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『THE WAR I FINALLY WON』を読んで。

ある日の図書館で偶然その本と出会った。
新入荷の本コーナーに並んでいたその本は、
「わたしがいどんだ戦い 1939年」

見るからに児童書(後日、高校生向け課題図書だと知った)。草原の中に一人佇む青い服の少女が表紙で、なんとなくナウシカに似ていた。
少女の両側に描かれているのは馬と、軍用機と思われる飛行機。
自然と人工物。昔と今の移動手段。生命と生命を奪う物。
真逆を象徴するようなそれらが並んでいるのにも興味が湧いて、何となくその本を借りた。

『わたしがいどんだ戦い 1939年』の主人公は、第二次世界大戦中のロンドンに住む少女エイダだ。
家は貧しく、また足が生まれつき悪いため、母親から酷い虐待を受けている。母親は小さなアパートの一室にエイダを閉じ込めて育てた。窓から外を見る事はできたが、エイダは極度の世間知らずで物知らずだ。生い立ちを思えば仕方ない事だが根暗でもある。

ナチスドイツとの戦いが本格化するとして、ロンドンの子供達が疎開させられる日にエイダは弟のジェイミー(健常児のため、普通に学校に通っている)と一緒に決死の覚悟で家を逃げ出した。

疎開児童たちは、ロンドンから少し離れた自然の多い町の人達に預けられ育てられる。
エイダは疎開児童として、ジェイミーと共にスーザンという女性に、半ば押し付けるような形で引き取られた。
このスーザンもまた心に傷を持つ女性で、毎年冬になると鬱のような症状で苦しむ。
だがエイダ達の実の母親と違い、とても理性的で教養のある女性なのがポイントだ。

スーザンはエイダとジェイミーに物事を一つ一つ丁寧に教えていく。
エイダはスーザンが世話をしていた馬に心を惹かれて、馬の世話を熱心にするようになる。
だが、実母と離れて平和に思える日々もドイツ軍の爆撃などで困難が生じる。

戦争下でも逞しく生きる子ども達、スーザンの元で癒されて普通の子どものように育っていくエイダの姿が描かれて、『わたしがいどんだ戦い 1939年』は終わった。

その世界観が面白く、余韻に浸っている時に続編の存在を知った。
『THE WAR I FINALLY WON』である。
その時はまだ日本語訳は出版されておらず、待っていれば読めるだろうとは思ったが、あまりに面白かったから待てなかった。

最初に言うと私はハリポタの原書は読めてない。何度も挑戦して何度も折れた(入手したのがイギリス版だったのがいけなかったのかもしれないが…)
だから、読みたいと思ってもこの本が読めるかどうか自信が無かった。

サンプルを読んでみてびっくり。とても読みやすい。
「わたしがいどんだ戦い」の舞台はイギリスだが、著者はアメリカ人だ。アメリカ英語が上手く私の馴染んだ英語と合致したのかもしれない(日本人が学校で習うのはアメリカ英語だ)。
恐らく文章表現の仕方もこの本の著者のキンバリー・ブルベイカー・ブラッドリーさんとJ・K・ローリングさんでかなり違っていて、この本は直接的な表現が多くハリポタは婉曲的な表現が多いとかもあるのだと思う。
ともかく、この本の英語はシンプルで読みやすかった。

という事で迷わず購入した。

『わたしがいどんだ戦い 1939年』のその後の世界が描かれたこの本は、人間関係や戦争関係でエイダに何度も試練が訪れる。
そのたびエイダは強く賢くなっていく。
ロンドンで暮らしていた時は何も知らなかった、何もできなかったエイダがめざましい成長を遂げるのを見守るのが、このシリーズの面白さかもしれない。

戦争下で何をするにも工夫が必要な生活。その中でも登場人物達は最善を尽くして生きる。
とんでもない悲劇や困難が訪れて悲しみに沈む瞬間はあるが、沈んだままでいない、いさせないのがとても魅力的だ。
ヨーロッパ中を恐怖に陥れたヒトラーが思うままにできたのは、結局一部の領域にすぎないと感じられる。彼はユダヤ人の大量殺戮を行った。それは重大で、歴史上でも稀に見る凶悪な事件には違いない。
だが、爆撃をしたからといって、沢山の人を殺したからと言って、それで全てが征服できた訳じゃない。全ての人がヒトラーの思いのままになる訳じゃない。

「不屈のエイダ」という言葉が2巻の中に出てくるが、この物語の核はエイダにある、無限の伸び代を感じさせる強さだと思う。
困難が襲うたびに、それに屈せず打ち勝ち更に強くなっていく。
根暗だと書いたが、元々エイダは明るいタイプではない。彼女を支えているのは弟ジェイミーを守らなければいけないという義務感と馬達との触れ合いで、かつて一瞬見かけた馬を駆る少女だ。

足が悪く、実母から虐待を受けていたエイダだからこそ、その不屈さ、成長する強さが分かりやすく見えやすく皆の前に示されて、皆を勇気づける訳だけど、エイダが持つ不屈さは、きっと人間なら誰の中にもあるはずのものなのだと思う。

だからね。


ヒトラー(やテロリストなど、人の命を軽んじる者達)!!
人の命を奪えば一瞬の間は誰かや何かを征服した王様気分になるのかもしれないけど、悲しみからは必ず人は回復するし、回復させるし、人々は打ちのめされたままではいない!どれだけ酷いことができてもあんた達が思い通りにできるのは膨大な歴史の中の一瞬、広大な世界の中の一部だけだ、ザマーミロ!!


という残虐な行為への悪態を、綺麗な形にまとめたのがこの本なのかな。
と感じた。
とても地味な本だが、課題図書に選ばれるにふさわしい、内容の濃い良い本だ。

1巻目は『わたしがいどんだ戦い 1939年』(THE WAR THAT SAVED MY LYFE)で、2巻目は『わたしがいどんだ戦い 1940年』(THE WAR I FINALLY WON)というタイトルで出版されている。

既に2巻目も日本語版が出されている。

原書を読むつもりなら、1巻を日本語で読んで事前知識を入れておくと、2巻が英語でもぐっと読みやすくなると思う。恐らく、中学英語の文法が理解できていれば、あとはKindleの辞書機能で(←便利)単語はほとんど分かるので、苦労しないだろう。分からない単語も最後のあたりは物語に引き込まれてどんどん頭に入って読めるようになるから英語の勉強には良いかもしれない。

日本語でも英語でも良いが、ぜひ読んでみてほしい。

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