映画と姉妹

私は映画が好きだ。

子供の頃両親が仕事で居なく、その間さみしくならないように母がレンタルビデオや金曜ロードショーの録画した映画を毎週用意してくれていた。
それを二人姉妹の姉と共に観ることが習慣だった。
母のセレクトはあくまで子供向けであり、
小熊物語や、となりのトトロなど一般的な物が多かった。
幼い頃の私は、特に感受性の強い子供で、自分にその作品の主人公を投影しながら観る癖があった。

となりのトトロの後半で、行方不明になるメイを探すシーンは、私にとっては居た堪れないシーンである。
しっかり者の姉のサツキ、年老いたおばあちゃん、近所の人々…村をあげた大捜索を現実で起こした場合、その人たちの苦労を行方不明者は実際には見ることが出来ない。だが作品中ではそれを目の当たりにしてしまう事で、毎回どきどきと心拍数が上がるほどであった。

姉は姉で、もともと正義感の強いタイプだった為か、いなくなったメイを痛烈に非難し、私に対しても少しアタリが強くなるというのが通例であった。自分と同じ特性を持ちながらも、そんな姉が少し理解できず、少し嫌だった。


私の母はとても気遣いをする人で、子供たちにだけでなく、父の好みの映画なども抱き合わせてビデオを用意することもあった。


オルゴール
とんぼ
英二

両親は長渕剛ファンであった。
その他、仁義なき戦いシリーズなどの任侠映画も父は好きだった。

車で旅行へ連れて行ってもらうときも必ずカーステレオからは長渕剛が流れていた。
大人しかったのか、何かあったのか今ではわからないが自発的に言葉を発さない子供であったが、心の中の鼻歌は

「賽銭ばぁこにぃ…」
「まぁっかな血のションベェン…」

など、長渕剛だったのを今でも覚えている。

ある日、私は小学校の下校中、男子生徒に傘で顔を叩かれた事があった。友達はあまりおらず、机で絵を描くことだけが楽しみの大人しい子供だったため、やり返すなんて事は到底出来なかったが

「どうケジメつけちゃろか」

と全く広島出身でもないくせに、内なる任侠が華々しく心に咲いてしまったのである。
だが勿論、何も出来なかった。
目の下に傷を作り、泣きながら帰った私を見て姉が仕返しをしてくれると言ったが、ただでさえ身体も小さい私たち姉妹が、そんな事をしても姉が勝てる気配もなく、両親に伝えたら相手の家へ長渕キックでは済まされない。

胸の内を姉に伝えると

姉は「わかった。じゃあ、お姉ちゃんの手が間違って当たっちゃった。って言おう!」
と言ったのだった。
そんな事をしたらお姉ちゃんが怒られると安易に想像がついたが、私は黙って従うことにした。

その日も姉妹二人でとなりのトトロを観ていると、メイを捜索するシーンで姉が私の手をぎゅっと握ってくれた。姉は泣いていた。
なにかわからず、私も一緒に泣いた。

それ以来となりのトトロを観ると、毎回メイには大人しくしておいてほしいと願うが、相変わらずメイは一人、母の元へ旅に出る。

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