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浅草でコーヒーを(雷門〜浅草寺本堂〜花やしき通り)

今日も浅草はすごい人出だ。観光客でごった返している。コロナ禍前の賑わいを取り戻した仲見世通りは、多言語が飛び交っている。
(やばい、遅刻だ)
この人混みは想定外だった。なぜ待ち合わせ場所を雷門にしてしまったのか。しても遅い後悔をする。
14時2分、雷門到着。案の定、人が多すぎて待ち合わせの相手は見つけられない。写真撮影中のグループがたくさんあって、下手に動くこともできない。いまどこ?とLINEを送ろうとして、「ごめん、10分くらい遅れる💦」というメッセージに気づく。ペンギンが頭を下げているスタンプ付きだ。
こっちは人混みの中急いで来たのに、と腹の奥底でぞわりと冷たい感情が蠢く。しかしそれは一瞬のことで、口から出す息と共に身体の外に抜けていった。
ウサギがOKと書いた看板を持っているスタンプを返して既読になるのを確認する。
5月の連休明けの陽射しは強い。雷門の側面は日陰になっているのでそこに移動する。
真百合に会うのは久しぶりだ。高校のクラスメイトで、別々の大学に進学してからもちょこちょこ遊んでいたが、働き始めてからはお互いの休みが合わなくなり、とんと疎遠になった。
久々に連絡が来たのは1週間前のこと。
久しぶり〜元気〜?という他愛ないやり取りから始まり、会って話そうということになり、私が浅草近辺に住んでいると伝えたら、
「浅草なんて10年以上行ってないよ!」
というので、ここで待ち合わせることになった。
行きたいところや食べたいところを聞いたけれど、
「んー、考えとく!」
という返信があったっきりだったので、この待ちぼうけの時間を利用して勝手にぼんやりと計画を立てる。
まずは雷門を見て仲見世を通り、浅草寺にお参りして、屋台を眺めつつ花やしき方面に抜けてカフェでお昼ご飯を食べて…。
「きぃちゃん!お待たせ!」
3年ぶりくらいに会った真百合はあまり変わっていなかった。
天然パーマの髪を一つにくくり、クリッとした目にそばかす、本人が気にしていたちょっと低めの鼻に丸いメガネを乗せている。
インディゴブルーのコンパクトなTシャツに白いワイドパンツがよく似合っていた。
「やっほー」
私は軽く手を上げて返す。高校時代なら駆け寄ってハグしただろう、私達は大人になって落ち着いたものだ。
「あっついね〜!これ雷門?!すごい人だかり!写真撮っていい?」
どうぞ、と私が言うのを聞くより早く真百合はiPhoneを構えてカシャカシャやっていた。マイペースなところも変わっていない。
満足行く画が撮れたのか、真百合はiPhoneをバッグにしまった。じゃ、行こうかということで、いざ仲見世通りへ。
真百合の反応は大体想定通りで、よろし化粧堂のハンドクリームのパッケージに可愛い〜と釘付けになり、浅草きびだんご あづまの横を通って、きびだんごってほんとにあるんだ!桃太郎の話の中だけの架空の食べ物だと思ってた!と驚きの声を上げ、舟和の芋ようかんを購入し、三鳩堂の人形焼を試食して美味しい美味しいと喜んでいた。
ようやく浅草寺の本堂の前にたどり着くと、おみくじを引くと言って、しっかり凶を引いている。
真百合が引いたおみくじを穴の開くほどじっと見つめているので、
「浅草寺のおみくじは凶が出やすいんだよ」
と、私は慰めにもならない言葉を掛けた。
真百合は黙っておみくじを丁寧に折り、「凶のみお結びください」のところに括り付けていた。
お参りの前に常香炉の煙を二人して頭にたっぷりと浴び、(頭が良くなりますように!)本堂へと登る。天井には大きな竜と天人の絵。
巨大な賽銭箱に五円玉を投げ入れてから、お参りの時には何を考えていればいいのかわからないことに気がつく。神社なら神頼みだけど、お寺の場合は先祖に挨拶すればいいのか?
私がお参りの列を抜けようとした時、真百合はまだ手を合わせていた。
本堂から降りて西側へ向かう。小さな橋を渡って影向堂の方へ。影向堂の前には御朱印待ちの列ができている。ともすれば見過ごしてしまいそうな六角堂を通り過ぎて浅草寺の境内から出れば、そこは花やしき通り。レトロな店と流行りのスイーツの店が一緒に立ち並ぶ。
「なんかテーマパークみたいだねぇ」
いちご飴をかじりながら真百合は辺りをキョロキョロ見回している。
「こんなところの近くに住めるなんて、きぃちゃん、いいなぁ」
素直に羨ましがられると反応に困ってしまう。
えっへん、いいだろう!と言うのもマウント取ってるみたいだし、いやいやそんなことないよ、と言うのも嫌味な謙遜になりそうだ。
「どっかでお茶でもする?何か希望ある?」
困った時の秘技、話題転換。
「んー、何でもいいんだけど〜」
「彼氏困らす女みたいなのやめろや」
思わず突っ込んだ。
「きぃちゃんとゆっくり話ができるところがいいな」
「話?」
「ちょっとねー、色々あったの」
真百合の声が一段低くなる。
「わかった」
私の独断で決めて良いならば、あのカフェ一択だ。

つづく






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