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外国人への医療提供に際して知っておくべき日本の状況(前回記事の補足)


はじめに

前回の記事では、日本の医療機関の外国人受入れ体制および実績についての、厚生労働省による全国調査レポートについて、詳細にまとめました。
かなり力いっぱい作成しましたので、ぜひともご覧いただけるとありがたいです。

今回はこちらの記事の補足もかねて、日本において外国人への医療提供に際して知っておくべき、環境要因的な部分をまとめていきます。
※なるべく本文のリンクで、参考のページに跳べるようにしてます。


外国人の属性と医療保険の関係について

まず日本に入国、在留、あるいは不法残留している外国人の数については、出入国在留管理庁のHPで統計データやプレスリリースを確認できます。

R.5年末時点での情報では、外国人入国者者数は約2,584万人とコロナ禍を経て急激に増加し、R.6年ではコロナ禍前の水準である3,000万人を余裕で突破すると予想されています。
基本的に、これらの多くの方が観光やビジネスなどで90日以内の短期滞在をする方と考えられ、いわゆる『訪日』外国人の方です。
短期滞在の方は、民間旅行保険や外国でも有効な職場の保険を有している方も一部にいるでしょうが、多くは日本国内で有効な保険を有していない無保険状態の可能性があります。

次に、永住を含む何らかの在留資格を持ち、90日以上の中長期に日本で暮らす方は『在留』外国人といわれます。
在留の状態にある方は、医療滞在ビザでの入国など特殊な状況を除き、基本的に国民健康保険ないし社会保険(健康保険)に加入する必要があります。

外国人の方にも保険料を負担してもらうというところではありますが、最低たった90日の在留資格で世界最強の日本の国民皆保険制度のもとで医療サービスを受けられるのはいかがなものか、実際に悪用と言って差し支えない行為も見受けられる、などという議論はありますが、今回は割愛します。

また、世帯主が日本国籍でないにも関わらず生活保護が支給されている例もあり、R.5年末時点の厚生労働省による調査結果では、約46,000世帯とされています。
外国人に対して生活保護が支給されてるのって、あと厚生労働省の通知で行政が運用してるのってマジでどないやねん、などといった議論はありますが、今回は割愛します。
ちなみにH.26年(2014年)に最高裁にて、生活保護法が定める『国民』に外国人は含まれないとの判決が出ています(・・・が、相変わらず支給され続けています)。

最後に、出入国在留管理庁によるとR.6/1/1時点で不法残留』(いわゆる不法滞在)者数が約79,000人とされ、前年から約8,600人増加しているとのことです。
不法残留の方は当然無保険状態と考えられ、医療にかかる必要が出たとしても、支払い能力がない可能性が高いです(一部、荒稼ぎしている人もいるようですが)。
マジで日本の入管や警察、司法の機能どないなってんねん、などといった議論はありますが、今回は割愛します。
ちなみに、不法残留者への生活保護支給の却下は違憲ではないという最高裁判決もあり、社会保障審議会の資料からも、明確に生活保護法の対象外とされています。

ざっくりこんな感じです


外国人受入れに積極的な医療機関の認証制度について

背景

日本の医療の歴史は基本的に国民皆保険制度の上に成り立っており、法律や制度設計、業界構造、インフラや医療従事者のマインドセットに至るまで、『日本人の、日本人による、日本人のための医療』に全振りしてきました。
※よくよく見ると、『日本人の(現役世代から強制徴収される社会保険料と税金で成り立つ)、日本人(の医療従事者とメーカーの良心と自己犠牲)による、日本人の(高齢者と体制)のための医療』という悲しい現実が隠れているようですが・・・。

このため、もともと外国人の診療や自費診療をあまり想定しておらず、一般的な医療機関は外国人を受け入れる意思も十分な準備もありません。
しかしながら、医師法の『応召義務』のため外国人だからといって診療を拒否することはできず、日本国内の外国人が増加してきていることから診療の機会が増加しています。

