見出し画像

外国人への医療提供体制の実態 ~厚生労働省『医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査』から読み解く~


※公開資料がある場合は、なるべく本文からリンクで跳べるようにしています。
※・・・長いです。

はじめに

世界のグローバル化、および日本の観光政策により、日本に在留あるいは訪日する外国人の数は如実に増加傾向となってます。

医療を目的として外国に渡航する医療ツーリズムについては、2010年に閣議決定された『新成長戦略』にも国家戦略として盛り込まれ、2011年に『医療滞在ビザ』が新設されるも、全くと言ってよいほど発展しないまま国際競争に周回遅れで敗北してしまっています。

しかしながら、単純な外国人の数の増加により外国人の医療に対する需要は増加しており、医療ツーリズムとは別に対策を講じる必要があることは明らかです。

これらを背景として、2018年に当時の安倍晋三内閣総理大臣を本部長として、内閣官房健康・医療推進本部が『訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ』を開催し、『訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策』を取りまとめました。

そこで保険医療機関を管轄する厚生労働省が、医療機関や地域における外国人患者受入れ能力向上に係る取り組みや政策立案等に必要な基礎資料を得ることを目的として、医療機関を対象としたアンケート調査を2018年度から毎年行っており、『医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査』として厚生労働省のHP上で公開されています。

読んでみると、収集された情報の正確性やバイアスの面などで疑問を持ちますが、日本においてはとくに大規模な調査であり、「まともに対策がなされていない」という実態をよく表しているとも考えられる内容でした。
今回はの報告書についてまとめ、考察しました。


日本国内における外国人と医療保険の関係

報告書の解説に入る前に、前提条件として日本国内における外国人の属性と医療保険との関係、また本文で用いる用語についてご説明する必要がありますが、詳細は長くなるので別の記事で補足します。

大きく分けて、旅行やビジネスなど90日以内の短期滞在の方を『訪日』、永住を含む何らかの在留資格を持って90日以上滞在している方を『在留』、資格がないにも関わらず90日以上滞在している方を『不法残留(いわゆる不法滞在)』としています。
医療に関わる保険の有無とあわせて、ひとまず下のグラフでざっくり把握してもらうだけでOKです。

ざっくりこんな感じのイメージ

調査の概要

さて、ここからが本調査の解説です。
基本的に執筆時点(2024.7)で最新の2022年度結果報告を考察しますが、データの推移については2019年度からを用います(2019年度で医療機関の分類が変更となったため)。


調査票の内容について

この調査で厚生労働省から都道府県を通じて医療機関に依頼される調査票には、以下の2種類があります。
調査票A:外国人受入体制に関する調査
調査票B:外国人受入実績に関する調査


調査対象医療機関について

調査の対象となっている医療機関は、全国の病院と、京都府および沖縄県のクリニックです。

まず病院については、下記のようなグループに分けられています。

  1. 救急医療機関:第2次救急医療機関、および救命救急センターのある医療機関

  2. 拠点的な医療機関:2019年に厚労省から都道府県に出された、『外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関の選出および受信体制に係る情報の取りまとめについての依頼』に基づき、都道府県によって選出された医療機関

  3. JMIPもしくはJIH認証医療機関:※別途解説

  4. その他(詳細不明)

1.に関しては、おそらく皆さんが通常イメージする救急病院です。2.に関しては都道府県ごとの選定であり、病院の規模は様々です(リスト)
3.については長くなるので、別の記事で補足します。ひとまず、外国人の受入に積極的、あるいは一定の施策を講じている病院といったイメージでよいです。
1.と2.と3.は、複数の条件を満たす医療機関があり、調査の中では重複してカウントされている場合があります。


2022年度の調査対象病院は全体で8,188施設で、回収率は受入体制についての調査票Aが64.9%、受入実績についての調査票Bが57.4%です。
それぞれ2019年度から、おおむね同じくらいの数で推移しています。

4年間で、だいたい同じようなサンプルの推移

調査票Aの回答数ベースでは、それぞれの医療機関の数は以下のようになっています(上記のとおり、重複あり)。
医療機関の種別に対する設問に無回答の医療機関が多いのが気になりますが、200床未満の施設が全体の68.2%と多いこと、拠点的な医療機関ないし認証機関はそもそも数が少ないこと、1.~3.に該当する場合は回答している可能性が高いことから、無回答の施設はいずれにも該当しない中小規模の病院と考えられます。

