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私が使っている「農産物ブランディングの切り口」

中小企業診断士のフクダです。
4月から主な活動エリアが埼玉県内全域になり、あちこちお伺いしています。今日は渋沢栄一翁の地元、深谷市です。

さて今日は、農産物ブランディングの「切り口」について

目に見えるデザインやネーミング=ブランディング、ではない

生産者の方からよく、ブランディングについてご相談をいただきます。
ブランディングにはさまざまなアプローチがあるのですが、よく誤解されるのが
「カッコいいネーミングやキャッチコピー、綺麗なパッケージやブランドロゴなどを作るのがブランディング」
だと考えていらっしゃる方が多いです。

もちろん、結果としてそういった「目に見えるデザインやネーミング」はとても重要です。しかし、

その商品のどこが、他と違っていて素晴らしいのか。作り手としてどんな思いを伝えたいのか

これらがブランドの本質で、デザインやネーミングといった目に見える部分は、見えない「ブランドの本質」を、見える形に変えたものです。

実際、デザイナーやコピーライターなどとチームを組んだブランディングデザインのお仕事も、「形」以前の考え方やビジョン作りに大半の時間を費やします。

では、その「切り口」として普段、私が使っているものをまとめてみます。

なぜ、そこで作っているのか

栽培している地域の気候や地形、土壌などは、「その農産物が美味しく育つ理由」として1番よく使われます。大きな産地ではここが重要ですね。
注意点としては、一般の人にも分かるような説明にすること。例えば
「リンゴは水はけが良く、昼と夜の寒暖差が大きい場所で育てると、実の締まった糖度の高いリンゴになる。だから、岩木山麓のリンゴは美味しい」
といった感じです。
これに、「江戸時代から栽培され続けている」「殿様にも献上されていた」といった歴史的背景も入ってくると、更に深みが増しますね。

なぜ、それを作っているのか

その農産物または品種を作っている理由です。
特に新しい農産物などは、作り始めたきっかけのエピソードがあると良いです。
「高く売れるから」とか「普及指導員に勧められて」よりも、もう少しストーリーがあると良いですね。
例えば
「さいたま市にはイタリアンやフレンチのレストランが多く、シェフ達は新鮮なヨーロッパ野菜の入手に苦労していた。そこで地元の若手農家に声をかけて、ヨーロッパ野菜の栽培が始まった」
といった感じです。

どんな人が作っているのか

個人生産者や農業法人、グループ出荷などの場合は「誰が」という顔が大きな要素になります。
よくスーパーの農産物に「私が作りました」という顔写真が付いています。顔写真があると「何となく親しみが持てる」という利点はありますが、できればもう少し情報が欲しいですね。

この道何十年の大ベテランなのか、地域で新しいことを始めた若手なのか。

地域で永く農業をやっている方だと、さらっと「自分で21代目」なんて仰います。農業の世界では普通かもしれませんが、一般の人が聞いたら「徳川家より長いじゃん!」って驚きます。

他業種から農業に入った方であれば、なぜ農業を始めたのか?といったエピソードもブランディングのヒントになります。

どんな思いで作っているのか

特に個人生産者や小さなグループだと、思いやビジョンの共有ができるので強いですね。

例えば有機栽培を選んだ生産者であれば
「魚や昆虫など、この地域の生態系を守りながら農業を続けていきたいので、農薬は使わない」とか

レストラン向けのハープを栽培している生産者であれば
「シェフ達に喜んでもらえるハーブを作りたくて、直接意見を聞きながら栽培方法や品目を選んでいる」とか

どうやって作っているのか

美味しくするための、栽培方法のこだわりなどです。
農業に限らず、職人の方々に「どうやって作っているのですか?」と聞くと、技術的なマニアックな話になってしまいがちなので、一般の方に分かるような翻訳作業が必要です。

「この地域では一般的に、1つの枝に7個から10個の梨の実をつけるよう間引きます。枝から沢山の栄養をもらえた方が甘く美味しくなるので、うちの農園の梨は、1つの枝に5個まで間引いてしまいます。収穫量は減りますが、美味しさ優先です。」
といった感じです。

個人生産者でなくても、その産地やグループで高品質な農産物を作るための工夫(収穫後の処理や貯蔵方法を含め)があれば詳しく聞き出します。

モノよりヒトにフォーカスする

切り口は大体こんな感じですが、いつも心がけているのは、売るのは「モノ」ですが、ブランドとして見せるのは「ヒト」にしていく、ということです。

モノの比較は難しいです。美味しいだけの農産物なら、他にも沢山あります。
モノだけで比べられると、最後は「コスパ」の戦いになります。

ヒトであれば、ファンがつきやすく、離れにくいからです。「推し生産者」になれば価格競争にもなりにくい。
これから農産物のブランディングに取り組む方のご参考になれば幸いです。

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