そこで、社会インフラとしての責務を担う and/or 収益獲得を目的として、外国人を積極的に受け入れる方針を掲げてその体制を整え、関連する機関からの認証を受けている医療機関があります。
日本国内においてそのような認証は3種類あり、それぞれ特性が異なりますので解説します。


JMIP(Japan Medical Service Accreditation for International Patients:外国人患者受入れ医療機関認証制度)

日本国内の外国人が増加する中で高まる医療需要に対応するため、厚生労働省が2011年度に実施した『外国人受入れ医療機関認証制度整備のための支援事業』を基盤として作られた認証制度です。
病院機能評価などが基準に入っており、保険医療を行う病院に対する認証制度です。

運用機関は一般社団法人 日本医療教育財団であり、こちらは厚生労働省の外郭団体のようです。
このため、認証の目的としてはあくまで医療インフラとして外国人の受入れ体制を整備することであり、もともとの保険医療同様に非営利の性格をもった内容です。
・・・が、そもそも完全に非営利で外国人を円滑に診療できるようにしたい(現場の生産性低下や未収金などのトラブルを防ぎたい)だけであれば、体制を自主的に整えるだけでいいはずなので、わざわざ認証を取るということは、外国人患者から選ばれて収益の機会にしたいという一定の考えはあるでしょう。

地域インフラ整備としての性格が強いこともあり、認証施設は全国に分布しています。
いっぺん一生懸命カウントしたのですが、割とちょこちょこ更新されるので、今回は正確なカウントを諦めました・・・。
執筆時点で、およそ70施設くらいのはずです。

もともとインバウンドが目的ではないこともあり、管轄する財団が海外に対してPRを行っているということはないようですが、後述する国内の外国人向けサイトではJMIP認証医療機関をピックアップできるようになっています。


JIH(Japan International Hospitals)

JIHは、海外からの医療ツーリズム受入れを促進するため、医療ツーリズム患者の受入れに意欲と取り組みのある医療機関を認証し、海外に向けて積極的に推奨するために作られた認証制度です。

運営期間はMEJ(Medical Excellence JAPAN)で、こちらは経済産業省系の団体であり、理事には公的な団体だけではなく民間企業の方も入っています。
医療・ヘルスケア関連産業ののインバウンドおよびアウトバウンドを推進しようという立場で、厚生労働省およびJMIPとは全く性格が異なります。
このため、JIHとJMIPの両方を取得している病院は少数派のようです。

結局対象となるのは保険医療機関(病院)ですが、上記のとおりインバウンドを目的として外国人を受け入れる意欲と準備があることで認証を受けることができ、MEJが英語や中国語などで海外にも発信することで、医療ツーリズムを求める患者に選ばれることを目的としています。

執筆時点で全国に44施設あるようですが、やはり東京に集中していたり、地方においては陽子線治療など特殊な施設が認証を受けていたりします。

JIH認証医療機関の分布(HPより引用)


JCI(Joint Commission International)

JCIは国際的な独立機関であり、国際社会のヘルスケアの質と安全性を向上させることを目的とし、世界中の医療機関の医療の品質と患者の安全に関する認証を行っています。
評価基準は外国人を受け入れられるかといったことではなく、あくまで医療の品質と安全性を評価していますが、自国の地域住民にこの認証をアピールする必要はないでしょうから、基本的にインバウンドを目的としているものと考えられます。

執筆時点で世界中で約980施設、日本では27施設が認証を受けており、やはり東京など都市部に集中しています。
個人的には、日本特有の課題をクリアしていくためにJIHを取得するのは良いかと思いますが、国際的な競争力を獲得するにはこのJCIの認証が必須なのではと思います。
JCI認証医療機関のうち、JIHの認証は受けていない医療機関の方が多数派のようです。