1.~3.は重複あり
1.救急医療機関、および1.~3.のいずれにも該当しない医療機関の割合が多い


クリニックについては、とくに観光客の多い二府県を選定したものと考えられますが、その時点でそもそもバイアスが大きいうえ回収率が毎回30%弱と悪いこと、またクリニックは保険医療機関であったとしても病院と比較して圧倒的に機動的であり、自由診療や外国人に対する施策も独自に行えることから、今回の考察からは省きます。


結果の解釈のために必要な考察

いろいろと気になる点があったため、調査結果に入る前に、結果を解釈するために必要と思われる考察を述べます。
結果についてもだいぶ抜き出して省略してますし、フラットに結果を見てみたい方はまず報告書を直接読んでもらうといいかもしれません。
今回は、僕個人のまとめと考察なので、ご容赦ください。


誰が回答しているのか

病院については、厚生労働省の『医療機能情報提供制度』に基づいたWEB上の情報提供システムである『G-MIS』というものを用いているようです。
万年ヒラ社員である僕は当然このシステムを知りませんでしたが、医師の場合は経営層しか知らないのではないでしょうか。

では誰がこの調査に回答しているのかというと、そのような設問はありませんでしたので、推察するしかありません。
まず院長や副院長といった経営層の医師が、このような面倒な報告作業を行っているとは考えにくいです。
これまでの日本の医療界の歴史や調査結果からもわかるように、外国人への医療提供についての関心は非常に低く、(通常高齢な)経営層の医師がこの分野において自院の状況を把握しているとはそもそも考えにくいです。
調査の結果『外国人受入れ体制整備方針』を整備している病院は全体で4%と少なく、このような病院の一部には担当医師がいるかもしれませんが、調査票の入力まで医師が行える(行う)レベルの病院というのは、色んな意味でほぼ皆無のように思えます。

ということで、実際に入力しているのは事務の方になっているのではと考えられます。
しかしながら、上記のとおりそもそも受入れ体制整備をしている病院(4%)や担当部署がある病院(2.3%)はごくごく少なく、多くの場合は担当でも何でもない事務の方が、関心の高い医師のサポートや多職種での話し合いがないまま入力をしている絵が思い浮かべられます。
自分が関わってないどころか興味もなく、回答のクオリティの良し悪しで評価されるわけでもないですから、そもそもなんて回答すればよいかわからなかったり、回答するための情報を集めようとも思わない、ということは容易に想像がつきます。

僕もこれよりはるかに作りが酷すぎる多施設研究の入力をしたことがあり、気持ちはわかるので回答者をディスるつもりは決してありませんが、回答の精度管理がやや難しい調査だということは、意識する必要があるかと思われます。

しかしまぁ、そもそも外国人医療についてまともに準備している病院が少ないことから、調査票Aの受入れ体制については、ある意味事務の方一人でも自院の状況を反映した回答が可能かもしれません(諸々知りません、やってませんといった回答が多い傾向あり)。

調査票Bの受入れ実績については、1年間の実績となるとかなり精度は低くなりそうですが、設問の定める調査対象期間が対象年のうち1カ月(9月)ですので、頑張って調べてくれているのではと推察されます。
ただし、調査票Aに比べて回収率が毎回1割程度低く、面倒な作業であることは間違いなさそうです。


調査票A:外国人受入体制についての調査

各種施策やサービスの認知度と利用状況について

厚生労働省が公表している医療機関で利用可能な資料、また医療費未払に関する対応や報告システムとして以下のようなものがあります。

また、厚生労働省から委託された企業が行っている事業として、以下のようなものがあります(【】は委託先企業)。

これらのうち、医療機関向けマニュアルの認知度は比較的高かったものの、その他の情報やサービスの認知度、あるいは利用率は医療機関全体で1~6%程度、拠点的な医療機関に至っても3~23%程度とかなり低い結果でした。
院内で広くアンケートを実施したりしていなければ、前述のごとく、おそらくは事務職で入力を担当した方の認識を問う形になってしまっている可能性はあります。
また、例年の結果がほぼ変わらず推移していることからも、医療機関の関心の低さ、調査の意図するものや実際の現場で起きている外国人診療の問題点が、フィードバックされていないことが伺えます。


