見出し画像

「最近の若い人は○○だから△△すべきだ」の不毛

中小企業診断士のフクダです。
これまで、市場が縮小している業界の関係者にお話を伺うと、共通してよく聞かれる言葉があったのです。今日はそのお話。


日本茶業界の悩み

狭山茶をご存知でしょうか。「色は静岡 香りは宇治よ 味は狭山でとどめさす」という有名な茶摘み唄があります。
埼玉県の狭山丘陵を中心に広がるお茶の産地で、埼玉県の地域ブランド認知度ランキングでは、深谷ねぎと並んで常にトップクラス。
ところが近年、お茶の価格が低迷し、お茶の栽培をやめてしまう茶農家さんが増えています。これは狭山茶に限ったことではなく、全国的な傾向です。

急須でお茶を淹れる人を増やせるか?

ある茶園さんにお話を伺ったときのことです。ご主人からこんなお話がありました。
「最近の若い人は急須でお茶を淹れなくなった。ペットボトルのお茶しか飲まない。子供の頃から急須でお茶を淹れる習慣を教えていくべき。」

確かに日本茶は急須で淹れたほうが美味しいです。子供の頃からお茶を淹れる家庭に育った人は、急須でお茶を淹れることに抵抗が少ないでしょう。
でも、「あ、これ前にも何度か聞いたやつだ。」と思いました。

「最近の若い人は○○だから△△すべきだ」の不毛


以前、コメ農家さんにお話を伺ったときのこと。
「最近の若い人はご飯を食べなくなっている。日本人の食生活の基本はコメ。パンよりもお米をもっと食べるべきだ。」

昔、出版業界にいた頃のこと
「最近の若い人は本を読まない。マンガやゲームばかり。子供の頃から本を読む習慣をつけさせるべきだ。」

さらに、節句人形を作る職人さんの会合にお邪魔したときのこと。
「最近の若い親は節句を祝う習慣がなくなった。だから節句人形が売れなくなった。日本人なら節句を祝う文化を継承すべきだ。」

「最近の若い人は○○だから△△すべきだ」
下降線を辿っている業界で、何度もこういったお話を伺いました。ときには「政治が悪い」「学校教育が悪い」「親が悪い」といった大括りの批判になることも。
そのたびに「んんん…?」と思っていたんです。
それ、業界の人達がいくら頑張ってもコントロールできないことでは?

自分たちでコントロールできること、できないこと

わたしたち中小企業診断士は、コンサルティングの最初の最初で、その企業を取りまく環境分析をします。有名なのは「SWOT(スウォット)分析」と呼ばれるものですね。

自社にとってのプラス・マイナス要因を内部要因・外部要因に分けて「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」として書き出し、分析するものです。

内部要因と外部要因の違いは「自分たちでコントロールできるか、できないか」。
中小企業の場合、たいていは「弱み」と「脅威」だらけです。だから、数少ない「強み」を武器にして「機会」に乗っかることが基本戦略になります。

では、最初にお話した「お茶」「コメ」「節句人形」の事例はどうでしょうか。

世の中の流れを止めることはできない

日本茶(リーフ)の世帯当たり消費量は、この15年で3割ほど減っています。女性の社会進出が進んで、いわゆる「お茶汲み」の機会は減りました。昔は来客時や会議、朝やお昼に女子社員がお茶を淹れるなんてことがありましたが、今は各自ペットボトルや紙カップの自販機ですね。
いまは専業主婦が減り、家でゆっくりお茶を飲む時間的余裕もないので、電気ポットもやかんもない家庭も珍しくありません。典型的な「外部要因」の変化です。

お米の消費も同じです。日本人が最もお米を食べていたのは1962年で、1人あたり年間118㎏。炊いたご飯に換算すると、1日に約700gのご飯を食べていたことになります。
今のコメ年間消費量は半分以下の50㎏です。食が多様化した現在で、ご飯中心の食生活に戻れといっても、世の中の変化ですからそう簡単にコントロールできません。

節句人形が売れなくなった大きな理由は、節句のお祝いが廃れたからというより、少子化と住宅事情の変化です。
節句人形の業界が最も潤ったのは1970年代。第2次ベビーブームの頃には200万人を超えた出生数は、現在は80万人を割っています。マンションやアパートなどの集合住宅が増え、しかも共働き家庭が大半の令和では、7段飾りの雛人形を飾る場所も時間もないのです。

