見出し画像

夜明けのすべて / 瀬尾まいこ

2月9日に映画が公開することを知り、
瀬尾まいこさんの「夜明けのすべて」を読んでみました。

やはり瀬尾さんの文章は温かく軽やかで
とても読みやすかったので2日で読んでしまいました。

【あらずし】

知ってる?
夜明けの直前が、一番暗いって。

「今の自分にできることなど何もないと思っていたけど、可能なことが一つある」

職場の人たちの理解に助けられながらも、月に一度のPMS(月経前症候群)でイライラが抑えられない美紗は、やる気がないように見える、転職してきたばかりの山添君に当たってしまう。

山添君は、パニック障害になり、生きがいも気力も失っていた。

互いに友情も恋も感じていないけれど、おせっかいな者同士の二人は、自分の病気は治せなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになるーー。

人生は思っていたより厳しいけれど、救いだってそこら中にある。
生きるのが少し楽になる、心に優しい物語。

Amazonより

◇共感ポイント


山添くんは社交的で多趣味で友人も恋人もいて、、、自分では全くストレスがないと思っていたところから、急にパニック障害と診断されてします。
自分でも理解出来ない状況の中、周りに理解してもらい、
働き、生きていかなければならない。
私には計り知れない大変さがあるだろうなと心が苦しくなりました。

山添くんもそうでしたが、心因性の病気になると、
自分の好きだったものさえ忘れてしまします。
私もうつ病になったときはそうでした。

初めは外に出かけようとすることもありました。
でも、駅のホームで不安になり立っていられなくなったり、
買い物に出かけても急に涙が止まらなくなったり、
友達と出かける約束をしても家を出れなくなってしまったり。
そういうことが続くと、何も楽しみではなくなるし、
何もしたくなくなります。
好きだった運動も、したところで何になるのか。
ご飯を食べるのも億劫で、
何もしないのになぜ起きなければいけないのだろう。。
ただ息を吸って吐いているだけ。何のために生きているのだろうか。
と毎日思っていました。
そんな経験を私もしたので、山添くんが毎日生きるためだけにも働いていることがすごいなと思いました。

美沙のPMSに関しても共感ができる部分もあれば、
症状は本当に人それぞれなんだろうなと考えさせられました。
生理痛や月経前症候群は今では知られるようになってきましたが、
人によって症状が違い過ぎて、同じ女性にも理解し合うことは困難だと思います。

私の場合は生理3日前ぐらいから憂鬱になり、何でもネガティブに考えてしまうようになります。生理が始まると最低2日はずっしりくる腹痛と時には吐き気もすることがあります。
少しのことでイライラしてしまうので、生理前や生理中は人との会話を避けるようにしていますが、その時の体調によっても違うので、28年生きてきてもうまく付き合っていく事はなかなか難しいです。
私の友人には生理中は食べ物の好みが変わる人もいれば、強い眠気に悩まされている人もいます。本当にみんなひとそれぞれで、人間の体は不思議だなと思います。

◇すてきポイント

①瀬尾さん特有の温かく軽やかな文体

一見内容は重そうに見えますが、淡々と物語は進んでいき、鬱になったことがある私でもさらりと読めてしまいました。(もちろん個人差はあると思いますが。)
それは瀬尾さんが、彼らの病気を重々しくは書かずに、
常に前に進んでいる風景を描いているからだと思います。

そして、瀬尾さんの物語の中では「悪者」が出てこないように思えます。
読者によっては「この人嫌だな」と思う人はが出てくるかも知れませんが、瀬尾さん自体が悪者と決めて描いている人物はいないような気がして、私はその描き方がすごく心地よく、安心して読むことができます。

②魅力的な登場人物

主役の2人を中心にとても魅力的な人たちが出てきます。
特に美沙は初め生真面目な女性のようですが、遠慮がなくなるとものすごくお節介で、面白いです。山添くんも初めは人に興味がない無気力な男性ですが、美沙と接していくうちに隠れていた大胆なお節介さんな部分が出てきて、「いけいけーっ」と応援してしまいました。
その他、職場の人や山添くんの前職の上司などもとても魅力的です。

③二人の関係性

山添くんと美沙は一見全然違った性格に見えるのですが、
お互いにお節介で似ている部分も見えてきます。
お互いの病気を知ってからは言葉選びに遠慮がなくなっていき、
時には自分の病気を棚に上げてずけずけとモノを言い合う二人の関係性はどこか滑稽でクスッと笑えます。

恋人でも友人でもない関係。
自分の病気に関して隠す必要がない関係。
お互いの病気に関して気遣い合う関係。

関係性に名前があるとどうしても
恋人なのに〜とか、友人だから〜と
ありもしない型にはめようとして、辛くなることがあります。

二人はお互いに病気だからこそ気を遣わずに話せたり、
踏み込んでおせっかいできたりと
名前のない、とても素敵な関係性です。

こういう病気になった時、支えてくれる人も必要ですが、
この人のために何かをしたい。と目的となってくれる存在も
時には人を救ってくれると思いました。


◇ラストシーン(⚠️ネタバレ含みます!!)

最後の山添くんのシーン

ペダルを漕ぐたびに、春の風が体に触れる。
明日は何をしようか。そんなことを考えながら自転車を進ませた。

「夜明けのすべて」より

これ、本当にすごいことだと思うんです。
明日のことなんて考えられなかった、
考えるという発想すらなかった彼が、明日に想いを馳せる。
「大丈夫」ではなくても大丈夫なんだと、
本当に素敵な終わり方です。

この時私も、
「明日は何をしよう」と考えられる自分がいることに気がつき、
山添くんと一緒に嬉しくなりました。

あの時「明日」を捨てなかった自分にも、
私を見守ってくれた人たちにも感謝したいと思いました。


◇最後に

予告を見る限り、映画は結構原作とは結構変わってくるのではないかなと思います。髪を切るシーンや自転車のシーンは予告だけでも違うことがわかるので、少し寂しくも感じました。
私は瀬尾さんの文章が好きなので、まずは小説を読んでもらいたいなと思います。

映画も主役の2人はとても合っていると思いましたし、
違う点があっても、また違った二人を見たい気持ちもあるので、観に行ってみようと思います。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?