昭和ライダーエレジー8
ヤマハGT50か?ホンダXE50か?
悩んでる時点で俺には原付バイクで
日本一周を目指すのは無理かも
知れないと思えたあの日
※このお話は俺が高校生だった頃、1977年
(昭和52年)の物語ですが、フィクションの為
登場する人物、団体等は実在するものとは
一切関係ありません。
第八話
カズキンの言葉を信じて俺とヒデミは
素早くバイクに跨りエンジンに火を入れ、
三木巡査を置き去りにしようとした。
当の三木巡査は
「キーは持ってる。プラグは確認した。
今日は大丈夫だ!どこまでも追い回して
スピード違反の現行犯で捕まえてやる!」
と、意気揚々に三人の後を追い始めた。
しばらく走るとエンジンから
「ボッ、ボッ、ボボボッ……」
と音が聞こえてくる。
何だろう?と思った矢先、エンジンが
止まってしまった。
「一体どうしたんや?プラグはOKやし、
ガソリンは朝礼の際に確認はしたし……。
もう一回みてみるか?」
黒タンを路肩に停め、改めてタンクを確認
してみた。満タンだった。
では何故?
答えはタンク下にあるガソリンコックが
OFFになっていた。
これではガソリンが供給されずに止まるのは
当たり前だ。
「クソッ!あのガキ共にまたやられた!」
そんな三木巡査との攻防も今回でひとまず
終了となった。
ホント、当時(70年〜80年代)の田舎は
何にもないから、夜な夜なバイクでぶらついたり(地方に暴走族がいる理由はほぼコレ!)
友達んちに行ってはたむろってた。
前にも書いたけど、コンビニなんて
まだ無かったし、(ただし、これは田舎に
限った事で、18歳で上京した時、初めて
セブンイレブンを見て腰を抜かした!
だって、夜の11時まで(当時)お店が開いてるなんて考えられん!
俺のいた所の駅前通りの繁華街、20時には
閉まってたし、22時なんて誰も歩いて
へんかったからね。
生まれ育った街が嫌いで田舎を飛び出た……
とかいうのではなく、他の街を知ってみたい
気持ちがでてきたのよ。
いずれ日本一周でもしてみたいなぁと思った
訳だけど、まずは日本の首都を!と思い
上京したんだ。
原付きで日本一周はいいとしても、やっぱり
このVハンはネックになってくるわ。
まぁ、元に戻せば済むだけの話やけど……。
見た事ないやろ?Vハンで日本一周のヤツ。
こうして辻󠄀との約束した一ヶ月が過ぎて、
Vハンミニトレを返却する日が来た。
「辻󠄀っ!返しに来たで!ありがとう」
「どうやった、ミニトレの乗り心地は?」
ヨンフォアを洗車しながら辻󠄀は答えた。
「うん、車体がコンパクトやから身体の
小さな俺でも楽に足が着くし、小回りも
効くし2ストの吹け上がりも小気味ええし、
これは売れたのが分かるわァ〜。
まさに後世にまで残る名車の一台になるのは
間違いないわ!」
忖度やお世辞抜きに俺は感想を述べた。
「そやろ、そやろ。で、決まりか?」
「いや〜、一点だけな、ちょっと……」
またも忖度抜きで、はっきりと言う事に。
「ネックはこのVハンやねん。何でまた、
オリジナルをいじり倒すん?」
「え〜、カッコええやろ?」
「もったいないな〜!オリジナルなまま
やったら価値も上がるかも分からんのに」
「ふ〜ん。そうか……そうかもな」
何故か俺はマジモードで話出した。
「俺らが乗り継いで、語り継いでいけば、
俺らの子、またその子らが引き継いでくれると思うねん、絶対に!」
辻󠄀も思うところがあったのか、
「そうか、そうなんやろな。歴史や流行は
繰り返されるって言うもんな!」
「メカニック的な事もテクニカル的な事も
今よりは絶対に進歩しているはずなんや。
この先、未来のバイクは。
けど、バイクが持つ、人との関わり方など
本質的な事は変わらへんのと違うかな?
真摯にバイクと向き合わんと倒れるし、
事故るからな!」
何か熱くなってきたな。
いつだったかTVで、ぐっさん(山口智充)が
「人間には二種類の人がいて、バイクに
乗っている人とバイクに乗っていない人が……
バイクに乗っていない人は " 損 " をしてない
んです。でも、バイクに乗っている人は………
" 得 " をしてるんです!」
って言葉が大好きで、俺がバイクで日本一周をしたい理由の根っこには同じ様な " 得 " を
感じたい、例えば行く先々での絶景や食べ物とか、地元の人々や、すれ違う度にサインをやり合う同じ様なツアラー達との触れ合い。
それを求めてるんだと思う。
「確かにスギケンの言う通りかもな」
「せやから、お前のヨンフォアのオリジナルのパーツは残しておけよ!何十年後かには
プレミアムがつくかも……やで!」
俺の予言は見事に当たり、
現在、旧車の値段は軒並み高騰した。
今から35年程前に俺はバイクを買った。
アイコンにもあるカワサキFX400R。
当時めちゃ売れたNinjaGPZ400Rのカウルなし
タイプ、いわゆるネイキッドね。
世間ではレーサーレプリカ、フルカウル全盛の時にカウルなしを買ったものだから、
周りの友達にクソミソに言われたんよ!
その度に俺は
「お前らこそ本質が分かってへんわ!
あと1〜2年したら俺の言う事が分かるわ!」
そしたら何が起きたと思う?
一時期のバイクブームも下火になりつつあり
レーサーレプリカというロングツーリングに向かないだろうライディングポジションを
強いられるばかりの舞台に飽きてきた俺たちの前に強烈なインパクトを与えた一台の
バイクが登場したんだ。
カワサキゼファー400 ZEPHYR。
往年のZ1、Z2を彷彿とさせるシルエット。
オートバイらしい佇まい。
自分好みにカスタマイズ出来る自由度。
レーサーレプリカのようにハイスペックでは
ないものの、大人気になり、90年に750cc、
92年1100ccがラインナップに加わる。
若いライダーには目新しく、オジサン達には懐かしく感じていた。
ねッ、流行は繰り返すでしょ?
で、俺は2年早かった…………。
つづく