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推しは推せる時に推せ。

2ヶ月にいちど、我が家のポストに届く、白い封筒。
私は毎度それを心待ちにしている。

コート紙2枚、A4版に折られた、たった8ページの印刷物。でも私はそこに書き連ねられた文字をじっくりゆっくりと目で拾っていく。

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中学生の時から大好きなアーティストのファンクラブの会報。表紙には最近の彼の写真とファンクラブ会報のタイトル、ナンバリングがされている。今日届いたのはvol.170。えー、そんなに長く続いていたんだ、と改めて思わされる。
昨年末に数年ぶりの個人ライブツアーが開催されたので、それに参加された方から寄せられたメッセージがたくさん掲載されていて、残念ながら何処にも参加出来なかった私からは羨ましいという気持ちよりも少しでもライブの熱さを感じようとして、目を皿のようにして読んでいた。

最近のライブでは「初めてライブに来ました」という声が多い。それもきっと、蔓延してしまった流行病の揺り戻しやライブには行ける時に行っておこうと感じる人々が増えたのだろう。

その、アーティストは嘗て、今ではとても有名な大御所バンドに所属していた。今でも大御所バンドは精力的に活躍をしているが、一昨年、そのバンドメンバーの1人が病気療養でコンサート活動から離脱する事になった。
早期の復活を皆待ち望んでいたが、先日その方が声帯を切除した事を公式YouTubeチャンネルで知った。
私のショックは並大抵のものではなかったようで、現状そのバンドの曲は聞くことが出来ない。聞くと涙が止まらず動揺してしまう。
大病されたご本人がいちばん辛く悲しく、生きながらえるために療養しているのに、私がそんなでどうする、という声が聞こえそうだが、精神的に不安定なここ数年をかろうじて生きている私にとって、『今まで有ったもの』が消える、無くなるのが恐ろしくてたまらないのだ。

こういう風な気持ちが強くなったのは3年ほど前からだろう。ちょうど流行病が蔓延し始めた頃、多くの著名人が様々な理由で天国へと旅立ってしまった。病、自死、事故、理由は様々だが彼らはこの世にもう存在しない。新しく彼らの作品を見知ることは叶わなくなった。…そんなことが辛くて堪らなかった。

もう少し、もう少しだけ心が安定したら、きっと大好きなアーティストのライブに足を運ぼう。今はまだ難しくても、もう少し頑張れば、大丈夫。

好きな人が明日も元気に笑っているとは限らない。
また、自分自身も明日がやってくるかわからない。

『推しは推せる時に推せ』

今夜は好きなアーティストの歌声を子守唄にして、眠ろうか。