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【創作童話】国でいちばん高くて低い②

前回の続きです)


ところが王様の期待を裏切るように
城に来てからしばらくは

「要らない要らない何も要らない」

と言っていた娘は、ある時から急に

「ちょうだいちょうだい。
新しい靴下をちょうだい」

「ちょうだいちょうだい。
手荒れを治す薬をちょうだい」

「ちょうだいちょうだい。
美しい髪留めをちょうだい」

部屋に閉じこもって何も要らないと
言い続ける日々から一転

部屋を飛び出して
ありとあらゆるものを
欲しがるようになりました。


これには王様や家臣たちも驚いて

ワガママ放題すれば
元の場所に送り返されると思っているのか?

それとも初めて会った時のように
本当は底なしの欲望を秘めていたのか?

など様々な憶測をしました。


急に変わった娘の態度も謎ですが
もう一つ不思議なことがありました。

娘は王様にも家臣にも
顔を合わせるたびに何かしら

「ちょうだいちょうだい」

と恥じらいもなく求めてくる
大変な欲しがりです。

しかし食事も物もたっぷり
もらっている割には
最初の貧相な姿のまま
肥えるでも着飾るでもないのです。

いくら与えても決して満たされず

「ちょうだいちょうだいもっとちょうだい」

と無限に求め続ける娘に
王様と家臣たちは
まるで悪夢だと青ざめました。


しかしどれほど厄介な娘でも
神のお告げによって連れて来た娘です。

むしろどれだけ与えても
見た目が変わらないのは
国でいちばん愚かで
みすぼらしい娘のままで居るように
人外の力が働いているのでは?

と言う者もいました。


お告げの娘である限りは
こちらから追い返すわけにはいきません。

ただ顔を合わせるたびに

「ちょうだいちょうだい」と

ねだられるのも迷惑なので
城の人たちは娘が自由に出歩けないように
食事だけ与えて部屋に閉じ込めようとしました。

ところが、これも不思議なことに
娘は何度閉じ込めても昼間には部屋を抜け出して
そこら中に出没するのです。


それならいくら強請られても
応じなければよいと
王様も家臣も娘を無視しました。

しかしまたもどうやったのか
鍵がかかっているはずの城の宝物庫を勝手に開けて
欲しいものを欲しいだけ持ち出すようになりました。

流石に「それは泥棒だ」と
王様と家臣たちは咎めましたが
娘は自分を城に連れて来た家臣を指して

「約束約束なんでもくれる約束」

と言いました。


娘の言うとおり家臣は
なかなか娘が応じないので

「来てくれたら欲しいものを
なんでも差し上げますよ」

と、つい約束していたのでした。


それにしても娘は
これだけのものを得ながら
いったいどこに仕舞っているのでしょう?

毎日山ほどの食べ物をもらいながら
ちっとも太らないことといい

やはり娘は人ではない何かで
欲しがるわりにはすぐ飽きて
人も物も大事にしない王様への罰として
神から与えられたのでしょうか?


しかし娘がもらったものを
どうしたのかという謎は
間もなく明らかになりました。

実は娘は

「ちょうだいちょうだい」

と欲したものを全て城にいる
身分の低い使用人たちや
街にいる貧しい人たちに

「あげるあげるこれをあげる」

と配っていたのです。


はじめて来た時から
太ることも美しくなることもないのは当然でした。

娘は最低限の食事を除き
もらったものは全て貧しい人たちに与えて
自分は何も得ていなかったのですから。

娘の行いを知っている使用人たちは
自分たちが怒られないように
また貧しい人たちを助けようとする
娘の行動を邪魔しないように口を閉ざしていました。


しかしどう見ても裕福ではない娘が
ご馳走や宝石を持って来るのを見て不審に思った街の人が

「これはどこからもらって来たの?」

と聞いた時

「くれたくれたお城の人がくれた」

と答えたことで
娘の勝手な行動は全て
国からの慈悲ということになり
やがて身に覚えの無い感謝の声が
お城まで届いて事実が判明したのでした。


「もしや人外の術では?」

と考えられていた
部屋に閉じ込めたはずの娘が自由に行き来していた件も
実はすっかり彼女の味方になった
使用人たちが手を貸していたのでした。


「あの子はわしの靴下がボロボロなのを見て
新しいものをもらってくれた」

「あの子は私の手荒れを心配して
塗り薬をもらってくれた」

「あの子は僕が恋しているのを知って
彼女にあげるための美しい髪飾りをもらってくれた」

生まれつき身分が低いせいで
どれだけ懸命に働いても
ちっとも豊かになれない
使用人たちの苦しみに娘は気づいて

「あげるあげるこれをあげる」

と与えることで自らも元気を取り戻したのでした。


王様も家臣もなぜ娘が
自分のもらったものを少しも惜しまず
人にあげてしまうのか分かりませんでした。

自分がすでに十分
恵まれているならともかく

自分は靴下も履いておらず手もあかぎれて
髪を飾るどころか櫛さえ通っていないのに。


しかも事情を知っている
使用人たちはともかく
街の人たちは彼女の厚意を
国からの施しだと誤解しているのです。

どれだけ尽くしたところで
自分が好かれるわけでも
得をするわけでもないのに
娘はどうしてそこまで
人に与えようとするのでしょう?


娘の真意はやはり
王様や家臣には分かりませんでした。

しかし謎の施しをやめさせないことには
そのうちお城の宝物庫は空っぽにされてしまいます。

また国民だって働かなくても
食べ物やお金をもらえる生活をしていては
怠けて国が立ち行かなくなるでしょう。

王様と家臣は娘に味方していた
使用人たちを叱りつけて

「クビにされたくなければ
今後は絶対に協力しないように」

と厳しく命じました。


🍀次回で終わります。最後までご覧くださり、ありがとうございました🍀