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【創作童話】国でいちばん高くて低い①


昔々あるところに若い王様が居ました。

この王様は年齢こそ若いものの
生まれつき優秀でした。

ですので
病によって早くに亡くなった
先王と変わりなく国を統治し
裕福に暮らしていました。


しかし王様には一つだけ
困った点がありました。
それはなかなか王妃をもらわないことです。

女性嫌いというわけではないのです。

むしろ美しいものや
価値あるものは好きですから
金銀財宝や芸術品を集めるように
美しい女性を見初めては
口説いて自分のものにします。

王様は見目もよく
何より嫁げば贅沢に暮らせるので
ほとんどの女性はつつがなく
彼のものになりました。

ところが王様はとんでもない飽き性で
ものでも人間でも一週間も愛でれば
途端に熱が冷めてしまいます。

ただの男であれば
どんな恋愛をしようと個人の自由ですが
王様は国王なので
いつか正式な王妃を迎えて
世継ぎを作らなければいけません。

しかしどれほど美しく
魅力的な女性と出会っても
大抵は一週間ほどで
飽きてしまうのですから
なかなか深い関係は築けません。


王様を飽きさせない王妃を探すことが
家臣にとっての急務でした。

そこで家臣たちは神官に頼んで
お告げを受けることにしました。

神官が王様にとって
ピッタリの王妃はどこにいるのかと
神に問いますと
まもなくお告げがありました。

「この国でいちばん愚かで
みすぼらしい娘を妃に迎えよ」

このお告げを聞いた王様は

「そんな見っともない女は嫌だ!」

と激しく拒否しましたが
こちらから神様に問うてまで
いただいたお告げに逆らうわけにはいきません。

家臣たちに説得された王様は
しぶしぶこの国でいちばん愚かで
みすぼらしい娘を探すことにしました。


すでに決まった相手のいる者を除き
国中の娘が何度かに分けて城に呼ばれました。

具体的な条件は知らせず
ただ貴族だけでなく庶民からも広く
王妃となる女性を募るとだけ聞かされた娘たちは
王様の目に留まるようにおのおの可能なかぎり
美しい装いで城にやって来ました。

しかし日頃どんな暮らしをしているにしろ
必要があれば綺麗に着飾って城に来られるだけの
知性と財力があるなら国でいちばん愚かで
みすぼらしい娘とは呼べません。


ですから王様と家臣たちは
逆に王妃選びのパーティーに
参加しなかった者の中にこそ
お告げの娘が居ると考えました。

そこで改めてリストを作り
今回はどんな理由があっても
参加するように命じました。


ほどなくして集められた娘たちは
王妃には相応しくないと自ら辞退するか
周りに止められるだけあって

もともとの顔かたちが悪かったり
病や貧しさによって
それこそみすぼらしい姿の者。

逆に見た目はよいものの
用意されたお菓子を手づかみで食べたり
唾を飛ばしながら甲高い声で
とめどなくしゃべり続けたり
ふるまいに難のある者もいました。

しかしその中でも
群を抜いておかしかったのは

真昼のお茶会でただひとり
王様や自分以外の招待客をそっちのけで
目に映る全ての食べ物を
せっせとかき集めている娘でした。

目を背けたくなるほどやせ衰えて
まだ若いのに髪はパサパサ。肌はカサカサ。
水気の無い唇は白くひび割れて
大きな目をギラつかせて
用意されたサンドイッチや焼き菓子を
ありったけ持って帰ろうとしています。

自分の分だけじゃ飽き足らず

「ちょうだいちょうだいもっとちょうだい」

と汚らしい袋の口を開けて
招待客や給仕に強請って困らせていました。


常軌を逸した娘の振る舞いを目撃した王様は

(あの娘だけは勘弁してくれ!)

とおぞましさに震えました。

しかし他でもない王様が集められた女性の中で
いちばん嫌だと感じるなら
この娘こそがその娘に違いありません。


誰がお告げの娘か
家臣たちの間でも審議が行われましたが
やはり満場一致であの娘が選ばれました。

(あれほど愚かでみすぼらしい娘が私の妃になるのか……)

王様は今までお別れして来た美女たちの誰とも
結婚しなかったことを後悔しました。

いくら熱が冷めたとは言え
あの娘よりは誰だってマシだからです。


しかし結婚を嫌がっているのは
実は王様だけではありませんでした。

王都から遠く離れた孤児院で
暮らしている娘のもとに
迎えの者を寄こしたのですが


城に来ればいくらでも
美味しいものが食べられる。

綺麗なドレスを着て
高価なアクセサリーを
山ほどもらえる。

いつも侍女が尽き従い
指一本動かさずに暮らせる。

また王様自身も若く美しい。

女性が望む幸せはみな
手に入るのですよと

いくら説明されても
お茶会ではあれほど欲張りだった娘は
喜ぶどころか

「要らない要らない何も要らない」

と泣きながら母親代わりの院長に
縋りついていたそうです。


使者はそれでもなんとか
院長とともに娘を説き伏せて
それでも従わないので
半ば強引に城まで引きずって来ました。


しかし娘にとっては
やはり不本意だったらしく
城に来てしばらくは
ずっと部屋に閉じこもって

「要らない要らない何も要らない」

と贈り物はおろか
食事もろくに取りませんでした。

王様は家臣から娘の様子を聞いて
お茶会での強欲なふるまいとは
真逆だと訝しみつつも

(よし! 娘が拒み続ければ縁談は白紙になるぞ!)

と内心ほくそ笑んでいました。

娘を拒んだところで王様のもとには
別の愚かでみすぼらしい娘が寄こされるわけですが
それでも「いちばん」よりはずっとマシです。


🍀つづく🍀

七千字近くなってしまったので、今回は三分割で投稿します。

🌸最後までご覧くださり、ありがとうございました🌸