受診状況の把握や課題抽出について

「自院における外国人患者の受診状況(患者数、国籍、言語、在留か訪日か等)を把握しているか」という設問があり、結果は下記のとおりでした。

そもそも外国人診療の実態が、よく把握されていない

さらに、受入れ体制の現状把握および課題抽出を実施しているかという設問に対する回答は、以下のとおりでした。

自院の受け入れ体制の実態や課題を把握しようとしていない

まず受診状況の把握について、「詳しく」と「おおまかに」の定義や程度が不明で回答者によって異なるでしょうが、少なくとも詳しく把握できている医療機関はごく少数です。
また、現状把握と課題抽出の両方を実施していると答えられる医療機関もごく少数です。
ただしいずれも、JMIPないしJIH認証機関は当然ながら高い結果でした。

そしてこれらの結果は、2019年度調査からもほぼ割合が変わっていません。
コロナ禍でそれどころではなかったこと、とくに訪日外国人の数が激減していたことなど特殊な事情はありますが、在留者の医療需要は変わりませんし、その後訪日外国人の数が再び増加することはわかりきっていたのにも関わらず、多くの医療機関がこの間何の進歩もしてこなかったことが伺えます。


院内の体制整備、専門部署について

自院で『外国人患者受入れ体制整備方針』を整備しているかといった設問では、整備していると回答したのは全体でわずか4%でした。

外国人診療について準備がない

外国人対応マニュアルの有無についての設問もありますが、結果はほぼ同じです。
外国人の対応にたびたび苦慮すると考えられる救急医療機関や、拠点的な医療機関として登録されている病院ですら、上記の結果であるのは驚きです。
しかも、それぞれ2019年度からほぼ無動であり、数年で全く整備が進んでいないことがわかります。
まぁ実際、僕も10年以上急性期病院で働いていましたが、外国人診療についての病院の方針やマニュアルという話を聞いたことがありません。

また、外国人対応専門部署の有無についての設問では、部署があると回答したのが全体では2.3%であり、そのおよそ半数はJMIPもしくはJIH認証機関です。
認証医療機関以外では、5,315医療機関中の54施設のみという結果でした。
さらに専門部署の職員数はおおむね1-4人と少なく、その中心となるはずの『外国人患者受入れコーディネーター』は兼任者のみの割合が60%以上といったところから、なかなかに不十分な体制と考えられます。

これについては、そもそも日本の保険医療機関が国民皆保険制度にほぼ完全に依存した非営利事業体であり、医療に直接的に関わること以外のことに対し、財政的にもマインドセット的にも投資をし難いといった背景があるため、やむを得ないと考えられます。(この辺が問題の本質なんでしょうが)


医療通訳について

医療通訳については、想像に難くないですが全体で93.3%の病院が0人という結果でした。
残りの約7%のうち、専任を配置している医療機関も意外と80施設ありますが、兼任のみの施設の方が259施設と多いです。
兼職については、事務職が5~8割で、続いて医師・看護師が多いようです。

また、HP上など何らかのチャンネルで患者自身に医療通訳を手配するよう案内している医療機関の割合は、全体で59.2%でした。

これらの結果についても、一定の注意は必要と考えられます。
医療通訳という分野はかなり特殊で、外国語でのコミュニケーションがネイティブに近いレベルで可能であったとしても、医療におけるコミュニケーション特有の問題が生じ得るため、専門的なトレーニングを受けた者が行うことが推奨されています。

このため、十分な語学力のある医師や看護師が直接話したり通訳したりする場合はギリ許容範囲内な場合もあり得ますが、トレーニングを受けていない事務職の方や、患者が連れてきた家族や友人などは本来不適当と考えられます。
専門的な教育や検定を受けた外国語を習得した日本人、または日本語を習得した外国人が医療通訳を担うのが、最も望ましいとされています。

専門の資格and/orスキルのある医療通訳は、いくつかのサービスで電話ないしビデオ通話にて利用できます。
また、スマホやタブレット端末での機械翻訳についても、単純な翻訳ソフトだけではなく、医療通訳に特化したサービスもあります。
それぞれ、別の記事で補足します。
ちなみに、電話通訳やビデオ通訳、医療通訳専門機械翻訳サービスの利用率はおそらく認知度やコストの問題から高くはありませんが、ポケトークを筆頭として一般の翻訳ツールの利用率は高いようです。
僕も診療で使ったことはまだ少ないですが、海外旅行ではポケトークは必須アイテムでした。


