分身し始めた目的は何なんだ?自分の分身にバッドエンドの物語を押し付けるんじゃねえ!アンタより上の存在とは話せないか?」
 旅人X「それはできない、アリと人間が意思疎通できないようなものだ。最初に分身した目的は我々も正確には掴めていない」
 人間A「アンタと話すんじゃなかった!最悪の気分だ。気付きをくれるんじゃなかったのか?」
 旅人X「君は全体像にすら気付いていない。自分だと思い込んでいる自分は本当の自分じゃないんだ。取り違えているだけなんだ。」
 人間A「じゃあ本当の自分はどこにいる?」
 旅人X「分身する前、枝分かれする前の自分さ。」
 人間A「うーむどこかで聞いた事あるような話だな。それでは十分に納得はできないな。今の俺を救ってくれ!そうだ!何でも作れるのなら、金を1億くれ!」
 旅人Xはおもむろに交信機のようなものを取り出し、空に向かって喋りだした。
 旅人X「えーこちら太陽系管轄部第七営業所のXだ。今回の猿はすでに手遅れだ。任務失敗だ。しかしながら数十億もの猿共をひとりひとり気付きへ導くのはあまりにも効率がわるい。隕石でもふらせたほうが合理的ではないか?…..え?お前はもうクビだって?そんなあ、、」
 旅人Xは交信を切り険しい顔になったと思った瞬間、カラスに変身し空に飛び立っていった。
 
 
 

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