大晦日は雨が降ったね
と言い、大泉洋は「見て。雨にうなだれる僕の写真。」と私にスマホを見せてきた。紅白の本番前だったろうに、制作スタッフに怒られないのか。
「関西も夕方は小雨でしたけど、紅白の時には止んでましたよ。」
「通天閣前で歌った天童よしみさんも、気が気じゃなかっただろうね~。」
あっはっはと彼は笑う。
「大泉さん、初出場お疲れ様でした。今回の紅白、よかったです。」
私は親指を立てる。
「今回のって…過去の2回はどうだったの?!」
「あ、それもよかったですよ。司会してましたもんね。」
も~!と彼はオーバーに怒ったふりをする。カメラが回ってないのに。表も裏もない人なんだろう。
「NHKも、さすがに3回連続で僕に司会者をさせるのはな~ってことで、有吉くんを抜擢したんだね。でも今回も僕を呼ぶところに、未練を感じちゃうよね~。」
「司会でもないのに、何で出てたんですか?」
私は冗談交じりに言う。
「僕は歌手でもあるの!多才だから!初出場だけど!」
彼のテンションにいつも私は笑ってしまう。
確かに彼は多才だ。演技力が長けている。ひょうきんな役柄が多いが、黙って上目遣いをするとシリアスなイケメンにも見えるので、どんな役もこなせる。大河 鎌倉殿の源頼朝役は、そんな彼の味をよく生かせていて、よかった。さすが三谷幸喜。
そして、なんといっても彼のトーク力は、全国トップレベル。勝手に場を盛り上げてくれるので、生放送に彼が添えられると視聴者も安心する。歌唱力もあったとは、今回の紅白で初めて知った。
「トップバッターの『新しい学校のリーダーズ』よかったですね。」
「そうだね。SUZUKAの歌い方は和田アキ子さんを思わせるよ。彼女も絶対大物になる。」
「恥ずかしながら、首振りダンスは紅白で初めて知りました。」
SNSなどのコンテンツに疲弊しやすい私は、情報量を処理しきれず、すっかり流行を追えていない。隠居するようにSNS断ちをするものだから、ここ数年は紅白でヒット歌手を知る。
「今年、TikTokで流行った○○!」と言われても、アプリのダウンロードすらしてない私には、ピンとこない。
最近の若者は、流行りのダンスをマネして投稿することで、あらゆる人とコミュニケーションを図る、と「あさイチ」で解説されているのを見た。
公園や広場など、スペースさえあれば、スマホに向かって若者が踊っているのをよく見る。あれは彼らなりのコミュニケーションだったのか。ダンスが義務教育でなかった世代としては、通りすがりに彼らの踊りを感心して見入ってしまう。
ここまで書いていて、自分がすっかりババアで悲しい。
「『すとぷり』も初めて知りました。CGが舞台に立っているのは、私はまだ見慣れないですね。GReeeeNのときは、まだ見れたんですけど。」
「僕らですら、ポカンなのに、あれをおじいちゃんおばあちゃんがTVで見たら、もっとポカンだよ。あの後は天童よしみさんだったから、安心しただろうけど。」
「すとぷり」は、夫も私も、いぶかしい目で見てしまった。会場の観客はどういう気持ちでペンライトを振っているのかと。
「『ネット上で顔をさらすのは危険』って学校で習ったから、『すとぷり』は素顔を隠してるらしいよ。」
それは賢明な考えだ。
デジタルタトゥーという言葉があるように、今の時代、世間に素顔を出すことは、想像以上のリスクがある。しかし、素顔をさらさずに堂々と才能を発信する技術も出てきたようだ。世の中は悪くなっているのか、良くなっているのか。
「お風呂から上がったら、かまいたちの濱家さんが出ていて、びっくりしました。」
「『ハマいく』だね。あれも踊りが流行ったから。」
かまいたちの濱家は、私と同郷である。
淀川の星である彼が、紅白に出ていて驚いた。
彼と生田絵梨花がMCを務める音楽番組内にて結成されたユニット「ハマいく」の『ビートDEトーヒ』が流行ったらしい。恥ずかしながら、これも紅白で知る。