訪日外国人患者(医療渡航)の今後の受入れ方針について

医療渡航、いわゆる医療ツーリズムに対する方針については、以下のとおりとなっています。

医療ツーリズムの受入れについては消極的

医療ツーリズムの受入れについては、多くの病院が消極的であることがわかります。
救急医療機関や拠点的な医療機関において、依頼があれば受け入れるという割合が比較的多いのが意外でしたが、自ら施策を講じるつもりはなく、外部の者がコーディネートしてくれるのであれば、といったところでしょうか。

医療ツーリズムのコーディネートをする外部機関としては、『医療渡航支援事業者』という業種があります。
医療ツーリズムが発展していないのに比して意外と数は多く、実態がわかりにくいところではありますが、サービスの質を担保するための認証制度を設けている団体(MEJ)や、情報共有やガイドライン策定などを進めている団体(JIMCA)があります。

また、認証医療機関で必ずしも積極的に受け入れる方針になっていないのは、JMIPとJIHの建付けが異なることによるものと考えられます。
それぞれ、詳細は別の記事で解説します。


医療費について

前述のように、在留資格を持っている方は日本の医療保険の条件下であり、日本人と同様に診療報酬点数表において1点10円で計算されます。
これ以外の自由診療となる外国人の場合の医療費の計算については、病院が独自に決定することができますが、ほとんどの病院では診療報酬点数表を用いて1点をいくらにするか、といった計算で行われています。

多くの病院で、自費診療であっても1点10円で計算している

また、自由診療の場合に診療費以外で追加的な費用請求をしているかといった設問の回答は、以下のとおりです。

多くの病院で、追加の費用請求をしていない

上記の結果からわかるように、多くの病院では外国人の自由診療に対して日本の保険と同一の1点10円で計算し、なおかつ追加的な費用請求をしていません。
外国人への対応については、有料の通訳サービスなどを利用しなかったとしても、診療自体や手続き、リスク回避のための対応、あらゆる場面でのコミュニケーションにおいて、現場のリソースが日本人とは比べ物にならないほど消費されます。

外国人患者の医療保険の状況はさまざまであり、計算方法が異なると混乱を招いたり患者への説明責任が発生するということはあるでしょうし、またこれまで外国人患者の比率が少なかったりそもそも保険診療以外の経験がないなどといった背景はあるでしょうが、明らかにコストがかかっており今後機会が増加することが想定されることから、経営判断としてはナンセンスと言えるのではないでしょうか。

『社会医療法人』の医療機関については、自由診療でも社会保険診療報酬と同一の基準で計算すること必要があるためこの限りではありませんが、それでも外国人への自由診療に対して経費を請求することは差し支えないとの厚労省通知があります。

一方認証医療機関においては、高い診療費や追加費用を請求している施設が多く、当然ながら先行した施策がとられています。


未収金対策について

未収金とは、医療機関が患者に請求した金額のうち支払われなかった金額をいいます。
未収金の定義は調査によって違ったりしますが、本調査では「診療の対価を請求したにも関わらず、請求日より一カ月と経ても診療費の一部または全額を支払っていない場合」とされています。

未収金はもちろん日本人でも発生し、患者の絶対数から未収金の発生数や累積の額は日本人の方が多いはずですが、外国人の未収金リスクが高いことは容易に想像できます。
実際にコロナ禍前の2018年の調査では、外国人診療のある医療機関のうち約1/3で外国人の未収金が発生し、平均の未収金額は約32~42万円/月、約140医療機関の合計額が約4,400~6,000万円/月と報告されています。

未収金対策の取り組みについての結果は、下記のとおりです。

ほとんどの医療機関が、外国人の未収金対策をしていない

また、医療費回収のための取り組みについては、下記のとおりです。

ほとんどの医療機関が、医療費回収の取り組みを行っていない

そもそも医療機関が未収金を回収できていない問題はいまに始まったことではなく、日本人に対しても対策が不十分な場合が多かったのでしょうが、外国人に対しても未収金対策を行っていない病院が大半であることがわかります。
認証医療機関においては、ほとんどが何らかの未収金対策を行っていると回答していますが、医療費回収の取り組みについてはなぜかやや低い結果でした。

医療費回収の取り組みは分割払いの実施が最も多いですが、自治体によっては『外国人未払い医療費補填制度』というものがあるようです。
認知度や利用しにくさといった問題が推測されますが、そもそも財源は税金であるということは認識しておく必要があります。


