スマホとSNSとコロナで変わった、芸術鑑賞のモラルとルール
スマートフォンの登場で写真が手軽に撮れるようになり、録画もできるようになりました。それによって変わった常識もあります。
最初に驚いたのは、10年前。大学の授業で多くの学生が先生の板書をスマホで撮影していたことです。
法学部なこともあり、ポケット六法を持ち歩くのが重いので六法や判例はスマホアプリで入れているという学生も多かったですし、手元でスマホを使うのはまだわかる。でも、先生に見えるように堂々と掲げて写真を撮るという発想はどうしたら生まれるのか、そしてどうしてそれをOKだと考えられるのかが私にはわからず、困惑しました。しかし先生方は、それを注意せず禁止もしません。中には撮影を待ってから板書を消す(スライド投影の場合は次のスライドに動かす)先生も。その対応に、「技術が進めばメモの取り方や常識が変わるんだなあ」としみじみ思いました。
それから、ベトナムで博物館に入ったときも驚いた。それまで私は、美術館や博物館は「写真厳禁」の場所だと思っていました。ところが、現地ではみんな当然のように写真を撮りまくる。基本が写真OK、撮影禁止の場所にだけ、カメラマークに赤いNGマークがついているのです。文化の違いもあるのだろうけれど、日本でもそういう展示は増えていくんだろうなと思いました。
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さらに「なんでも写真を撮るのが当たり前」が加速したと感じるのは、SNSの普及、特にInstagramの登場以降。食事にしても何にしても撮られる前提で盛り付けていたり撮影スポットを作ったりしているお店が出てくるようになりました。
ライブなどでも、積極的に撮影・SNSアップOKにしているところもあります。PENTATONIXのライブでは、始まる前のステージだけでなく、パフォーマンス中も写真撮影可でした(ストロボ・音が出る撮影はNGですが)。ものすごくドキドキしながら一枚だけ撮影したなあ。
絶対に撮影をNGにしそうな敷居のあるミュージカルでさえ、シアターオーブで観た『雨に唄えば』と『オリバー!』は「一部指定シーンのみ撮影・SNSアップOK」でした。そう言われると、むしろ撮ってSNSに上げないと申し訳ない気がしてしまうのは、なぜでしょう……?
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そうやって写真撮影への敷居が下がり、さらにシェア先ができたことで、それまでは撮影OKが珍しかったのが、いつからか逆転してしまったような気がします。
以前は特別にアナウンスがなくても撮影は控えて、「撮影OK」と言われた時だけ「撮っていいんだって! ならせっかくだし思い出に撮る?」となっていた。それが今では撮影禁止のときにしっかり「撮影はお控えください」「撮影禁止です」とアナウンスしないといけません。
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それでも、そうやって禁止の注意喚起をしたところで、それに気づかずに平気でスマホを掲げる人たちはたくさんいるんだなと、先日あるライブステージで感じました。
そのステージは撮影NGだったにも関わらず、多くの人が当たり前のようにスマホを掲げて写真を撮影し、録画もしていたのです。そのままSNSにアップしている人も複数いました。
「撮影NG」のアナウンスは冒頭に一度のみ。注意書きの張り紙は小さいサイズで前方にしかなく、気づかない人もいるだろうなという程度でした。途中入場も可能なので、撮影禁止という情報にまったく触れていない人もいたと思います。だから仕方ない側面もあるのかもしれません。だけど、当たり前に撮影するということは、撮影OKがデフォルトの感覚なんだなあと、自分の感覚とのギャップを覚えました。
思い出に、SNSアップに。写真を撮りたいのはまだ個人的にもわかります。でも、録画するってどうなの……? アーティストさんたち、販促にCD持ってきているんだけど、動画録るってことはもちろんCDは買うよね? え、CD買わずに帰宅後も手元のスマホに入れた音で楽しむ気? それは、モラルがなさすぎじゃない? ……と詰め寄りたいほど、ちょっと私にはわからないのです。
だけど、彼らが普通の人で悪気があるわけではないのはわかります。もし運営の人に注意されたら特に抵抗せずに録画をやめてスマホを下ろすでしょう。
悪気がなくて、自分が撮(録)りたいしか見えていないから怖いのだけど。でもそれだけ、「撮る→SNSシェア」「録る→帰宅後楽しむ」が当たり前になっているのかと思うと、わからないとも言ってられないというか。それをデフォルトに考えて対応側も行動しないといけないんだなあ……と。
モラルがないとか、ルールが守れないとかいうのは簡単だけど。そうではなくて、モラルもルールも変化してきているのかもしれません。
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ちなみに、コロナ禍になって明らかに変化したルールが一つあります。スマホの電源です。
これまで、映画館や舞台では上演前に必ず「スマートフォンなどの携帯電話は、電源をお切りいただくか〜」と注意のアナウンスが流れていましたよね。それがコロナ以後、「マナーモードやサイレントモードなど、音の出ない設定に」のみになり、「電源をお切りください」はアナウンスされなくなりました。むしろ「電源は入れたままで」と言われる場合もあります。
なぜか。
あくまで推測ですが、「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」の案内を一緒にしているからだと思います。
コロナ対策としてCOCOAのインストール協力を呼びかけるということは、この劇場でもCOCOAを使ってくださいということ。でもCOCOAを生かすには、スマホの電源と位置情報はオンにしておく必要があります。だから「電源を切って」は不適切になってしまうのでしょう。
こうやって考えると、単純にモラルが崩れているだけでなく、理由があって変化しているルールもあるもの。自分の常識に凝り固まってモラルやルールを他人に押し付けることないように、だけど自分の中の基準のモラルは守れる人間であるように、その塩梅は常に自身に問いかけていきたいなと感じています。
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