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【読書感想】地域衰退【宮崎雅人】

イントロダクション

「地方創生」は自民党政権の看板政策の1つであり、2021年は2.2兆円の関連予算が動いている。だが、地方が活気づいているとの声はほとんど聞こえない。(誤解の無いように書くが、本書は自民党批判を目的とした本ではない

ほとんどの地域は厳しい現実に晒されており、その要因は外部に大きく依存しているため脱出は難しい。厳しい現実と、対策を論ずる。

地域はどの程度衰退したか

地域が衰退したことを示す指標はいくらでもある。

・人口減少率:著者が総務省の統計を基に1998年~2018年の人口減少率を調査したところ、1位の奈良県川上村では-49%。2位の北海道夕張市も-49%でほぼ同様。

・労働人口の減少:国勢調査を基に筆者が調査したところ、先述の奈良県川上村は20年で約-63.2%減少している。1位は福島原発事故の影響を受けての葛尾村であり、-99%,2位は福島県楢葉町で-82.7%。


参考:国土交通省「地方における人口・労働力の変化」 労働力人口はどこでも減少しているが、地方ほど加速している。

筆者は「当時の安倍政権は、民主党政権に比べ地域の有効求人倍率が高いことを強調していたが、地域の実情を踏まえればその背景には深刻な労働力不足がわかる。有効求人倍率の高さは地域衰退の指標でもある」と厳しく指摘する。

衰退の背景はなにか

かつて地域に雇用を生み出してきた製造業、リゾート、建設業が1990年代の終わりから2000年代にかけて、多くの地域で雇用を生み出すことが難しくなってしまった。

基盤産業が衰退して、産業交代できる地域は限られている。事業所型サービス業は構造的に、関係者が集積した方が便利であるため、都市に集積してしまう。

農業の大規模化は地域を救うか?

一般的に、農業の大規模化はコスト低減と、効率化が進むと言われる。実際、法人による農業経営が増え、大規模化は緩やかだが進んでいる。

だが、実は意外と効率化やコスト減につながらない。

例えば我が国の農業組織の50%が取り組む「米」において、個別経営なら7ヘクタール、組織経営なら15ヘクタール当たりで、生産費用の低減が止まることが明らかになっている(秋山)

比較的早い段階で、規模が大きくなっても作業方式や耕種概要などの技術体系が変わらず、規模間で生産性に差が出ないことも分かっている(梅本)

規模拡大のノウハウが定まってないこともネックだ。細かいところでは、大規模農業をやると他の施設が来なくなり、コミュニティの質と幸福度が下がるという米国の研究もある。(所得は上がるらしい)

効果はあるが、衰退した地域で、農業の活性化を大規模化で担うのは難しいと言える。

地方はどうすればいいのか

・医療サービスを維持する
生存権の保障という意義も大きいが、そもそも現在、地域は意外と、高齢者への社会保障給付をバックアップとした介護で経済が成り立っている。介護は財・サービスの供給に必要な需要の成立閥が小さい。診療報酬の加点などを提案。

・国主導で政策による誘導をやめる
現在の政策は「人口減少と地域経済縮小を止める」という目標を掲げているが、「現実的ではなく、罪深いことである」と筆者は言う。

自治体の自助努力には限界があるが、さりとて国主導で地域特性を考慮しない「全国一律」の政策になる恐れがある。

実は、地方創生のため1700の自治体に「地域版総合戦略」の策定を課したが、その多くは東京に本社があるコンサルタントなどに外部委託していることが明らかになっている(坂本)。この戦略策定には補助金も出た。これらの企業がその地域特性に応じた施策を作れたのだろうか。

本書の所感
地域衰退の厳しさがさまざまな視点で浮き彫りになる一方、最終章のこれからに向けての提案はなんとも心許ないものばかりであった。実際、筆者が悪いのではなく、地域はそれだけ崩壊数善なのだろう。

・筆者は埼玉大の准教授。本書はまるでレポートを読んでいるかのよう。新書でありながら統計やグラフ、固有名詞が何度も出てくることもあって、正直に言って読むのはとてもつらかった。

データに裏打ちされていて、非常に説得力はあるのだが、趣味で読むのは辛い。テーマ的にも、そこまで興味は正直なかった。「地域が衰退する」なんて、結論だけなら小学生でもわかることで、自分の世界が広がる気はしなかった。

だが、一念発起して読み進めると、「地域の衰退」1つにいろいろな政策がと歴史が詰まっており、それらを多角的に分析していて、読んで感心することは多かった。ある意味良い勉強になったので、感謝。


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