No day but today. 〜『RENT』25周年記念ツアー来日公演〜
元は2020年3月に来日予定だったミュージカル『RENT』オリジナル演出版の25周年記念ツアー。感染症の影響で余儀なく延期された公演が、2022年、525,600分を2回とちょっと回って、渋谷シアターオーブに帰ってきた!
5/17(水)18:30〜の初演を観てきました!
『RENT』は、オペラ『ラ・ボエーム』を下敷きに、舞台を80〜90年代のニューヨークに移して描かれたロック・ミュージカル。孤独やキャリアの不安に格差、AIDSやドラッグに翻弄されながらも、友情や愛、自由への希求をエネルギーに懸命に生きる若者たちの物語です。
全力で生きようとする若者たち。遠くない死を感じているからこそ今に生きようとする彼女たち。だけど、強がっていても次第に隠しきれなくなる不安と恐怖。その中で揺れ動く感情と関係性——。
26年前に描かれた物語と音楽、そこに魂を吹き込むバンドと役者たち。
AIDSの恐怖は今や感染症に置き換わり、戦禍に置き換わり……2020年は気合を入れて千秋楽を取っていたので、延期になったときはものすごく落ち込んだのですが、結果的に今この時代に観られてよかった。今だからこそ、より響きます。
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フィクションの世界は、時に現実よりも残酷で厳しく、現実よりも鮮やかで強烈。そして現実よりも、生きて感じる。
前半では家賃も払えないような貧しい生活だったり、HIV陽性の不安を抱えたりしながらも、「自分らしく生きるんだ!」と自由奔放とどこか楽しそうで鮮やかに描かれる若者たち。特に「La Vie Bohem」のシーンは、彼らのその自由さと生き生きしている様が、羨ましくすら思えます。むしろ元はみんなと一緒に貧乏アパートに住んでいたのに、資産家と結婚したベニーが哀れに見えてくるほど。
ところが、後半に入ると彼らの影が少しずつ表に出てきはじめる。
パートナーとの喧嘩やすれ違い。オアシスのような存在でみんなをつなぎとめていた登場人物・エンジェルの死。HIV陽性だった彼女の死を前に、自分たちの、あるいは愛する人の未来の死を思い、苦しむ仲間たち。その中で何者にもなれず、夢と現実の間で悩む若者がいたり……。互いに大切にしたいのに、不安が勝ってどんどんボタンを掛け違えていく……。
その名前のようにみんなを笑顔にしていた明るく優しいエンジェルを、殺してしまうのが物語の世界。容赦ない。
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そして葬儀の日、パートナーのコリンズが彼女の死への張り裂ける想いを歌う「I'll Cover You: Replies」。そのメロディーは、前半でエンジェルとコリンズが出会った日に「一緒に暮らそう、恋人になってちょうだい」と愛を歌い合った明るい曲「I'll Cover You」なのだ。歌詞の一部も引用。愛のメロディーで、長調のメロディーで、悲しみを叫ぶ……。
ミュージカルの世界は、なんと登場人物に、役者に厳しいのだろう。えげつないのだろう。
でも、それこそが「表現」なのだと思う。
ブルース調のアレンジだけど軽やかさと抜け感のある音楽に、コリンズの歌声。その歌声は、生のミュージカルだと、咽び泣いて叫んでいるようで、腹にくる。観客である私の頬を、静かに流れる涙。
もしこれがものすごく暗く重い音楽だったら……。観客は受け止めきれず、目を背けたくなるのではないだろうか。涙は静かに流れるのではなく、嗚咽し咽ぶのではないだろうか。その後のみんなの苦悩を追う余裕がなくなるのではないだろうか。
音楽も、歌詞も、役者も。表現の世界って、すごい。
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不安と恐怖、絶望の最中で、「それでも」と立ち上がる。そんなパワーのある舞台です。人間には、「それでも」と希望を見つけて上を見上げる力がある。わたしたちだってきっと何度でも立ち上がれる。
そうして、人生の価値は、生きる意味は、時間やお金や生産性で計れるものではないのだと。何度でも立ち上がって「今」を生きようとすれば、濃い鮮やかな人生になるのだと。
散文的になってしまったけれど、本当はまだまだ書きたい……というより話したいことはたくさんあります。好きなキャラクター、驚いたパフォーマンス、好きな曲、舞台芸術に舞台演出で感じたこと。物語展開の妙。役者について。もう、視点が一人分じゃ足りない。
まったく、思考も興奮も冷めやらず、帰宅してから映画版のサウンドトラックをまた聴いています。でも、やっぱり生だから響いてくるものって、あるんですよね。重さというか、重層感が、現実感が違う。
公演は5/29(日)まで。S席であれば、土日もまだ僅かにあり、平日公演もまだ取れそうです。ぜひ。そして観に行った人、お茶でもして、感想語り合いましょう!
ああ、明日からも、今この瞬間を、生き抜きたい。時には嫌なことも疲れることもあるけれど、「それでも」と顎を上げて、楽しんで生き抜きたい。
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