虫がこわい

 虫が苦手だ。
 最近だんだん暑くなってきて、昼間中窓を開けておくようになった。すると、虫がたくさん入ってくる。コバエくらいならまだ手で捕まえられるが、たまにギョッとしてしまう大きい虫が入ってくる時がある。この間は、外が暗くなってきた頃、ふと天井を見上げると、ハチのようなものが天井にとまっていた。
 虫が部屋に入ってきたとき、通常取られる選択肢は捕まえて外に逃す、もしくは殺虫剤などで駆除することだろうが、私の場合は違う。私は、虫がダメ。戦略的撤退である。
 虫を発見すると私はすぐさまスマホ、メガネ、パソコン、教科書など必要なものを居間のドアを隔てた台所の方に移動し始めた。こういう時だけは行動が早い。虫はまだ天井にとまったままだ。さらに水、コップ、座布団なども持っていく。最後に布団の上のいつも一緒に寝ている犬のぬいぐるみを救出してドアを閉めた。これでおそらく完璧だろう。ドアは真ん中がガラスになっていて、隣の部屋が見えるようになっている。私はちょくちょくガラスから虫の様子を見つつ、あと3時間後に締め切りの迫った課題をやることにした。
 こういうときいつも思うのが、昔の貴族とかって虫は平気だったのかな、ということである。「ココ・シャネル」とか「燃ゆる女の肖像」みたいなフランスの優雅な映画を見ると、いつも部屋の窓なんかを開けちゃったりして、気持ちよさそうに生活している。そこには当然網戸なんかない。虫なんか入り放題なのではないかと思われる。しかし映画の中では虫なんかには縁がなさそうな人たちが、虫が出て大騒ぎしている描写などは___当然___ない。昔は今より虫が少なかったのだろうか。それともやはり、虫なんかには慣れっこで、平気だったのだろうか。
 この疑問が、この間「シェリ」(コレット作)という小説を読んでいて、ついに解決された。シェリらが夜にソファなどでくつろいでいると、ランプの周りに足の長い大きな蚊が三匹飛んでいたのだ!足の長い大きな蚊って、なんだ。不気味で恐ろしい虫がいるというのに、そんなことには全く頓着する様子もなく登場人物は真剣にすったもんだしている。
 素晴らしい。私も見習わねば。
 ちなみに、私の部屋に侵入していたのは、ガガンボという虫だった。結構脆いらしい。帰ってきた恋人が、天井を離れて浮遊していたところをティッシュで捕まえて、事なきを得た。怖かった。


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