『ワールドブルー物語』 奇跡の2人
僕は夏休みが楽しみで仕方がなかった。
夏休みになれば、生まれ育った町に帰って波姉ちゃんと会える。
波姉ちゃんもいつも笑顔で会ってくれたから僕と遊ぶのは楽しかったのかな、と思っている。
まだ本人に聞けたことはないけれど。
そんな風に過ごす3度目の夏休み。事件は起きてしまった。
僕はちょうど猫を飼い始めた頃で、嬉しくって波姉ちゃんに見せようといつもの公園に連れて行ったんだ。
ところがその日、波姉ちゃんは公園に現れなかった。
どうしてかは分からない。
きっと何か特別な理由があったんだろう。
でも当時子供だった僕はとてもショックでもう二度と波姉ちゃんに会えないのかもしれないと思った。
いつも当たり前のように会ってくれて、約束を破ることなんてそれまでなかったもんだから、よっぽどショックだったんだろうね。
何より、当時の僕にとって波姉ちゃんと会うことが生きがいとなっていたから。
暗くなるまで公園で待ったけど結局波姉ちゃんは来なかった。
そこからの記憶があまりないんだけど、暗い道を一人とぼとぼと母の元に帰ったんだと思う。
そう、あまりにショックで僕は猫のことをすっかり忘れていたんだ。
猫は結局帰ってこなかった。
普段過ごす街とは違うところに連れてこられて飼い主とはぐれたんだ。
そりゃ迷子になるのも仕方ないよね。
必死に探したけど猫は見つからなかった。
そして波姉ちゃんとも連絡がつかなかった。
僕はその夏、飼い猫と大切な人を失ってしまった。
そこからは孤独な気持ちを忘れる為に弱い自分を心の奥深くに閉じ込めることにした。
それこそ必死に勉強したし、体力をつける為トレーニングも相当がんばった。
いつしかそれまでのオドオドした僕はいなくなり、強気でただひたすらに目の前のタスクを正確にこなす今のぼくができあがっていた。
その後ぼくは公務員となり環境調節省の森林保全局というところに就職した。
何度も見る夢ー。
きれいな花が咲く緑がたくさんの場所で波姉ちゃんと一緒にいる夢。
その光景が脳裏に焼き付いていて、自然や緑と近い仕事がしたかったのかもしれない。
そしてほどなくして起きた大災害。
実に地球の3/4が砂漠化するという未曽有の人的災害。
ぼくはたまたま生き残った1/4に含まれていたに過ぎない。
そして世界中の多くの人と同じように、その元凶がワールド・ブルー社であることなんて1ミリも想像せずにこの会社に足を踏み入れてしまった。
「我々と共に、新しい時代を歩む。マイトンさんです!!」
おじいちゃんに導かれる形でワールド・ブルーの社員になったぼく。
そこで再び出会ったんだ。
波姉ちゃんと。
社員の皆に挨拶をしている最中、ぼくの目はくぎ付けになったよ。
まさかあの波姉ちゃんがワールド・ブルー社にいるなんて。
でもここで一社員との個人的なつながりを晒すなんて馬鹿なことはできない。
創業者の孫ということだけでこれから多くの敵が現れるだろう。
何がきっかけで足元を掬われるかも分からない。
だから僕は波姉ちゃんと初対面を装った。
波姉ちゃんも賢い人だ。きっとそんなぼくの考えを見抜いたんだろう。
式典の後、ぼくは波姉ちゃんに問いかけた。
あくまで一社員に会社の状況を確認する体で。
「この会社は働いていてどうかな?」
「はい、何も問題ありません。異常なしです。」
その瞬間、二人の目の前に奇跡が起きた。
「にゃーお」
ずっと昔にいなくなったはずのぼくの飼い猫、ダンが現れたんだ。
何が起きたのか、ぼくも波姉ちゃんも分からなかった。
ただ、消えたあの日の艶やかな黒い毛並のままでダンは再び現れた。
異常なし
その後何度も検証を繰り返してたどり着いた結論。
ぼくの問いかけに波姉ちゃんが異常なしと答えると二人のどちらかにとっての不都合な事実がなかったことになる。
つまり、ぼくと波姉ちゃんの間にあった唯一の不都合な事実。
それがあの日ダンがいなくなったことだった。
ぼくは再び飼い猫と大切な人を取り戻した。
大人になった波とマイトンの再会シーンはこちらにあります。
二人の間で発動する奇跡の力。異常なしはこちら。
そんな二人の最初の出会いから描いていた話の続きとなります。
今回の話でようやく再会するところまで帰ってこれました。
長かった。。
マイトン少年は必死に勉強とトレーニングをするうちに今の強気なキャラになったものと思われます。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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