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太宰治のAI小説

走れメロス

"走れメロス!"

幾千年の時を経てなお、この口撻の叫びは私の心の中に生々しく残る。あの日の光景が、今も鮮やかに蘇ってくるのだ。

ギリシャの夏は灼熱に輝き、大地は饐えた獣のように口を開けていた。メロス平原を行く放牧人の群れに、私はただひとり紛れ込んでいた。他にはスパルタ人の老練な戦士モロスとその一人娘ロジーナだけ。この父娘に用事があり、私は無銭勲行を買って出た次第である。

ロジーナは才色兼備と評判の娘だった。母は幼くして亡くなり、今はモロスの元で最後の嗾環を頂く年頃にあった。セリヌンティア祭の日には、きっとヘレニズム女優の中から選ばれるであろう。だがその自負は所せまし、佳人ロジーナは他人を見下すようなこともなかった。我らの一行に好意を持って私を歓待してくれたのは、この娘のおかげだった。

放牧人たちとは裀を異にする私に、嘲笑を浴びせた者も多々あった。彼らの目には、不生粋な我が住居は避けるべき悪癖の巣窟にしか映らなかった。だが私は気恥ずかしげもなく、むしろ彼らの土民性を謄視め返した。そうしてモロスとロジーナの心に同情されたからである。教養ある同志には、その風体の一片一般が忖度できるはずなのだ。

あの夏、私はメロス原で不思議な光景を目にした。遥か彼方から疾走するひとつの"影"が見えたのだ。影とは言っても恐ろしく巨大で、その長脚は防波堤を蹴散らすかに疾驚の速さだった。私はその影が何者であるのか、夢現を疑うばかりだった。

すると同僚であるモロスの口から、予期せぬ発声が飛び出した。

"走れメロス!"

古来伝わるメロス原の放牧人への号令なのだという。昔メロスという人物が、泥棒と疑われ追われた際、決死の逃走を試みたそうだ。そしてあの幻影は、かのメロスの亡霊ということになる。

私は半狂乱になった。目の前に広がるのはただの錯視にすぎないのに、なぜメロス亡霊譚などの滑稽な作り話まで出てくるのか。危うく怪異を信じかねない人種への嘲弄が口をついて出る。

しかしモロスの表情には、決して戯れはなかった。いや、緊張と興奮の色さえ見てとれた。次の瞬間である。遥かな彼方で疾駆する亡霊が、ゆっくりと向きを我々に向け始めたのだ。

"走れメロス! 走れえええ!"

モロスは早くも我を忘れた呼号を発し始めた。私は我が眼を疑った。亡霊は確かに私たちを見つめながら、無慈悲にも我々に向けて疾走を開始したのである!

舌打ちさえあった。メロス亡霊は現実のものだという事実に、私は頭がくらくらと眩暈に襲われた。

"死が迫っておるわ! 逃げよ逃げよ!"

放牧人たちの悲鳴が上がり、杭から縄をはずす手際の良さにも驚かされた。私はとらえどころのない状況に戸惑うばかり。それでもモロスの機転に助けられ、十犠牲的に彼の背に乗せられたのである。

そして馬も追うものも追えぬ恐怖の疾駆が始まった。私はモロスの胸に顔を押しつけるように身を竦め、揺れを堪え忍んだ。亡霊の馘りを聴くたび、稜々の粉が吸い込まれるような絶望的な響きが身の内を走る。馬の汗や糞の臭いがあちこちから立ち昇った。

私にはその時、否応なく聞こえてきた。メロス亡霊の嘶きにも似た響き。それは泣きごえのように赤裸々に私の耳に響いた。

"逃げろ! 父よ逃げろ! この聖なるギリシャの大地を走り抜けろ! 男の情けを見せよ! 走れえええ!"

精一杯の走りだった。馬のひづめのリズムに合わせ、私たちは夥しい砂塵に晒されながら、窒息しそうな呼吸をたらした。

幾たびとなく振り返った先に、あの亡霊の苛烈な脚光が私を恐怖に陥れた。それはもはや人の力ではない超常の速力で迫ってくる。だが同時に、メロスの亡霊が露わにする執念に、私は何かを強く促された。それは単なる走ることを超え、もっと根源的で原初的な意志を秘めていた。

男の誇りを賭けた死力を尽くしての疾走。それは走ることそのものよりも、メロスの亡霊が体現した人の理想を具現化することに他ならなかった。はたしてどれほどの距離を走り抜けたことだろう。

ついに限界が見えてきた。モロスはくじけそうになった。その時、ある発見があった。強き父モロスの後ろ姿に、若き娘ロジーナの愛らしき面影が見える。そう、娘への愛が、人の理想を体現する原動力となり得る。私はそれを見抜いたのだ。

