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親方の憂鬱

同じアトリエにいるOくんは大工である。
特に工務店などに勤めている訳ではなくて、自分で仕事を取ってきて、基本一人で請け負っている。

いわゆる一人親方という立場で、業界には結構こういう人も多い。

一人なので、一から家を建てるみたいな仕事はあまりしない。
いや、しないこともないが、基礎工事だのクレーンを使った棟上げの類は、人数が必要なのでやはり人に任せる。

では何をするのかといえば、メインは内装工事である。

家を建てるというのは、各々専門性を持った職人の共同作業で、水道配管をする人、電気工事をする人、最近は少ないがタイル職人や建具職人などなど、それぞれにプロがいて、一人で全部はカバーしきれない。

その中でOくんは、壁だの床だの天井だのの室内の構造部分を担当するわけだ。

実際彼は、クロス貼り以外は大抵こなす優秀な職人で、最近は主にリフォームの仕事などを受けているらしい。

さて今日のこと。

一人親方は、その名の通り一人で仕事をすることが多いが、もちろん一人では手が足りないとか、期日までに終わりそうにないとか、そういうイレギュラーな事態もしばしば発生する。

Oくんの現場も、施主さんが急に入居を急いだらしくて、Oくん大いに困ってしまった。

そういう時は一人親方同士、助け合いのネットワークもあって、手の空いている他の親方が出張ってきて、手伝ってくれたりするわけだが、誰も空いていない日だってあるのだ。

そこまで追い込まれると、わたしに声がかかる。
わたしは大工でも何でもないが、趣味がDIYのお父さんよりは、もう少しこの手のことに通じている。

まぁ猫の手も借りたい時の、猫の手であるわけだ。

というわけで一年振りにガチの工事現場の仕事に入った。
9時5時でみっちり、ちょっと特殊な壁張りの仕事をしたのだが、正直疲れた。
別に重いものを持ったとか、体を捻ったとかいうわけではないれけれど、普段使わない部分を使ったからであろうか、作業直後からもう筋肉痛が出ていて、これは明日あたり悲惨なことになるのではないかと思う。
うむ、知ってはいたけど、わたしも若くはない、これを何日もやっていたら確実にどこか怪我する予感がするのだが、幸いなことに今回はこれ1日きりである。

とはいえ、たまにはこんな仕事もいいものだ。

それと、もう一人やはりどこかから手伝いに来ていた、初めましての方がいたのだけれど、この人がずっと独り言をいっている。
独り言を言わない時は、何やら知らないを歌っている。
とても楽しそうだ。

一人親方はかくあるべきだ。

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