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戦略読書 【読書感想】

「ビジネス書中心路線」が行き詰った──。

読書とは本来楽しむためのもの。しかし、読書を仕事や人生に役立てたいという欲望を抱くことは珍しくないだろう。先輩や同僚が勧める「定番書」を読むこともあるはずだ。

しかし、「みんなと同じ本を読んでいたら、みんなと同じようなことを言うようになった」ーという体験を語るのが本書の著者である三谷宏治氏だ。

三谷氏は子供のころからSFや歴史を中心に、貪欲に読書を楽しんでいた。しかし、コンサルタントへの就職を機に、課題図書をはじめとして、1年半他人と同じようにビジネス関係の本を読む必要があった。

そうしたころ、初めて意見が他人と被ってしまった。何気ない会話だったが、内容も凡庸で、だからこそ三谷氏にとって衝撃だったのだという。「他人と同じこと」「ツマラナイこと」しか言えないコンサルタントには価値がないからだ。

私たちの思考は、読んだ本で出来ている。ならば、読む本も差別化していく必要がある。三谷氏は「自分の独自性を作り上げるための読書」にシフト。こうした視点で30年間読書を試行錯誤してきた読書の「戦略」と、読んできた本を解説する本だ。

読む本を4つに分類

その戦略とは「読書ポートフォリオ・マトリクス(RPM)」

本を4種類に分けて、読む本のバランスを年齢や状況に応じて変えていくという考えだ。基本的には自分の強化したい分野、伸ばしたい分野にうまく冊数や読書時間を配分することになる。

出典:日経リスキリング

①ビジネス基礎

自身の職種で必要となる知識の基礎となる本。本書では1年目はこれに全ての時間を費やしてもいいと書いてある。テーマごとに1~2冊でいいので、古典的名著を時間をケチらず読むことをお勧めしている。時代遅れと気にする必要はない。なぜなら、名著でその分野の「体系」を理解すれば、新しい知識の位置を理解できるからだ。

②ビジネス応用

ビジネス基礎と同じジャンルの応用本。こちらは対象の数が多いので選び方が大事となる。ここではフットワーク軽くどんどん読んでいくと良いが、最近は主要テーマごとに、「全史」ものが出版されているのでおすすめ。基礎の確認と同時に、紹介されている書籍(論文)が参考になる。ファクト(事実)を載せた事例集なども望ましい。

③非ビジネス基礎

離れた分野の学びを欠かしてはいけない。「自然や人の本質を描こうとしているなら何でもいい」とのことで、SF、科学、歴史、プロフェッショナル、心理学、哲学など何でもよい。大事なのは未来につながると信じて、楽しむことだという。

本書ではジョブズのエピソードを引用している。

ジョブズは大学に半年間通ったが、興味のない必修科目を履修することを嫌がり、本人の弁によれば「両親が一生をかけて貯めた学費を、意味のない教育に使うのに罪悪感を抱いた」ために中退。しかし、中退後もリード大学のキャンパスを放浪し、コカ・コーラの空き瓶拾いや心理学科の電子装置修理で日銭を稼ぎながら、哲学やカリグラフィー(西洋書道)などを学んだ

Wikipedia

このカリグラフィーは8年後、マッキントッシュに開発時に生かされた。ジョブズの様に点と点をつなげるという意気込みで読むことが大事だ。ただ、この役に立てるというのは、「上司やお客さんとの雑談のネタになった」程度で良い。三谷氏もSFを読んで仕事に役立てた例として、先方の役員との会話のネタになったことを挙げている。(今は発想力などに役立ててるそうだ)

④非ビジネス応用

応用とあるが、何も難しい本を読む必要はなく、普段全く読まないような本、例えば本屋で目についた本やはやりの本、他人に勧められた本でよい。目的は知識ではなく、自分の興味の領域を広げること。ななめ読みして、興味が出たら熟読でよい。


その他、1冊1冊の読み方として、記事に出てきた記述を他の知識や記述と対比させていくと良い。また、業界の常識を覆した非常識な事例などにも注目だ。

筆者としては社会人3年目程度までは①②に重きを置き、それ以降は自分の殻を破るためにも③④の比率を増やすことを推奨している。ただ、1年あたり100冊読む基準で語っているので、あくまで目安。

感想

私達の思考は読んだ本からできている。もっと言うと映画やドラマ、ラジオなどインプットするものから形作られている。そう考えると「戦略」と言うと大げさに聞こえるが、インプット先を選ぶことは自然だと思う。

個人的にはいままで、④ばかり読んでいた。要は雑学と言うか、知識を吸収するのが楽しく、①②は仕事をこなすうえではあまり問題が無かったからだ。③のような小説からはついぞ離れてしまっている。SFへの愛が溢れていたこともあって、積読を片づけたらSFを読んでみようと思う。

本書は戦略の解説については実のところ短く説明されており、割愛した範囲でも「この年代ならこれくらいのバランス。こういう本は斜め読みでいいけど、あの本は熟読した方が良いよ」というアドバイス程度で、そこまで大それた説明はしていない。どちらかというとおすすめの本の目録に尺が多く割かれている。特にSFに興味がある人や、コンサルタントが読むべき本は何か?と困ってる人には役に立つだろう。

実際の問題としては、読む本の「戦略」以前に、本を読む習慣の方が問題だ。文化庁の「国語に関する世論調査」(2018年度)によると、日本人の年間の読書量は12.3冊で、1カ月に1冊。また、本を1冊も「読まない」と答えた人が、全体の47.3%にものぼっている。私も昨年から読書にハマって半年で約30冊読んでいるが、それまでは年に数冊程度しか読んでいなかった。

こうした状況を鑑みると、自分のスマホの時間や通勤時間、ごはんの時間を少しで良いから削って本を読む時間を捻出する”戦術”の方が、大事かもしれない。





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