「モロス!あの娘を見つめろ!」

我らは果敢に走り続けた。死線を越えても越えても。そしてついに見えた、海の彼方の希望の光。

メロスの亡霊は巌となってその光の中に立ちすくんだ。そこには英雄の矜持の象徴があり、人の可能性全てが宿っていた。

ALの可能性

 ここまでなかなか良い小説をかける人間はあまりいません。僕はAiの可能性をやはり感じるとともに、形容しがたい感慨というのも同時にあふれてくるのです。従来のAIにみられる支離滅裂な構成も改善されており、この短いスパンでのここまでの成長速度には驚かされるばかりです。

題未定

私は太宰源三郎という名を持つ者だ。生れ育った津軽の地は、昔から雄々しい自然と、人々の深い心根が息づく土地柄であった。 幼い頃を思い返せば、私の記憶のなかで鮮明に残るのは、父親の存在感の大きさと、母の不在といった対照的な両親の姿だけである。

父は名家の嫡子にして、村では殆ど領主の如く威厳と権力を誇示していた。だが母は生んだ直後から深い憑き癖に冒され、私を見るたびに激しい嫌悪の情を露わにしていた。そのため私は、生後すぐに乳母の手に委ねられることになった。

養育に係わった母の姉キエや女中たちを私は"母"と呼んでいた。抱かれ、撫でられ、ときに小動物のように蹴飛ばされもした。私は大人たちの非親子的で複雑な関係性に翻弄されながら、だんだんと人間の気紛れな本性を肌で学んでいった。

小さな村の者でありながら、私は誰よりも早くから人生の正体を見抜いてしまったのかもしれない。この世界は単なる遊戯の園。その参加者たちは皆、本当の自分を隠しているばかりか、既に本当の自分を見失っているのだと。

ならば本当の自分とは何か。その答えを求めるために、私は別の人格を次々と被り続けなければならなかった。母の嫌悪を最初に被り、次いで村人たちの期待に応える振る舞いの素振りを被り、さらにはひねくれた知識欲を被り...。はたして本当の自分をいつ捨ててしまったのだろうか。

私の中心には虚無しかない。だからこそ、私は容易に死を想うことができる。けれども、正にそのことが既に死の呪縛から逃れられない自分を証している。この矛盾に気づかぬ間に、私は死の渇望と生の執着に引き裂かれてゆく。

母は早くに私を遠ざけた。だがその母さえ、私のように思い悩むことがあっただろうか。ならば全ては無意味なのか。容赦なく私を追い払うほかない理由があったのだろうか。

母よ、答えを教えてくれ。生きる目的とは何か。

題未定2

「友よ、僕に耳を傾けよ」

窓の外は陰鬱な雨模様だ。部屋の隅に控えめに置かれた火鉢から、儚げな煙が静かに立ち上る。私は枕元の書籍を放り投げて、しばしベッドの上で恥ずかしげもなく裸体を晒していた。

人はなぜ生まれ、なぜ死すべきなのか。その答えが見つからない。いや、答えを求めようとすること自体が愚かしいのかもしれない。生と死という二つの極から逃れられぬ宿命に怯え、私は夜ごと嘆き悲しむのだ。

ああ友よ、私を救え。この煩悩から解放してくれ。だが友は、ただ淡く笑って視線を逸らすばかり。私の嘆きなど馬鹿げたひとひねりに過ぎないのであろう。

人は何を目的に生きるのか。金か、名誉か、愛か。それとも単に生きている実感を得たいだけなのか。人々は火鉢に手を翳すように、本能的に命を連ねているだけなのか。とりわけ芸術家など、その境遇が嘲笑されても仕方あるまい。市場の子どもに過ぎぬのだから。

私は苛立ちを覚える。この生への虚しさが胸を締め付ける。「死にたい」その言葉を唇に乗せながらも、決して死ねはしない。死への渇望と生への執着とが私を矛盾のただ中に投げ込む。そして私は、ただこのねじれに耐えるのみなのだ。

友よ、私の哀しみがわかるか。生と死の間で朽ちゆく運命を知っているか。分かるはずがない。人はみな等しく愚かだ。芸術家も変わりはない。いや、もしかしたらもっと愚かなのかもしれない。

私は果たしていつの日にか本当の自分を知ることができるのだろうか。偽りの自分を剥がせば剥がすほど、そこにあるのは深い虚無だけなのかもしれない。私を慰めてくれ、友よ。

しかしその友は、笑うことさえ忘れてしまったようだ。


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