名残り雪
山形の米沢から出てきて、東京の大学を卒業した従兄弟は、そのままこちらで就職をした。
某芸能プロダクションだった。
従兄弟がそこでどんな仕事をして、どんな夢を見ていたのかはよく知らない。
ただ、5年くらい頑張った後に、いろいろあって、彼は郷里に帰る決心をする。
ちょうど今時分の季節だ。
まだ東北方面に新幹線はなく、米沢までは結構な長旅だったはずだ。
彼は上野からではなく、大宮から特急に乗ることにして、出発前日に浦和にある我が家に挨拶に寄ってくれた。
東京での生活について聞くと、
いい歳をしたおじさんたちが、頭を突き合わせながら、君の瞳になんたらとか、ハートにどうたらとか、年端のいかないアイドルたちのキャッチコピーを考えたりする仕事だったという。
笑い話にしていたが、あまり楽しそうではなかった。
その日は一泊して、いよいよ帰郷の朝、関東には雪が降った。
大雪だった。
もちろん雪国育ちの彼から見ればなんでもない積雪であったが、首都圏は完全に麻痺してしまって、大宮までも出られない。
仕方がないので我々は酒盛りを始めた。
従兄弟は飲んだ。
ニコニコしながら飲んだ。
「山形じゃこんなのは雪のうちに入らん」
「なんだ情けない」
「ははは、東京の馬鹿野郎」
ニコニコしながら痛飲し、結局帰郷を日延して、そのまま潰れてしまった。
涙雨ならぬ涙雪だなと思った。
春先に雪が降ると思い出す話である。
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