トラウマ治療の第一人者である、ジェニーナ・フィッシャー博士の話

トラウマ治療の第一人者である、ジェニーナ・フィッシャー博士の話

(ジェニーナ・フィッシャーは、『サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック』『トラウマによる解離からの回復』の著者)

最も困難な苦しみから何か良いことが起こる、と信じることが希望になる
長年の苦しみに意味があると信じることは、とても大切なこと

1990年代、トラウマ治療のパイオニアである、ベッセル・ヴァン・デア・コークのクリニックで働いた当時について

1994年、ベッセル・ヴァン・デア・コークは『身体はトラウマを記録する』を出版した。(全米ベストセラー)

彼は、脳スキャンに基づく研究によって、トラウマは、言語的領域よりも、感情や身体的感覚として記憶されていることを証明した。1994年当初、精神疾患に身体が影響しているなどと、人々は考えていなかった。

1995年より、ジェニーナ・フィッシャーは、スーパーバイザー&インストラクターとして、ベッセル・ヴァン・デア・コークのクリニックで勤務した。クリニックでは、かつての古いやり方では、トラウマを治療できないことが分かっていた

ベッセル・ヴァン・デア・コークは、様々なケース(症例)に対して「身体の方へ行かなければならない(Go to the body)」と繰り返した。しかし誰も、どのように身体に働きかければよいのか、その方法が分からなかった。

言語のセラピストとして訓練された自分たちが、身体へ働きかける方法を探求することは、エキサイティングな経験だった。
トラウマを負った患者は、起こった出来事や日々の困難な出来事を、ただ話すだけでは、回復しないことが明らかだったから。

そして、センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の創始者であるパット・オグデン博士と出会った。
パット・オグデンのセラピーに感銘を受けたジェニーナ・フィッシャーは、パット・オグデンのセラピーを学び、SPのセラピストになった。

センサリーモーター・サイコセラピー(SP)は、どの心理療法にも取り入れることができる。言語療法、EMDR、CBT(認知行動療法)であれ何であれ、セラピストが専門とするどの手法にも、SPを組み込むことができる。

ジェニーナ・フィッシャーのトラウマ治療の基本は、最初に学んだ精神分析的心理療法に基づいているが、博士研究員として学んでいた際に影響を受けた精神科医(ジュディス・ハーマン)から、クライアントに知識を与えることは、かつて意味がないこととされていたが、そうではなく、クライアントが知識をもって、セラピストとクライアントが同等の立場になることは、意味のあることだと学んだ。
だからこそ、『サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック―トラウマの生ける遺産を変容させる』を書いた。

ベッセル・ヴァン・デア・コークからも多くのことを学んだ。
セラピストは、研究結果から影響を受ける。
1990年代には、トラウマ体験をした人は、その体験を語ることによって癒されると信じられていたが、ベッセル・ヴァン・デア・コークは、同じようなトラウマ症状を抱える人々を2つのグループに分けて、1つのグループは、話すセラピーを行い、もう一方のグループは、話すセラピーを行わなかったが、結果、トラウマ症状や苦しみは、グループ間で変わらなかった。この研究によって、トラウマ症状を抱える人がトラウマ体験を語っても良くならないことが明らかになり、トラウマに対する治療法が変わった。

トラウマを治療することは、非常に難しいことなので、トラウマ治療の分野は、常に新たな心理療法を革新していく先鋒となる。
マインドフルネスも、最初はトラウマ治療として始まったが、今は世界中に広まっている。EMDRや内的家族システム(IFS)も、トラウマ治療として始まった。トラウマ治療に関わることは、未知の世界を探求する、とてもエキサイティングなこと。

トラウマとは、体験ではなく、症状である。何が起こったか、ということは、本人の記憶よりも、本人の症状がそれを示している。クライアントが、トラウマ体験から何を得て、どんな影響を受けたか、ということは、症状に現れる。

うつ状態になることで、どのように自分が生き延びることを助けたのか、
不安をもつことで、どのように生き延び、環境に適応してきたのか、
興味や感情を失うことで、どのように生き延びることを可能にしたのか、
希望を捨てて生き延びることを選ぶことは、賢明な選択だった、ということを理解してほしい。そうすることによって、希望に満ちた気持ちで毎朝目覚め、忙しく過ごすよりも、エネルギーを温存して、生きる延びることが可能になった
生き延びるためのとても賢明な戦略であったと理解することによって、希望がない、ということに対する考え方が変わっていく。

「今を生きていないと感じる」というのは、生きていなければ恐れを感じなくてすむ、という対処法だったのかもしれませんし、うつ状態は、かつては失望や圧倒を緩和するのに役立ったことでしょう。子どもでさえも過度に警戒すれば、自分自身を守ることができます。
これらは、潜在記憶による本能的な生存戦略である。
しかしながら、この戦略には常に犠牲がつきまといます。トラウマによる怒り、つながりを断つことなどを放置し続けると、自分の大事な側面が置き去りにされていきます。

ジェニーナ・フィッシャー『トラウマによる解離からの回復: 断片化された「わたしたち」を癒す』(p.54-55)


この動画の中で、ジェニーナ・フィッシャーは、以下の症状は、トラウマ体験に起因している可能性があると述べています。また、トラウマ症状は「異常な状況に対する正常な反応」であると伝えています。

major depression/大うつ病
PTSD
shame/恥
self-loathing/自己嫌悪
anxiety disorder/不安障害
 -OCD(Obsessive-compulsive disorder)/強迫性障害
 -all kinds of Phobia/あらゆる種類の恐怖症
 -social anxiety/社会不安
substance abuse/薬物乱用
eating disorder/摂食障害
suicidality/自殺傾向
self-harm/自傷行為
disassociated symptom and disorder/解離症状および解離障害
borderline personality disorder/境界線パーソナリティ障害