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いくつになっても迷子になる男

以前私は極度の方向音痴であることを告白した。
実際そのおかげでいまだに路地裏の世界で迷子になり こう叫んでいるのだ。




ここはどこですか?


と。



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その日は入社前に内定者で親睦を深めるべく東京で飲み会だった。研究職だけではなくてその他開発職や営業職まで集まる一大イベント。

場所は池袋の飲み屋。有志だけだったがそれでも30人以上は集まったかと思う。

そして私は同期の中に輝く一輪の花に想いを寄せていた。唇の下にホクロがある魅力的な彼女。
柔らかい表情と知的な佇まい。私の周りにはそれまであまりいなかったタイプ。本が好きなことは聞いていた。伊坂幸太郎にハマっているという。当然私はその時から伊坂幸太郎ファンになった。単純?純粋と言ってくれ。

早く彼女に会いたい。期待に胸を膨らませながら『重力ピエロ』の単行本片手に高速バスに飛び乗った。


ただその日私は体調が良くなかった。
研究が佳境で連日の徹夜。完全に気力だけで動いていた。さらに自分をいぢめるような夜行バスツアー。早朝東京に着いた時にはすっかりヨボヨボのじじいになっていた。

あかんわ、これ。夜まで持たへん。とりあえず栄養ドリンク。。


ゾンビの如く見知らぬ街を徘徊する。

早朝から空いてるのはマクドくらいだ。ハッシュドポテトの油で吐き気を覚えつつも伊坂幸太郎のストーリーをインストールする。全てはあの子と楽しく会話する為。
栄養ドリンクもしっかり飲んで夜に備える。


そして夕方宴は始まった。
幹事は営業職のイケイケ大学生。私は大学院博士課程なので、同期といっても営業職の皆とは5歳離れている。5歳の差は大きい。22歳の若者はコールという文化圏で生きているらしい。しなびた27歳は後輩が飲み過ぎるのを横目にしっぽり飲むのが習慣になっている。


駄菓子菓子だがしかし


今の私は栄養ドリンクをチャージした いわゆるスター状態だ。そして少し離れた席には憧れの高嶺の花がチョコンと咲いている。
22歳がこちらを見て呟いている気がする。

「あれー、オジサンお酒苦手なんすか?みんな盛り上がってんすから、1人テンション違うとかマジありえないんすけどー」

いやいや、待ってくれ。おれもまだまだできる子なのだ。なぜかと言うとだな。大学時代はテニス部主将として昼はテニス、夜は飲みで他大学のキャプテンと戦ってきたんだよ。だから、そんな目でおれを見るのはやめてくれ。やーめーてーくれー。


そして誰も強制していないにも関わらずピッチャーイッキを始めるマイトン。


「おお!オジサンやるじゃん!認めてやるよ」

といったかどうかは知らないが若者達に馴染めた気がする。やったねオジサン。まだまだいけるぜオジサン。


そこから調子に乗ってイッキを重ねる。


飲み会は盛り上がる。憧れのあの人は酔うとデレデレになるタイプだった。キョーレツかわええ。伊坂幸太郎という武器を手に彼女と距離を詰める。おぉ、なんて楽しいんだ。今死んでもいいかもしれない。

そんなこんなで益々お酒が進む。
ちょっとトイレと席を立つと、人が折り重なって倒れている。


池袋こえー。さすがカラーギャングの街(IWGP世代です)


フラフラしながら席に戻ってまたイッキ。


🟰🟰

ここで突然ですが豆知識。皆さん知ってますか?

栄養ドリンクとお酒の相性は非常に危険だということを。

ポカリでお酒を割るとキョーレツに酔えますが、栄養ドリンクはおそらくアルコールの代謝を促進するのではないか?

体調が悪いのか栄養ドリンクのせいなのか、はたまた単に飲み過ぎたのか。


楽しかった宴会の記憶もそこから途切れ途切れになる。



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次に意識を取り戻した時、私は飲み屋が入るビルの非常階段で吐いていた。(お店の人ごめんなさい)



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その次に意識を取り戻した時は、同期4人に両手両足を持ってもらって移動していた。

どこに向かっているんだ!はなせ!
どういう状況か分からない。そもそも右手を持ってくれてる女の子の名前が分からない。分からないがその子が怒っているのだけは分かった。そりゃ初めて会った日からグデングデンな人間を持たされたら怒るよね。



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そして最後に意識を取り戻した時、私は浴槽でさんかく座りしていた。






ここはどこですか?




服を着たまま浴槽に座る。

そんな経験、部屋の内見の時以外ありえるだろうか。このお風呂広いねーじゃない。



どうやら私は浴槽で朝を迎えたらしい。
目を覚まして記憶を辿っていると横からヌッと現れたのは同期のMくん。


「お、起きたね」


Mくんは優しく微笑み熱いコーヒーを持ってきてくれた。

どうやら私は近くのホテルに運んでもらったらしい。


そして優しいMくんは近くに家があるにも関わらず一緒に部屋に泊まってくれたそうな。もちろんホテルの手続きなど全て彼がやってくれていたらしい。めっちゃいいひと。




ちなみに高嶺の花の彼女はその後別の同期と付き合い始めた。あのデレデレは間違いなく彼女の武器だった。恐らくその日だけで私も含めて多くの男子を虜にしたに違いない。そしてよくよく思い出せば非常階段で吐くよりもっと前に彼女は帰っていた。



私は無力なピエロだったのかもしれない。






🟰🟰🟰🟰


最後まで読んでいただきありがとうございました。

かつての方向音痴についての記事がこちらです。


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