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【読書感想文】 武士道

イントロダクション


新渡戸稲造が1899年に書いた歴史的名著。当時、日本は西洋から蛮族として、激しい偏見を持たれていた。アイルランドのジョージ・ミラー博士は「東洋には騎士道やそれに類する制度はない」とまで言ったそうだ。

これには日本には普及した宗教がなく、道徳教育を宗教に依存してきた西洋からすると得体が知れなかったからだ。新渡戸氏はこうした状況を嘆き、当時の日本で朧気に共有されていた上流階級の道徳規範をまとめたのである

本書は大反響を巻き起こし、世界各国で読まれた。そのファンには米国のセオドア・ルーズヴェルト大統領がいる。

ところで、日露戦争はあと一月続いてたら日本が負けていたという見解がある。そのタイミングで武士道のファンであるルーズヴェルト氏が停戦の仲介を引き受けてくれた。ともすると「武士道」は日本を救った本と言えるかもしれない。

ポイント1.武士道とはなにか

高き身分のものに伴う義務であり、武士の心に刻まれた掟である。その要素は7つの徳である「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」に分けられる。(詳細は割愛)。

医師が職業的な礼儀として仲間の競争を制限するように、封建社会で支配階級となった武士が、自らの不始末を犯した場合の審判先への基準であるといえる。

実際のところ、「武士道らしさ」を貫いたエピソードは美談扱いされていた。これは裏返すと、実践できている武士は稀だったのだろうと推察される。

ポイント2 武士道の源

武士道の源はどこから来るのか。基盤は仏教と神道だ。

「仏教は武士道に運命を穏やかに受け入れ、運命に静かに従う心を与えた」と新渡戸氏は評する。具体的には危機や惨禍に際して、常に心を平静に保つことであり、生に執着せず死と親しむことだ。

仏教が武士道に与えられなかったものは神道がそれを補った。主君に対する忠誠、祖先への尊敬、親に対する孝心は神道から導かれ、それによってサムライは忍耐心や謙譲の心を植え付けられた。

実際的な教義としては孔子と孟子の教えが最も豊かな源泉となった。本書の7つの徳を見ればその説にも得心が行く。

ポイント3 切腹と敵討ちについて


「腹を切る?なんと馬鹿げたことか!」

切腹について初めて聞けばそう感じるだろう。しかし、新渡戸氏は、自害が美談・英雄的エピソードになる話は諸外国にもあると指摘する。

日本においては、武士道的観点から、名誉に係る死は多くの複雑な問題を解決する鍵として受け入れられており、法制度に組み込まれた1つの儀式であった。中世に発明された切腹は、武士が自らの罪を償い、過ちを詫び、不名誉を免れ、朋友を救い、己の誠を証明するための方法だった。

同じく死についての思想である、「敵討ち」はどうか。新渡戸氏は明言してないが、復讐は人間であれば本能的に備わった欲求としており、暗に武士道において肯定していると思われる。

普通の法律では裁くことのできない事件がある。その時に、最後に許された手段が敵討ちだという。ただし、武士道で復讐が肯定されるのは目上の人や恩義のある人のためであり、家族や自身のための復讐は蔑まれた。

最後に

武士道は確固たる教義があるわけではない。そのため新渡戸氏は武士道は儚く消えるだろうと予測している。この推測は当たったと言えるだろう。

だが、同氏はこのようにも書いている。「その精神と活力、克己の心は消えずこの地上から、桜の花のように四方の風に拭き散らかされた後でもその香りで人類を祝福し、人生を豊かにしてくれるだろう」

武士道のエッセンスが、人類普遍の規範として、いつまでも光り続けることを祈りたい。

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