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算数教育の論文を読む②

 前回に引き続き、算数教育の論文を紹介します。

 今回は日本数学教育学会誌の『倍の意味理解を促す指導についての一考察』という論文です。



 この研究は、主に小学校4年生までの計算領域において指導される「倍の意味理解」が割合の学習において重要だとし、「倍の意味理解」を「基準量交換の考え」を引き出す教材によって進められるかを実践を通して考察しています。


 まず、「倍の意味理解」の難しさについて先行研究を参照し、著者は以下のように整理しています。

  • 2倍を2個分などと、累加的に捉えてしまうこと

  • どちらをもと(基準量)にするかによって、相対的な結果が異なること


 そこで、著者は「倍の意味理解」を以下のように設定し、解決の手立てを構想しています。

 倍の意味を「基準量を1としたときに幾つに当たる大きさ」という割合の見方で解釈し,二量の関係を表す数として捉えること

倍の意味理解を促す指導についての一考察,p4


 そして、「基準量交換の考え」は以下の通りです。

 基準量と比較量を入れ変えると,二量の関係を表す数が互いに逆の関係になること

倍の意味理解を促す指導についての一考察,p4

 簡単に言うと、「AをもとにするとBは2倍なら、BをもとにするとAは2分の1」というように、AとBの2つの数量の関係性を「もと(基準量)」から捉える考え方だと言えそうです。

 以上を研究の大まかな枠組みとし、白衣の帽子のゴム紐が伸びてしまったので、頭の周りの長さに伸びるように伸びる前のゴム紐を切るという問題場面を設定し、「倍の意味理解」を促す実践を行っています。

 授業の実際は、本論を読むと発話記録とその分析も載っていますので、御覧ください。



 結論として、実践によって「基準量交換の考え」は子どもたちから生まれたことが報告されています。その結果わによって示唆されたことは以下の2点です。

  1. ゴム紐を教材にすることによって「基準量交換」の考えが引き出される。

  2. 量から割合の見方へ捉え直すために数直線が有効である。


 1に関しては、「伸び縮み」するということが「累加的な捉え」から「基準量交換の考え」へ推し進めた背景にあると著者は指摘しています。

 教育出版の教科書を参照すると、割合の素地を育む4年生の「くらべ方」の単元では、「包帯」を題材にし「どれくらい伸びるかな。」という問題場面があります。そのため、「伸びる」という題材が倍や割合の理解を促すために有効だということはある程度認識されているのだと思います。

 そこに、「縮む」という視点が自然と生まれるように問題設定をしている点がこの実践の面白いところです。

 ゴム紐の伸び縮みという事象を捉えるときに、「縮んだ状態から伸ばす」「伸びたゴムが縮む」というように、時間の経過といいますか、動きを伴った状態で「縮⇄伸」の2つの数量が現れてきます。この「縮⇄伸」と現れる事象が、基準量を交換しても捉えやすくなり、2つの数量を相対的に見せる働きをしているように思えるのです。

 伸び縮みのイメージが非常に捉えやすいからこそ、2で指摘している「基準量交換の考え」を数直線で整理したときに、「あ、この数直線は「縮→伸」ね!」「こっちの数直線は「縮←伸」の方だね!」と、数直線内で基準量が交換されて表現されていることの意味を理解しやすくしていると考えることもできそうです。

 そもそも数直線もそこそこ抽象度が高いものですから、その土台となる具体のイメージがはっきりしているという点で2つの示唆は連動しているのではないでしょうか。



 以上が、論文の紹介となります。

 今回の論文は、私が所属している研究団体で若い先生向けに実践の整理の仕方を話すために読みました。

 論の立て方からなるほどなと思うことが多く、実践研究として是非読んでほしい論文です。


 ありがとうございました。



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