私は急いで旦那を呼び、濱家の勇士を一緒に見た。
旦那は「共感羞恥だ」と言っていた。濱家の歌が下手すぎて。
「見てられない」と言う旦那の一方、私は、プロの生田ちゃんの横で楽しそうに歌い踊る彼に、しびれた。中途半端な下手ではなく、本物の音痴なのがよかった。
「もっと感動したのは、ポケビとブラビ!」
「濱家君の次に大泉洋が歌ったのに、さらっとノーコメントなのね…。」
「25年ぶりだなんて!」
このポケビの歌詞は、気持ちが前向きになり、昔から好きだった。
ガキ使がなくなって寂しかったが、代わりに千秋が気兼ねなく紅白に出ることができ、復活を果たしてくれたのは嬉しい限りだ。恒例のサビの地団太に少しキレがないのも、時の流れが象徴され、逆によかった。
でも今は、あらためて聞くとブラビの方が、グッとくる。
この歳になると、人生とは小さな偶然の積み重ねなのだと思える。
夫との出会いも、同じ大学で先輩後輩の関係だったが、交際を始めたのは、社会人になってしばらく経ってからだった。
たまたまお互いの歯車がタイミングよく合わさり、そこから派生するように、結婚、出産…とたくさん歯車は回っていった。時折、不平不満を漏らしながらも、今は2人の子どもの成長に目を細めつつ、二人三脚で人生を歩んでいる。
同じ曲でも、人生のステージが変わった頃に聞きなおすと、感じ方が違う。
夫も「あの頃を思い出す」と幼少期のノスタルジーに浸っていた。
ウッチャンナンチャンのウリナリは、どの小学生もが「昨日のウリナリ見た?」と話題にするほどの人気番組であった。
あれから25年。四半世紀以上もTVに生き残り続ける彼らもすごい。
「勇気をもらいました。」
「僕も、エンタメが持つ力というものは信じているよ。」
大晦日は、1年を振り返る日である。人々が1年で一番「時の流れ」を意識する瞬間でのポケビとブラビの復活は、大きな反響が巻き起こっただろう。
紅白は、演歌歌手からJ-POP、K-POP、ロック、アイドルなど、音楽を通じてたくさんの世代の曲を聴くことができる。感動ポイントは人それぞれで、見方が違うのも面白い。
残念なことに、私は今、幼子を2人抱えているので、集中して番組を見ることは難しい。番組中、子ども達の相手や寝かしつけをしていたので、たくさんの曲を聞き流したり、見逃した。大泉洋の曲も。
思えばM-1の時も、集中して見たかったのに、息子にドラムのおもちゃをかき鳴らされ、見るのを諦めてしまった。同じ淀川の水を飲んだ さや香 の応援ができず、行き場のない悔しさがあった。
年末年始も、ずっと子どもと過ごし、癒されつつも、さすがに疲れた。
疲れのせいか、ぐっすり寝てしまい、朝活もできなかった。
「親になるって大変なのよ。当たり前だけど。」
大泉洋は励ましてくれる。
「そうなんですけどね。なんだろう、この焦燥感。」
1年が終わってしまうと、なんだか焦る。「今年は飛躍の年だったな~」なんて思ったことはない。
ここ数年、ただただ成り行きで過ごす自分に対し、このままでいいのかと思うようになる。30代になると皆こんなだろうか…。
「どんな結果になっても、後の自分に必要な経験。背伸びしても仕方がない、自分にできることを楽しく緩くやっていけばいい。」
さらっと星野源の歌詞になりそうな言葉もかけてくれた。
私も大泉洋のように、楽しそうに生きていけたらいいな。
年が明けると、地震や飛行機事故、火事など、早速悲しいニュースが、続々と飛び込んでくる。
この瞬間にも、悲しい運命に向き合う人々がいることを思うと、心が痛い。「明日は我が身」であるし、決して他人ごとではない。
不満がないわけでないが、私は幸せである。
自分の努力だけではどーにもできないことも多いけど、今ある幸せに目を向けて1日1日を大事に生きていきたい。
そんなことを改めて思った2024年の幕開けである。
この記事が参加している募集
サポートいただけたら、花瓶に花でも生けたいです。