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〔台本〕DEAR


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あらすじ

一人の殺人鬼が育て親に会いに行く話

登場人物

羊:性別不問

所要時間

10min

本編

羊:傲慢ですね。
私を社会の規範に無理やり押し込めようとなさる。
人類「全体」が存続していくために作ったルールに
私「個人」を、押し込めようと。
適応できなければ、悪でしょうか?
悪を社会に背くもの、社会の気に食わないものと定義すると
あなたの信じるイエス・キリストでさえも悪ではありませんか?
主は、紛うことなき人の手によって
茨の冠を被せられ
唾を吐かれ
石を投げられ
十字架にかけられ
死んだ。


私と同じですねぇ。
人殺しと罵られ
唾を吐かれ
石を投げられ
「死刑にしろ」と叫ばれ
私は死ぬでしょう。

牧師殿
貴方は一体何に対して怒ってらっしゃいます?
貴方の愛する教会を血塗れにしたこと?
貴方の愛する子供を血塗れにしたこと?
貴方の愛する信仰を血塗れにしたこと?
はたまた全て?
貴方がここで怒って、哀しんで、益はありますか
貴方のやるべき事は、救けを呼び、祈りを捧げ、命乞いをすることでは?
善きサマリア人であれば、殺されたこの子達のために祈りを捧げるのが先でしょうね。
見たい
聴きたい
理解したい
あなたが人生の多くの時間を割いた「祈り」…
それが「何」かを知りたい。
お母さんに教会に行けといわれたから、内心不満に思いながら教会へ行き、祈りを捧げる。
そういう祈りではなくて。
毎朝祈りの言葉を口にしながら学校や職場では人に毒を吐き、愛することをしない
そんな安い祈りではなくて
本物の信仰を観たいんです。
牧師殿。
貴方は最も正しい信仰をしているように思えた。
家のない子供たちを教会で育て
信じたいと思う子供にだけキリストを教え
一度だって人の悪口を言ったことはなく
犯罪を犯した者ですら寛容にお赦しなさる。
そんなあなただからこそ私は教えを請いたいと、
そう思ったのです。

なので、私は少し落胆している。
貴方の子供たちが殺される光景を目にした時、
貴方が初めにしたことは祈りを捧げることではなく、かつて子だった私を口汚く罵ることでしたから。

残念、無念、せっかく手を血の海に沈めたのに。
さながら私はマクベス。
脳に響く声に従って殺してはみたものの、今は後悔ばかりが渦巻いております。
この手はきっと、ポセイドンが支配する海の水を全部使ったって綺麗にはならないでしょう。

なんて。
お義父さん、お父さん、あなたが私を育てました
この愛する家で、私は兄弟を殺しました。
貴方が毎日口にする「祈り」「賛美歌」「聖句」
全てが理解できなかった。
神だなんて曖昧なものに毎日時間を費やして、一体何をしたいんだろうこの人はと
ひたすらに考えました。
哀しかった。
お父さんの言葉を少しでも理解したかった。
でも、できなかった。

「あなたがたのうちに羊を百匹持っている人がいて、そのうちの一匹をなくしたら、その人は九十九匹を野原に残して、いなくなった一匹を見つけるまで捜し歩かないでしょうか。」
あなたが好きな聖句でしたね、お父さん。
聖書ではこの後、羊飼いは無事一匹を見つけて、見つかった喜びゆえに宴会を開く。
これを初めて聞いた時、随分都合がいい話だと思いました。

今、あなたの羊が一匹、九十九匹を殺しました。

それでも、お父さん。

あなたは私のために喜んでくれますか。

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