涙のカノン(後編)
【前編はこちら】
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知る人ぞ知る『パッヘルベルのカノン』が、一気に世界的な知名度と評価を得るきっかけとなったのは、1968年にフランスで発売されたパイヤール室内管弦楽団のレコードである。
パイヤールは当時のイージーリスニングのブームに合わせて、従来の古楽的な演奏よりもぐっとテンポを落とし、現代人好みの優雅で壮麗でロマンチックな曲に仕立て上げた。
それが大ヒットし、それを皮切りに数年のうちにあれよあれよという間にヨーロッパからアメリカへ、そしてクラシック界からポピュラー音楽、映画音楽へと燎原の火のごとく広がって行ったのだ。
アフロディテス・チャイルド
「雨と涙 」(1968年 ギリシャ)
映画『普通の人々』
(1980年 アメリカ)
ジョージ・ウィンストン
「ヨハン・パッヘルベルのカノンによる変奏曲」(1982年 アメリカ)
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念のためにおさらい。
カノンとは、基本的な和声進行でいえば(ニ長調の場合)
D - A - Bm - F#m - G - D - G - A
そして通奏低音は
この通奏低音の上に3声部の旋律が輪唱形式で展開する。
一般には「カノン進行」または「カノンコード」と呼ばれる和声進行で、(私見では)これを反復して聴くことによって脳内ドーパミンが分泌され、精神が慰撫される人間の生理を踏まえた《快感旋律》である。
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カノンは340年の時を超えて現代にも脈々と生き続けている。
ポップスの世界では、この和声進行を用いればヒット間違いなしの《黄金律》とされている。
以下、参考までにカノン進行を用いた邦楽の一部を挙げてみる。
セカオワの曲のようにテンポを大きく変えているので一見それとは気づきにくいものもある。
そして洋楽のカノン代表は何と言ってもこの曲だろう。
これらは氷山のほんの一角であって、邦楽ポップスだけでも100曲近くある。
洋楽も含めれば「世界の音楽はカノンコードに満ち満ちている』と言えるだろう。
何気なく流れる身近な音楽の中に、それとは気づかれぬ姿で『パッヘルベルのカノン』の《快感旋律》は広く深く浸透している。これまでも、そしてこれからも姿、形を変えながら •••••