医療機関の取り組みと認証のまとめ

全国の医療機関の意欲ないし取り組みと、上記3つの認証制度の関係をざっくり示すと、おそらく以下のような感じです。

ざっくりこんな感じのイメージ

3つの認証制度の性格の違いなどから、複数取得している医療機関は現状で少数派のようです。


外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関

上記3種類のような認証制度ではありませんが、2019年に厚生労働省から都道府県に対して、外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関を選出するよう依頼が出され、各都道府県で選出された医療機関が公表されています。
こちらは病院だけではなく、クリニックも選出されています。

選出された医療機関は、日本政府観光局(JNTO)のウェブサイトにて、日本語、英語、中国語、韓国語で検索できるようです。


外国人医療に必須のサービスや事業体

日本の保険医療機関は基本的に保険医療サービスに関連することにしか投資がし難く、そもそも大半の病院が赤字なので、自力で外国人への医療提供に必要な要素をすべて整備することはできません。
このため、必要十分な診療を行う、あるいは医療ツーリズムを受け入れるとなれば、外部のサービス利用や事業体との協業が必須となってきます。

これらについて、サービスの内容や関連する企業、団体について解説します(いわゆるコンサルを除く)。


医療通訳

言うまでもなく、外国人に対して最大のボトルネックである言語コミュニケーションを解決してもらうために、必須の役割です。

これは前回の記事にも書きましたが、単に日本語と相手側の言語の両方が十分に話せるだけでは不十分であり、医療特有の用語を理解し通訳ができること、プライバシーや心理面、さらには文化的な違いへの配慮などが求められます。
患者側に通訳者を手配させたりする場合もあるかと思われますが、重大なコミュニケーションエラーの元になるため、適当ではありません。

このことから、通訳の中でも専門分野としての『医療通訳』というものが確立されており、日本においても一般社団法人 日本医療通訳協会(MIAJ)が教育カリキュラムや検定試験を提供しています。

しかしながら、自前で医療通訳を雇用できる医療機関はごく限られていること、国内の外国人が多様化する中で多くの種類の言語への対応が必要なことから、基本的には通訳デバイスや外部のサービスを利用する必要があります。

これら、医療通訳のデバイス、また電話やオンライン医療通訳ができるサービスと企業をご紹介します(汎用の翻訳・通訳は除く)。

mediPhone(メディフォン株式会社):
スマホやタブレット内のアプリを使って、テキストや音声で医療用語に対応したAI翻訳が可能です。
アプリから、専門の医療通訳との電話通訳・ビデオ通訳を利用することもできます。
また、医療通訳の派遣、文書の翻訳、外国人受け入れ体制支援なども行っています。
Google出身のCEOが2014年に立ち上げた事業から発展したスタートアップであり、現在では多くの医療機関で利用されるだけではなく、厚生労働省から複数の事業を受諾したり、消防などでも採用されています。

MELON(コニカミノルタ株式会社):
同様に、スマホやタブレットで医療に対応したAI翻訳、また医療通訳とつないでビデオ通訳が利用可能です。
運営会社のコニカミノルタ社は1873年創業で、多数の子会社含め様々な事業を行っている、いわゆる老舗の大企業です。


医療渡航支援企業

必要に応じての外国人診療については、地域インフラとして院内の体制を整えてね、という厚生労働省的な考え方がベースになりますが、医療ツーリズムは全く性格が異なる事業ですので、専門のコーディネーターが必要となります。

諸外国では、医療についてそもそも社会インフラだけではなく営利目的の産業という側面もはっきりしていることから、医療機関がコーディネートの専門部署に投資できます。

一方、医療ツーリズムを目的とした患者の問い合わせから来日・受診、帰国までは、本人と医療機関の間だけで適切にコーディネートすることは、非常に難しいです。
これは、前述のように保険医療機関がその機能に十分な投資を行うことが困難だからです。
一部の医療機関では専門部署やコーディネーターを設置していますが、医療渡航ビザの手続きを含め、必要な機能のすべてを担える状況にはないはずです。
(美容や再生医療など、そもそも自由診療という分野に関してはこの限りではなく、実態の把握も困難であり割愛します。)

