未出版からの抜粋_「母子寮に入居寸前」

家賃を支払えず、退去命令がくだった。
私たち親子は母子寮に入ることを民生委員さんに勧められた。
母子寮は家具も持ち込めず、規則も厳しく、格子で囲まれている。
思春期の上の子は母子寮に入りたくないと言う。
当時、飼っていた犬(マロン)も飼育できなくなる。
子どもたちは、「マロンは家族だよ。ママがそんなことを言うのはママじゃない」と言う。
上の子は母子寮に入るくらいなら友達の家に下宿するとまで言い出す。
どうしたらよいのかもうわからなくなった。
生きなければ、どうしても生きて子どもを育てなければ...。

上の子の真意が訊きたいと、アルバイトをしていた娘のご馳走で、
パスタ屋さんに行きま話し合いをした。
高校生が一生懸命に働いたお金で食べたパスタとサラダの味は申し訳なさと涙で覚えていない。
覚えているのは「一緒に住んでいた家族としての最後の晩餐だね」と交わした言葉と「また、いつか来ようね」と黙々と食べたことだけだ。

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