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昭和ライダーエレジー9

ヤマハGT50か?ホンダXE50か?
悩んでる時点で俺には原付バイクで
日本一周を目指すのは無理かも
知れないと思えたあの日


※このお話は俺が高校生だった時、1977年
(昭和52年頃)の物語ですが、フィクションの
為、登場する人物、団体等は実在のものと
一切関係ありません。

第九話

次はいよいよ前田から提供される事に
なっている、ホンダXE50を迎えに行く。

「前田、今日例のバイクを引き取りに
行こうと思ってるんやけど………」
帰り支度の教室で俺は声を掛けた。
「あぁ、あれから一ヶ月経ってんやな。
かまへんよ!それなら一緒に帰ろか!」

前田は二つ隣の市から電車通学をしている。
夕方、俺と前田はJR線に揺られながらも
やはりバイクの話で持ち切りだった。
「なぁ、中免取るの大変やったやろ?」
「いや、そんな大した事、なかったで。
………とはやっぱ言えへんな。けど、一回目
落ちた時、裏のコース場へ他の受験者を見に行った際、ずっと眺め続けていて気付いた事があるんや。それはな………自分が思うより
大袈裟にする事なんやねん。
左右確認、後方確認とか。
本当に見てるか、見てないかは試験官には
あまり分からへんのや!
ドライバーがちゃんと認識して確認してる
かどうかなんてな。
なので頭を大きく振ってアピールしてやると
納得してくれるようや。
せやからメットはフルフェイスじゃなしに、
ジェット型のがええよ。
あのツバが動いていると見ているみたいや」
「へぇ~、そんなコツがあるんやね」
JR線の揺れに軽い目眩を感じながらも
俺たちはバイク談義を続けていった。

「上のクラスは狙わへんの?」
中免(普通二輪免許)を取った前田が
聞いてくる。
「う〜ん、正直欲しいけど、4回も5回も
試験を受ける気力もないし………。
その頃になると多分、興味はクルマ、四輪に
移ってんのちゃうかな?
地元の連れはほとんどが農家をしてるから
家の手伝いで車の免許は必須なんよ。
俺んちはサラリーマンやから一緒にバイクで
走ってくれるヤツは少なくなるやろな。
そしたら俺も車にシフトチェンジやな!」
「上手い事、言わんでええねん!
そうやな、地方は車がないとな、生活がな。
おっと、やっぱ二人で話してたら時間が
経つのは早いな。次、降りるで!」

前田の家は駅から25分程歩いた所にある
らしく、念願のXEとのご対面もあと少し。
駅前から幹線道路を抜け、田んぼが見える
田園風景が拡がってきた中、
ひときわ大きな家が見えてきた。
あれっ?この感覚って………。
「スギケン、お疲れやったなぁ。あそこに
見えてるアレ、俺んち!」
「マジかぁ〜!でっか!」
辻󠄀ん家といい、前田ん家といい、なんで
農家ってあんなにデカい家なんやろ?
そんなに儲かるの?

「スギケン、こっちこっち!」
呆気にとられボケ〜っと立っていると
前田に呼ばれたので、慌てて声のする方へ
行ってみると、トモの家と同じで二階建ての離れがあった。
1階が物置き、2階が前田と弟の部屋。
「ぎょえ〜!」
その物置き兼ガレージを見た途端に俺は
訳の分からない声を出していた。
赤いタンクのCB400ヨンフォアの隣に
本日のメイン、XE50が並んでいた。

そこにあったホンダXE50。
ホンダお得意のカブ系4ストロークエンジンで
4速リターンのシフトパターンを持つ。
ヤマハやスズキなどが低排気量のバイクには
2ストロークエンジンを使う事が多いなか、
ホンダはスーパーカブという化け物バイクの
ノウハウを持っていたためか、
独自路線を走っていた。
本格的2スト戦争に入っていくのは、
もう少し後、レーサーレプリカ時代NSRが
登場してからである。
などと、そんな解説はどうでもええねん!

「まっ、前田。これなんやの?これ」
「おっ、さすがスギケン。これの良さが
分かってくれてんねんなぁ!」
「いやいやいや。どうなん、これ?
長距離とかはしんどいやろ?」
俺は聞いてみた。
「まぁ、あのカッコやからな。しんどいのと
ちゃう?あっ、何、自分ロングツーリングとか考えてんの?」
「えっ?あぁ、いや、その、まぁ……」
「そら、あのハンドルで、例えば日本一周とかは無理と違うかな?」
辻󠄀に続いて前田にもツッコまれた。
「ゴホッゴホッゴホッ!」
「あれっ?図星やった?」
そう、そこにあったXE50はまごうかたなき
V字ハンドル、鬼ハンだった。

「ま〜え〜だ〜。何でや?何で皆Vハンに
すんの?運転しづらいのに………」
ほんとに俺は涙が一筋流れた。
「え〜、この方が目立つやん!あかんの?」
「いや親切で声を掛けてくれたんやから、
何の文句がありましょうぞ!ありがたくお借りしますよ。で、返事は一ヶ月後に!という事で大丈夫やな?」
「まぁ慌てて決めんでもええよ。多分、辻󠄀も
同じ事言うと思うわ」
「ありがとう!ほんなら借りて行くわ!」
「なんやもう帰んのか?晩飯食べていき!」
前田からの晩御飯のお誘いは中々の魅力的な
提案だったが、
「いや、ちょっと早よ帰らんと………。
ほな、ありがと!」
俺は前田ん家を後にした。
                 つづく

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