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オフコース アルバム「ワインの匂い」その5 幻想

アルバム「ワインの匂い」のA面は、男と女の愛がテーマの作品群です。それに対してB面は、「少年のように」と「雨よ激しく」がその愛を失ったときの情景で、それ以外の作品はより大きな愛や社会性をテーマとした作品になっていると思います。

憂き世に

鈴木作品「憂き世に」は、高度経済成長から現在に至るまで必ず影のようにつきまとう環境問題をテーマとした作品ですね。環境問題は言い換えれば郷土愛や祖国愛、ひいては地球愛ですし、古びることのないテーマです。

愛の唄

小田作品「愛の唄」は、私にとって解釈が難しい作品です。美しいメロディと綺麗な言葉で何となく雰囲気で聴いていましたが、こうしてレヴューしようとすると戸惑ってしまいます。要するに万華鏡のような曲なんですよね。見方を変えれば違う様相が見えるような、そんな感じです。

この「愛の唄」は、かつて付き合って別れてしまった元恋人に対する気持ちを歌った曲と解釈もできますし、今現在進行形の恋人に対する思いを歌った曲と解釈することもできます。つまりは、小田さんの言葉選びが絶妙なんですね。誰もが共感できるように解釈の自由度を持たせていると思います。

ある人が聴けば、特定の誰かを思い浮かべるでしょうし、別のある人は今まで出会って別れた恋人たちを思い浮かべるでしょう。


泣きぬれて ただひとり
さみしい たそがれには
恋人よ 振り向けば
やさしい思い出を あげよう

人は誰でも挫折し落ち込んだりするけど、振り返ることさえすれば見守っている愛があるから孤独じゃない。振り返ればあなたを愛した人の思い出があるから。だから、また歩くことができるから。

こんな感じで恋人を見守り励ましてくれる、大いなる愛の唄ですね。

幻想

その「愛」をも越えるものを歌ったのが、小田さん作詞で鈴木さん作曲の「幻想」です。

愛だけじゃない。綺麗事だけじゃない。言い訳の言葉もいらない。とにかく色々な事に目をつぶって、清濁併せ呑んで、まずは包み込んでみれば何かが変わるかもしれない。不可能なことは分かっている。だから幻想なんだ。でも、やってみたいんだ。そんな小田さんと鈴木さんの心の叫びのような作品です。

後の「生まれ来る子供たちのために」に通じる世界観ですね。私も大好きな曲です。

老人のつぶやき

そして最後を飾るのは小田作品「老人のつぶやき」です。これは以前にも言及した曲です。その時、老人がつぶやいている場所を「秋の気配」や「夏の終り」の舞台であり小田さんの故郷でもある「港の見える丘公園」に比定しました。

今回この「愛の唄」を前提にしても、やはり「港の見える丘公園」だと思ってしまいます。


歩きなれた道を
今ひとりでゆけば

という「愛の唄」の歌詞から「港の見える丘公園」を連想してしまいます。

一人の老人が杖をつきながら坂道を上っていく。若い頃は息も切らさず上がれた「歩きなれた道」。丘を上りつめると見慣れた空と海。私の前を通り過ぎた恋人たち。そして「あの人」。あの人はどうしているかしら。

「ワインの匂い」で初めて二人で歩いたのも「港の見える丘公園」だったかもしれませんね。

アルバム「ワインの匂い」を締めくくるのに相応しい神曲「老人のつぶやき」です。

という感じでアルバム「ワインの匂い」の作品をざっとみてきました。やはり2人時代の最高傑作だと思います。

レコードはA面とB面があります。アルバム「ワインの匂い」はA面で個々の恋愛事情に想いを馳せ、B面でより広く大きなテーマに心を揺さぶられる、そんなレコードです。A面は物語性を持った作品群ですし、特にB面の「愛の唄」「幻想」「老人のつぶやき」という流れは圧巻としか言いようがありません。

ここからオフコースは5人のバンドへと舵をきっていくのですが…。私自身、5人のオフコースからのファンなので2人のオフコースの存在って幻のような気がしないでもないです。小田さんも鈴木さんも「幻想」のように「みんなを包めればいいのに」と思ってしまいます。でも、それは難しい事なのでしょうね。だから幻想なんですよね。一度でいいからお二人が生で歌う「幻想」を聴いてみたいです。

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