本人確認について

在留外国人患者への保険証以外による本人確認実施の有無についての結果は、以下のとおりです。

保険証は偽造できますよ

このように、偽造が可能な保険証での確認しか行っていない医療機関が多いですが、在留カードないしパスポートで本人確認をする医療機関も、まあまあ多いという結果です。
今後は保険証がICチップ付きのマイナンバーカードに統合されていくため、問題の一部はやっと解決されていきます。
しかしマイナンバーカードすら偽造されており、未収金対策等のためにも、目視ではなくマイナンバーのデータ読み取りに加え、やはり在留カードやパスポートの確認と記録は必須と考えられます。


調査票B:外国人受入れ実績についての調査

前述のとおり、調査期間は対象年のうち一カ月(9月)です。
外国人の属性として、おおまかに在留(90日以上の中長期滞在)、訪日(90日未満の短期滞在)があることを、再度確認しておきます。

外国人患者全体の受入れの実績

対象期間に1人以上の外国人患者受入れがあったかどうかについての結果は、以下のとおりです。

単月でも、多くの医療機関で外国人の診療が発生している

このように救急医療機関、拠点的な医療機関、認証医療機関ではかなりの確率で外国人の診療が発生しています。
全体としても50%という結果ですが、上記3種類の病院の回答数の合計と近いため、その他の病院では発生頻度は低いようです。
つまり、外国人は直接にしろクリニックからの紹介にしろ、上記3種類に該当する病院に集中するという結果です。


在留外国人の受入れについて

基本的には外来が診療の入口となり、日本の外国人診療の大半は在留外国人に対してのものなので、1人以上の外国人受入れありと答えた病院のうち、9割以上で在留外国人の外来診療実績ありと回答しています。
別途、在留外国人の入院についての結果は、下記のとおりです。

在留外国人への診療が発生した場合、入院となるケースも多い

救急医療機関で入院が発生していない割合が意外と多い印象ですが、救急医療機関は予定を組んで精密検査や治療を行う病院でもあるため、適切な理由で紹介受診してもその時点で入院は要さないことは多々あります。
しかし、日本人なら入院していた状況でも外国人特有の事情で入院しなかった可能性や、軽症者でも安易に救急病院が利用されているといった可能性も、否定はできません。
一方、認証医療機関では入院が受け入れられやすい傾向にはあるようです。

外来、入院でそれぞれ在留外国人の受入れありと回答した病院について、平均の延べ人数/月は下記のとおりになります。

受入れのある病院では、毎月多くの外国人患者を診療している

外国人の受入れ実績のある病院では、単月でこれだけ多くの在留外国人を診療しているようです。
逆に、受入れがないと回答した医療機関が、とくに救急病院において約3割もあるのが不思議なくらいです。
地域差が大きいことが伺えますが、真面目にデータを洗ってないのでは・・・とも思えるくらいです。


公的医療保険、民間両保険の有無

在留外国人の受入れ実績のうち、『公的医療保険の未加入者』有無、またそのうち民間医療保険を持っている患者の有無についての結果については、外来・入院別に以下のとおりです。

公的医療保険を持たない在留外国人に対する診療が、かなりの頻度で発生している
入院でも、同様に公的保険未加入者への対応を要している

公的保険に未加入かつ民間医療保険を有している人の診療実績の有無については、外来の方は良いですが入院の方の数字が前の設問と一致しており、誤ってそうなので記載はしていません。
(誰か厚労省の担当部署に知り合いがいたら、教えてあげてください)

次に、公的保険未加入者の診療実績があると回答した医療機関において、平均の延べ患者数/月は以下のとおりです。

公的医療保険未加入の在留外国人患者は、それなりに毎月病院に来る

これを見ると、毎月まあまあな数の公的保険未加入の在留外国人を診療しているようです。

前述のとおり、90日以上滞在している在留者は、一部の公的保険対象外となるビザで入国している人以外で、正規の在留資格を有している人は基本的に公的医療保険を持っているはずです。
にも関わらず、上記のように比較的高率に公的保険未加入状態の在留外国人への診療が発生しているということは、法令順守意識、情報処理や手続きに必要な能力、経済力などが低く公的保険未加入状態となってしまっていたり、そもそもオーバーステイや不法在留状態である人を診療している可能性があります。
これらの方は、当然ながらとくに未収金などのリスクが高いです。