日本の医療ツーリズムには、受診者と医療機関の間に外部のコーディネーターが必須

このため、『医療渡航支援企業』といわれる事業体に間に入ってもらい、コーディネートしてもらう必要があります。
医療渡航支援企業とは、訪日前から帰国後にわたる一連の支援(コーディネート)サービスを行う事業者です。

日本の医療渡航ビザの取得には、『身元保証機関』との手続きが必要です。
身元保証期間は経済産業省、または元が旅行業の場合は観光庁の認可を受けています。
ただし実際は医療滞在ビザなしで健診や医療サービスを受けるケースもあり得るため、これらをコーディネートする広い意味の医療渡航支援企業もあるのかもしれませんが、詳細不明です。
基本的に、日本においては医療渡航支援企業≒身元保証機関と考えてよいかと思われます。

身元保証機関は、調査時点で経産省認可で172社、観光庁認可で65社もあります。
これだと、医療機関もどの企業が信頼できるのかわかりませんよね。

医療渡航支援企業に対しても品質の向上と担保が必要だということで、これまた認証制度があります。
前述のMEJがAMTACおよびMTAといった認証制度を設けており、調査時点で一番ゆるいMTAはHPに公表がなく詳細不明ですが、AMTAC認証3社、準認証3社となっています。

このほか、相互に情報交換や勉強会を行い、業界のガイドラインを策定し、今後国際メディカルコーディネーターの資格を策定するなどして業界の基盤を醸成しようと活動する、JIMCA(国際メディカル・コーディネート事業者協会)という団体もあります。
僕もすでにJIMCAの個人会員になっており、いろいろ情報交換させていただいています。

AMTACないしMTA、またはJIMCAの会員企業といった、質を担保された企業を選ぶという考えは必要かもしれません。

だいたいこんな感じのイメージ


その他

その他、福岡県を中心とした九州の医療機関で構成され、外国人受け入れ態勢の整備などを目的とした九州国際医療機構(KIMO)などの地方団体もあります。
九州以外はよく知らないので、知っている方がいればコメントください。

また、コンサル系の会社も方々で関わっていると思いますが、詳細不明で幅も広すぎるので割愛します。


業界まとめ

いままで解説した業界内の構図を、関連する省庁ともあわせて図示すると、こんな感じです。
わからなかったら、もう一回読んでください(笑)。
加えるべき要素をご存じの方がいたら、ぜひ教えてください。

外国人医療・医療ツーリズム業界図


医療ツーリズムに対する関連省庁や団体の姿勢

日本政府および各省庁

医療を監督しているのはもちろん厚生労働省ですが、医療ツーリズムは営利的な産業であり、目的が異なります。
また、外国人ということから外務省や法務省、またインバウンドや災害対策などの観点からは観光庁(国土交通省)など、さまざまな省庁が関わっています。

全部解説すると大変(というかすべて語れるほどの知識がない)ので、公表されている様々な資料から読み取ったところだいたいこんな感じです、というところで許してください。
ちなみに、日本政府としては『2010年から』『国策として』推進する立場です。

ざっくりこんな感じ


日本医師会

日本の医療を語るうえで、常に忘れてはならない団体です。
日本医師会は、地域の在留ないし訪日外国人への医療提供については体制を整備する必要性を認めつつ、医療ツーリズムには明確に反対の立場であり、上記の新成長戦略発表後にも即座に対応しています
リンクはそのときの2011年の資料でだいぶ古いですが、よかったらご覧ください(今週のワンピースくらいおもしろいです)。


おわりに

今回は、医療ツーリズムを含む外国人に対する医療提供に関わる日本の環境について、まとめてみました。
参考になりましたら幸いです。
ではまた次回!(・・・だいぶ酷使したので、ちょっと休みます)


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