こういった自分たちで変えられないこと、世の中の流れで逆らえないことを嘆いても仕方ないですし、流れを変えようとしたら非常に大きなコストが掛かります。

短期的には「生き残れる場所」を探して提案する

では、どうすべきか。
短期的な戦略としては、世の中の流れに乗りつつ、小さくても勝てるところを見つけて、そこに戦力を集中させるしかないんです。
個々の事業者や小さな産地だったら、お客さんや市場をもっと細かく分類して、自分たちの商品やサービスが受け入れられる可能性が高い層を見つけ出します。

分類の仕方は、かつては「年代」「性別」「年収」などでしたが、最近はこういった目に見えやすい属性だけでなく「ライフスタイル」「価値観」といった括りでも分類するようになってきました。
50代女性だって少年マンガを読みますし、高級ブランドだから高所得者しか買わない、とも限らなくなっていますよね。

「急須で入れたお茶」にこだわるのであれば、どんな人達であれば、今後も急須でお茶を淹れるのか。または、どんな人たちであれば、急須でお茶を淹れることに手間以上の価値を感じるのかを徹底的に考えます。
例えばコロナ禍で、一時的にリーフ茶の売上が伸びました。これは在宅勤務が増え、外出も控えるようになった時期に、家でゆっくりとお茶を淹れて飲む機会が増えたからだと言われています。

また、コーヒーはかつて「フリーズドライ」か「缶コーヒー」が主流でした。しかし最近は個包装パックのドリップコーヒーが普及しましたし、粉のレギュラーコーヒーを買ってハンドドリップする人も増えました。
「手軽だから」缶コーヒーを買う人もいれば、「美味しいから」レギュラ-コーヒーを淹れる人もいます。価値観に合わせた商品提案で、楽しみ方が多様化したのです。

脅威になるか、機会になるかは捉え方しだい

「若い人は○○だから消費が減った」と考えれば脅威ですが、世の中の流れに乗ることができれば、同じ現象でも機会になります。

例えば節句人形の業界では、狭いマンションでも飾れるようなミニサイズの高級ひな人形、インテリアに馴染む海外ブランドの陶製雛人形などが売れています。
また、若いママたちの「昔ながらの雛人形は顔が怖い」「もっと可愛いお雛様がほしい」といった声に応えて、子供らしい顔立ちの雛人形や、金髪でパステルカラーの雛人形なども登場し、人気商品になっています。

長期的には「その先にどんなチャンスがあるか」を見通す

さらに長期的には、少子高齢化、世界人口の変化、デジタル化、AIの進化、地球環境問題といった大きな流れの中で、自分たちの業界にこの先どんな変化が起きるのかを予測して、どんなチャンスがあって、自分たちはそこで何を武器に生き残っていくのかを考える必要があります。

お茶の世界ではいま、有機栽培に切り替える産地が急増しています。お茶の栽培面積が全国2位の鹿児島県では、すでに600ha以上の茶畑が有機JAS認証を取っています。海外では高級茶葉のほとんどがオーガニックなので、市場拡大が見込めない国内市場から、今後需要が増える海外輸出用に舵を切ったのでしょう。国内でも今後、オーガニック食品の市場が拡大することが予測されています。

また、ペットボトル用のお茶を大量生産する産地も増えています。リーフ茶の売上が落ちる一方で、ペットボトル茶の売上は伸びています。お茶産地からすると最終的な「飲まれ方」が変わっただけの話で、そこに適応した品種を作っていこうという流れもあります。

出版の世界では、紙の本の市場が急速に縮小し、出版社や取次会社、書店がどんどん消えていきました。代わりにスマホアプリやKINDLEなどで本やコミックを楽しむ人が増えました。マンガや小説というコンテンツは変わらずに、本やスマホという「器」が変わったのです。そこに魅力的なコンテンツとデジタルで対応できた出版社だけが今、生き残っています。

世の中の変化は止められないし、そこを嘆いても仕方がない。自分たちの核となる技術やノウハウを、どうやって時代に合った形に変換していくか?を考えたほうが生産的ですね。




私の開業の経緯はこちら

マイナビ農業で、私の開業についてご紹介いただきました!






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?