一方、一部では公的保険が不要な経済力や大手外資企業の充実した民間保険を有している人もおり、そのような人はむしろ歓迎すべき相手とも考えられます。
このように、公的保険未加入のうち民間保険を利用した在留外国人患者の割合については、下記のとおりです。

一部の在留外国人は、公的保険がないが民間保険が利用可能な状態

認証医療機関で民間医療保険を有している患者の割合がやや多い傾向にあるのは、これらの病院の施策の結果である可能性があります。

もちろん、人数ベースでは在留外国人は公的保険を有している場合がほとんどです。
調査結果に表はありませんでしたが、人数で計算したところ、在留外国人患者の保険の状態は下記のとおりでした。

在留外国人の大半は、日本の公的保険を利用可能
入院も同様

このように無保険状態の人は4-8%程度ではありますが、医療費をほとんど回収できない可能性もあり、とくに注意が必要と考えられます。


在留外国人患者の国籍について

受け入れた在留外国人の国籍について、受入れありと回答した医療機関(重複あり)の割合のランキングと、平均人数ランキング10位までは以下のとおりです。

医療機関が国籍を把握できていないケースが多い

まず、いずれも『その他(不明含む)』が多いことが目立ちます。
これについては下記のような複数の要因が考えられますが、詳細は不明です。

  • 在留外国人が多様化し、11位以下も含む選択肢以外の国籍の患者が増加している。

  • 選択肢にない特定の国籍の患者が多い地域があり、平均人数を押し上げている。

  • 『不明』をポチりがちな回答者がいる。

  • 本当に国籍を把握できていない。

国別のそれぞれのランキングを見ると、当然ですがおおむね在留者自体の数と相関していそうです。
ただし、在留者の数に対して医療機関にを受診する人数がどの程度いるかは、年齢、文化や性格、仕事や金銭的余裕、周囲のサポートの有無、地域差など、色んな要因が絡み合っていることと考えられます。


訪日外国人(医療ツーリズム以外)の受入れについて

一方、90日未満の訪日外国人に対する実績は、当然ながら在留外国人に対するものと状況が異なります。

1人以上の外国人受入れありと回答した病院のうち、1人以上の訪日外国人(医療ツーリズムを除く)を受け入れありと回答した病院の割合、またそのうち民間医療保険者ありと回答した病院の割合、および平均の患者数は下記のとおりです。

在留外国人に対し、訪日外国人の受入れ実績のある病院は少ない
入院も同様に、在留外国人に比べ少ない
また、民間保険に加入している人は少ない
訪日外国人患者数は在留者ほど多くはなく、地域差も大きいことが想定される


在留外国人のデータに比べ、訪日外国人の受入れ実績がある病院は少なく、認証医療機関ですら上記の結果です。
これは、通常の医療機関は彼らを顧客と捉えておらずマーケティングをしていないことに加え、そもそも旅行やビジネスで外国に行く人が若年であるか、高齢でも比較的健康状態が良いということも要因と考えられます(超肥満の旅行客も見ますが・・・)。
また、地域差がかなり大きいと考えられるため、診療実績がない病院が多いというのも、実態かなと思います。

受入れありと回答した病院においての、民間医療保険の有無についての割合は下記のとおりです。

8割程度のケースで、民間保険利用なし
入院も同様

無保険で1㎜も問題ないほどの富豪は少ないでしょうから、ごく少額の外来診療でない限りは、訪日外国人患者の場合は8割程度以上の確率で支払い能力に問題がある状態といえます。
また、たとえ民間医療保険が利用できたとしても、そのやり取りや手続きにはかなりのリソースが必要になるため、実際のところ対応に苦慮するケースが全例と考えておいた方がいいかもしれません。


訪日外国人患者(医療ツーリズム以外)の国籍

受け入れた訪日外国人の国籍について、受入れありと回答した医療機関(重複あり)の割合のランキングと、平均人数ランキング10位までは以下のとおりです。

訪日においても中国人、ベトナム人を診療する機会が比較的多い

訪日外国人の患者数自体が多くはないため、今後のトレンドやイレギュラーなことがあればランキングがすぐに変わりそうですが、中国人はもともと、ベトナム人は近年の訪日観光客数が多くなってきていることに加え、国内の在留者も多くサポートを比較的受けやすい可能性があり、受診に繋がっているのかもしれません。


医療ツーリズムの受入れについて

個人的に最も興味がある、またこれまでと異質の課題をはらんだ分野です。
医療ツーリズムの患者を受け入れた医療機関についての結果は、以下のとおりです。
※これまでと違い、『外来・入院』と『検診のみ』に区分されています。

医療ツーリズムを提供している医療機関は、ごくわずか
外国人への健診は、コロナ禍を経て廃れていっている?

