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バズりたい欲望に苦しくなったら読む本

 note内で開かれた「読書の秋2020」という読書感想文コンテストへの応募期間は過ぎてしまったが、この機会に改めて書きたいと思っていた感想文を、今あえて書くことにする。

 この本との出会いは、昨年の9月某日。
 たまたま午前11時過ぎ、いつも拝読しているwebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開いた。その頃はちょうど、作家の浅生鴨さんが、お仲間であり、ほぼ日とも縁深いクリエイターさん達とご一緒に、私の住む地域へ本を手売りしに来てくれていた。ほぼ日ではその様子をテキスト中継していたのだが、今まさに駅前のコミュニティプラザで合同サイン会を開いている最中だと知った。
 ほぼ日でおなじみのメンツがそろって、すぐ近くに来てくれていて、サイン会をやっているなんて!!
 もう居ても経ってもいられず会場へ飛んで行った。

 そして、到着したとたんに超ウェルカム対応してくださった皆様と談笑させてもらっている間に、気がつけば浅生鴨さんと、その隣にいらっしゃった田中泰延さんと3人でお話している感じになり、「今、大学生をしていて論文を書いている最中です」とお話したところ、浅生鴨さんから「論文を書いているなら」とおススメくださったのが、泰延さんの初の著書である『読みたいことを、書けばいい』だった。

 ちなみに、このイベントについては、以下のnote記事でもっと詳しく語っている。

 上記のイベント後、この本をゆっくり読んだ。といっても、確か1~2時間で読めてしまったと思うが。さらさら読めてしまったので、そのときは大した感想がなかったような気がする。唯一、とある章のとある部分で、読み進めるたび軍靴の音が聞こえてきて腹筋が痛くなるほど笑ったのは覚えている。
 だがその後、論文を書く上で行き詰まったり、ネット上で文章を書くことに迷いを感じたりしたとき、この本を棚から引っ張り出してはパラパラめくり、目についたページを読んで、参考にさせてもらったり、勇気づけてもらったりしている。

 この本では、「はじめに」で筆者である泰延さんが以下のことをおっしゃっている。

 本書では、「自分が読みたいものを書く」ことで「自分が楽しくなる」ということを伝えたい。いや、伝わらなくてもいい。すでにそれを書いて読む自分が楽しいのだから。(p.6)

 だからなんだろうけど、この本を読み返すたび「文章を書くことは楽しい」ってことを思い出す。
 無自覚のうちに、文章を書くことを「苦行」だと背負い込んでしまうときがある。それは論文を書いているときでも、ネットに載せる文章を書いているときでも。
 論文はわざわざ自分が志願して、憧れの先生に頭を下げて指導をお願いし、書かせていただいているものなのに。ネット上に載せる文章だって、別に誰から頼まれているわけでもないのに。
 気がつけば、「いいものを書かなくては!!」と躍起になってしまいがちだ。
 いろんな人から「スゴいね!」って言われたいし、ゆくゆくはお金や仕事もついてきてほしい。
 どんどん膨れ上がっていく欲望は、ただ純粋に「書くことが楽しい!」という自分の気持ちを見失わせていく。

 この本は、いわゆる「バズりたい」という欲望で苦しくなった私に、まず自分が楽しんで書くのが大事だと思い出させてくれる。何より著者の泰延さんが、楽しみながらこの本を書いているのが分かる。いや、本人はさんざん苦しみのたうち回りながら書いていたのかもしれないけれど。

 自分しか読まない文章を書くことは、何の苦にもならない。
 1日につき1ページが割り当てられたA5判の大きさの手帳に、その日に食べたものや思ったことなど、つらつら書いているのだが、気がつけば余白がほぼなくなるくらい、1ページの大半を文字で埋めている。
 でも、そこで書いたものは後で誰からも評価されないし、自分でも読み返さないことが多い。
 そのときの私が分かっていればいいことばかり書いてある。自己満足でも全く問題のない文章だ。

 だけど、人様に読んでいただく文章を書くときは、どうしても承認欲求という厄介なものが付きまとう。
 読んで楽しんでもらえたら嬉しい、と思うだけならまだいい。
 その気持ちがどんどん膨れ上がると、スキ!がたくさん欲しい、サポートが欲しい、有料マガジン作ったら登録者が欲しい、なんて、どんどん「いい思いをしたい」という欲望になりかわっていく。
 でも、そんなドロドロした欲望をもとに文章を書いていても、人の評価が気になれば気になるほど、書きたいという純粋な気持ちはどこかへ押しやられていく。
 しまいには書くこと自体が面倒くさくなっていき、投げ出したくなることもあるかもしれない。というか、実際に投げ出してしまったこともある。
 でもそれは、本当にもったいないことだ。

 この本を読み進めていくと、自分が「書きたい」と思った対象について徹底的に調べ尽くし、「愛せる」ポイントを探し、見つけ、それを全力で伝えようとする作業の重要性が説かれている。
 詳しくは本書を参考にしていただきたいのだが(いずれにせよ購入することが大切だ)、「書きたい」と思った対象について徹底的に調べ尽くしたうえで、一番に伝えたいことを文章にしていく作業は、肥大した自意識を捨てていく作業でもあるんじゃないかと思う。

 泰延さんは、この本の終盤で以下のように語っている。

 わたしは、なかなかにいい給料が振り込まれていた電通という会社を、なんの保証もなく辞めて50代を迎える。それは自分がおもしろがれることが、結果として誰かの役に立つ、それを証明したいからなのだ。(p.237)

 私が面白がっていることが、誰かの役に立つかどうかは分からない。でも、楽しんで文章を書いていきたい。

 ついつい承認欲求とか、自意識とか頭をかすめてしまいがちだけど、「文章を書くことは楽しい」ってことを、忘れたくない。
 だから、これからもこの本を手元に置いて、文章を書くことが苦しくなったとき、開こうと思う。

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