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ベトナム縦断記。その10(ベトナム国立歴史博物館)読めない大人と聞かない子ども

ベトナム歌劇場の裏にはバラックのような小さな民家が並ぶ。外の通りから見ただけでは分からない、目立たない小屋である。

この民家たちはいつ頃建てられたのだろうか。100年の歴史を誇るコロニアル建築の陰で、名も無き建築たちも時間を重ねているのだろう。

歌劇場の周囲には同じ建築様式が使われた、ベトナム国立歴史博物館がある。先史時代のベトナムを中心に、民族史がまとまった博物館である。

入り口で、大きな荷物を預ける。ベトナムの大型施設はセキュリティもしっかりしている。
どのロッカーに荷物を入れるか迷っていると、職員のおばさんがぶっきらぼうに南京錠を手渡してくる。どこかイラついた感じのおばさん。

手渡された南京錠には“70”の数字。ところが70番のロッカーが見当たらない。再び立ち尽くしていると、おばさんは適当なロッカーを指さしてここに入れろと促す。どうやら南京錠とロッカーの数字は関係がないらしい。
謎に怒られてしまった…。

博物館は、日本で言うところの縄文時代ごろからの人類の歩みや、私たちの先祖が洞穴で暮らしていたころの工芸品が多く展示されていた。

ベトナムの歴史と聞くと、いわゆる西洋の影響を受けた近代のことばかり思い浮かぶけども、中国に支配されていた時期も長い。仏像や中国との交易で得たというモニュメントが並んでいた。
ベトナムの歴史をもっと学んでおけばよかった。とはいえ、ベトナムらしさが確立されてすらいない1万年以上前の人類についての展示を外国で見ているのは不思議な感覚だった。

館内をまわっていると、1枚の地図に目がとまった。

ベトナムの民族の分布を示した地図らしい。
50を超える民族が山岳部を中心に今でも生活しているらしい。都市部で生活しているのは、キン族と呼ばれる人達で、狭義でいうところの“ベトナム人”だという。

こうやって博物館を作り歴史を残せるのはキン族など主要民族だ。少数民族には文字を持たない人たちもいるだろう。はたして彼らに歴史を残す術があるのだろうか。きっと時間の中で埋もれてしまうものも多いに違いない。
日本にいるとなかなかイメージできない感覚だ。

現地の言語で書かれた説明文をなんとなく目で追いながら、ふと自分がここにいるということがおかしくなってしまった。
本格的に英語を勉強するようになって10余年。1人で旅券を取り、地図を眺め、ネットをまわりここにやってきた。
大学生が海外に行くなんて、今やそれほど珍しいことでもない。偉業でもなんでもない。

けれども、自分が観光目的でここまで来るなんて、想像もつかなかった。異国の読めもしない案内文の前に立ち、自分の成長と歩みを感じたことが、不思議と面白かった。

博物館には、小学生の団体らしき子供たちが学芸員の説明を地べたに座って聞いていた。
スライドによる説明を熱心に聞いている子どもの後方で、柱の影に隠れて遊んでいる男の子たち。とてもつまらなさそうにしている。

どこの国にも、こういう子どもたちはいるものだ。
学芸員がなんて言ってるか、ぼくに教えておくれよ。

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