医療ツーリズムを受け入れている医療機関はもともと少なく、コロナ禍でリセットされてしましましたが、今後の動向に注目したいです。
比較的ライトな事業として健診も注目されていたかもしれませんが、現状では施設数でも患者数でも外来・入院を下回っています。
医療ツーリズムに積極的な総合病院でも、健診は日本人で手一杯といったところもあるようです。


医療ツーリズム患者の実数と民間医療保険利用

上記は受入れ医療機関の割合ですが、外来・入院受入れ件数と、そのうち民間医療保険利用者の延べ件数については、以下のとおりです。
※医療機関種別の()は、受入れ施設数。
※カウント方法は、「新患・再来等の区別なく、すべてを合計したもの(当該月に同一患者が2回外来受診した場合は2名とする)」とのことですので、個人をカウントした人数ではないことに注意を要します。

医療ツーリズムの受け入れ数は単月で500件以上/60施設と、増加傾向にはある
民間医療保険利用は、必ずしも多くない

2022年9月の単月で上記のような数字であり、入院・外来の内訳や詳細な内容は不明ですが、意外と数が多いなという印象でした。
しかし、上述のように同じ人が同じ月の別の日に複数回受診や入院をした場合は複数回カウントされるため、実際の人数は結構減る可能性があります。
あと、延べ人数総数が585人であるのに対し、平均人数が9.75人と記載があり、どういう計算になっているのかよくわかりませんでした。
(ちゃんと全施設、設定の条件で回答できてるのかな・・・)

また、民間医療保険を利用する患者は少ない傾向にあります。
詳しくはまだ勉強不足ですが、そもそも医療を目的として渡航している以上、海外旅行保険に入れない可能性があります。
なので、一部の人がもともとの勤め先の企業の保険など、何らかの特別な条件下で入っているものを利用している可能性があります。


医療ツーリズムを受けた患者の国籍

受け入れた医療ツーリズム患者の国籍について、今回は受入れありと回答した医療機関数(重複あり)のランキングと、患者総数ランキング10位までを記載します。
※医療ツーリズムに関しては、実際の人数(国内の総数)やどのくらいの施設に分散しているかが関心事であるため。

やはり中国が、受入れ施設数でも総数でもトップ
次いで、ベトナムが伸びてきている

やはり、いずれも中国がトップであり、次いでベトナムです。
これは、医療滞在ビザ発行数のランキングとも一致します。

コロナ禍を経て、医療滞在ビザ発行数は中国の回復が鈍い代わりに、ベトナムが伸びてきている

また、これら2か国は比較的分散しているようですが、例えば韓国が4施設で25人、カナダが2施設で10人など、国によっては特定のルートがあることが伺えます。


医療ツーリズム患者のICD分類(対象の病気の種類)

数が合わなかったので、リストにないか無回答のものも多かった可能性がありますが、患者の病気の種類は以下のとおりでした。

癌の治療を求めて、日本に来る患者の割合が多い

やはり、最も多い理由は癌でした。
本来日本の強みでもあるはずで、かつ実際に検査や治療、フォローアップを提供できれば比較的高額になることから、最も強化していきたい分野と考えられます。


未収金について

外国人に限らず日本の医療機関の大きな問題ですが、今回の調査でも貴重な結果が得られています。
未収金については、単月ではなく直近会計年度についての報告です。

まず、全体の約6割の医療機関で未収金が発生しており、その総額は回答した約1,400の施設だけで約611億円/年、平均でも約4,300万円/年と巨額です。

このうち外国人患者による未収金については、668施設で総額約8.8億円/年とのことです
外国人による未収金の割合と平均金額は、全体で1.4%(約132万円/年)とごく一部ですが、患者数自体は日本人の方が比較にならないほど多いはずです。また、拠点的な医療機関で2%(約201万円)、認証医療機関で6.2%(約398万円)と全体より多く、外国人を積極的に受け入れるほど金額も割合も大きくなる傾向があります。
このことから、外国人による未収金の問題は無視できないと考えられます。

