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歳なり(その2)

我が家はどちらかというと髪の毛の薄い家系である。

わたしはわりとおでこが広い方で、なのでこれはいわゆる後退禿げになるのではないかと、高校生の頃から恐れていた。

父親に、お前のおじいさんは40代には全くもって禿げていたのだと聞かされ、それでも父さんにはまだ毛があるではないかと指摘すると、追い討ちをかけるように、隔世遺伝なる概念を教えられたものだ。

そしてこの意地悪な父親も、50代後半にはかなり地肌が見えていきて、息子への警告が自分に回ってきたことに気づいたのであろう、「〇〇増毛法、100本お試しキャンペーン」というのに家族に内緒で応募した。

父親がこの100本に満足したかどうかはわからない。ただあれは一本の地毛に人工毛を結びつけて3本に見せるという荒技なので、メンテナンスに行かないでほおっておくと、土台の毛が伸びてきて、髪の毛が途中で3本に枝分かれするという実に奇妙な様相を呈する。
父親のささやかな老化への抵抗も、こうして周囲の知ることとなった。

もちろん最終的には父親も、そのまた父親と同じ道を行くことを受け入れざるをえなかったのである。

そんなあれこれもあって、当然わたしも禿げてしまうものだと、かなり早くから覚悟はしていた。
実際父よりは遅れたが、50代には明らかに頭髪のボリュームがなくなってきて、いよいよかと思ったものだ。


ところがである。

これまた老化の結果であるのだが、50代半ばで、わたしは前立腺肥大による頻尿で泌尿器科を受診することとなった。
そして、ここでホルモン系に作用する薬を処方されるのだが、これが我が呪われた家系の呪縛にストップをかけるのである。

つまりこの薬の「副作用」によって、なんと頭髪の後退が止まったのである。

いや、止まったどころの騒ぎではない。明らかに毛量が増えた。(余談ながら、髭も薄くなった)

調べてみると、この薬、いわゆるAGAの治療薬としても有名らしい。(ただそういう使い方をする場合は保険適用外なのだそうだ)

これは思わぬ展開であった。
いいのか悪いのかわからないが、体質自体が変わってしまうというのは少し気味が悪い。
髪の毛ならともかく、例えば闘争心とか攻撃性とかいった性格の部分にまで、何か影響がありはしないのか、そういうことを考えると複雑な思いもある。

ちなみに、本来の前立腺肥大の方だが、ある程度よくはなったが、そうそう完治するものではないという。
個人差もあるのだろうが、わたしにとっては頭髪ほどの劇的効果は、残念ながら現れていない。



というわけで、わたしの見た目の老化には、ややブレーキがかかった。

しかしそうなると、今度は禿げない分、白髪が目立つ問題が勃発するのだが、それについては気が向いたら書く。

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