しかし前述のとおり、認証医療機関以外では外国人に対する診療の詳細、なんなら未収金についても詳細を把握できていない可能性があり、実際に全体で2割程度の施設は未収金の設問に無回答となっています(おいおい…)。
このため、実際の未収金総額、また外国人による未収金総額のいずれもさらに大きいと考えられ、加えて未収金自体や外国人の状況をよく把握している認証医療機関の数値が、一般の病院より大きくなっている可能性もあります。

外国人のうち、在留・医療ツーリズム以外の訪日・医療ツーリズムのいずれで未収金が発生しているかという問題ですが、そもそも回答率に大きなばらつきがあるものの、圧倒的に在留外国人によるものです。
在留外国人による未収金は、回答を得られた約20%の医療機関だけで、入院・外来・不明合わせて約9.3億円でした。
一方、訪日外国人による未収金は、回答を得られた施設が約6%と低いですが、総額245万円でありその差は明らかです。
さらに、当然そうなるべきですが、医療ツーリズムの未収金はほぼ0です。

データの欠損が多く正確性には欠けますが、傾向としては、在留外国人=未収金リスクというのは間違いないと考えられます。


まとめ

この調査事業自体、また2022年度報告について、改めて要点をまとめます。

  • 厚生労働省が2018年度から毎年行っている、医療機関の外国人の受入れ体制および受入れ実績に関する大規模なアンケート調査である。

  • 回答の精度管理が難しい部分があり、一部の結果の解釈には注意を要する可能性がある。

  • 外国人の受入れに積極的なJMIPないしJIH認証機関を除き、外国人受入れ体制はかなりの割合で整備されておらず、コロナ禍というイレギュラーな事態はあるも、2018年以降ほぼ変化していない。

  • 多くの医療機関で、月に数十~200人以上の在留外国人患者の診療が発生している。

  • 在留外国人患者の約4~8%は、公的医療保険も民間医療保険も利用できない状態であり、とくに注意を要する。

  • 医療ツーリズムを除く訪日外国人に対する診療は、在留外国人に比しても少ないが、7割以上の患者で民間医療保険を有しておらず、注意を要する。

  • 医療ツーリズムの発展は遅れており対応している施設もわずかだが、60施設で約580件/月と、対応可能な施設においては実績ができてきている。

  • 医療ツーリズムで来日する外国人の国籍では中国とベトナム、疾患群では癌が多い。

  • 医療ツーリズムの未収金はほとんど0にコントロールされているが、在留外国人の未収金リスクは高い。

  • そもそも、全体の未収金が多すぎる…。


おわりに(感想)

結果についての考察は、その都度書いているので省略します。

感想としては・・・、とりあえず疲れた。
(多分)資料の中の間違いを見つけるほど、関係者より、なんなら日本一この資料を読み込んで、他の情報と関連付けながら考察したのではと思えるくらいです。
執筆に数日かかり、気が付けば15,000文字くらい・・・。
誰にも頼まれてないし報酬もないのに・・・。

でもまぁ、将来的に自分のやりたいことに関する大事な基礎情報をまとめることができ、満足です。

しかしながら、外国人という特性、またとくに医療ツーリズムについては社会保障としての医療とはまた違った産業としての特性があることから、いろいろな角度からの調査や考察を要しますし、関連する機関も厚生労働省だけではなく、経済産業省、観光庁(国土交通省)、外務省、また日本医師会などなど多岐にわたります。

そもそも日本の医療の制度(法律)、インフラ、業界構造、医療従事者のマインドセットに至るまで、『外国人を診る』ということをほとんど想定してきませんでしたし、いまだに全体としてはシフトチェンジできていない感があります。

結果として医療ツーリズムが発展しなかったことだけでなく、それ以前に防御量が低すぎるのは大問題だと思います。
言うなれば、日本人に対する医療についてはどんどん重装備にしてきた歴史の中で、外国人に対してはひのきの棒と布の服のまま過ごしてきたような感じです。

これらについては、また次の機会に、気合を入れ直して執筆したいと思います。
・・・が、ひとまず補足の記事を書かねば・・・。
(気合で連続投稿しましたので、リンク最後にリンク貼ってます。)


主に自分のために書いた記事であり、最後まで読んで下さった方は本当にありがとうございます。
きっとその筋の人しかいないはずですので、参考になりましたら幸いです。


関連記事





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?