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ベトナム縦断記。その1(成田〜ノイバイ空港)〜機内の喧騒とSIMピン
2/24早朝、フライトの3時間半前に成田空港に着いた。まだ外は暗い時間帯の空港は、日本人がほとんどいないらしい。
ベトナム行きのチェックインカウンターも、日本観光ツアー帰りの団体客で溢れていた。
9時半発のハノイ(ベトナムの首都)行きの便に乗り込む。空港についてから気づいたけれど、成田とベトナムを結ぶ便は結構あるらしい。
身近に感じることのなかった国だけれど、案外人の行き来はあるようだ。
搭乗口に並んでいると、一人のベトナム人らしき人が日本語で声をかけてきた。
ードコマデイクノ??
ベトナム人のツアーコンダクターのようだ。
「ハノイに行くんです」
そもそもここは、飛行機の搭乗口だ。ハノイ以外に行く人なんていない。
縦断旅行に行くことを告げると、コンダクターは笑ってくれた。
ータノシンデネ!
まさか一人旅をこんな形で見送られることになるとは。この旅でぼくはなるべく多くの人と会話をしようと思っていたので、その第一号として中々素敵な出会いだった。
機内に乗り込むと、中は大騒ぎだった。ベトナム人はおしゃべり好きだという。スマホから音楽を流しながら、隣近所の乗客同士で盛り上がっている。6時間半のフライトのあいだ、静かになることはなかった。LCC由来の簡素な作りをした椅子は、後ろの人のキックで猛烈に揺れる。
通路側でその景色も見えないのだから寝ておこうなんて思っていたけれど、ベトナム仕込みの陽気さのせいで一睡もできなかった。
ともあれ、ほぼ定刻通りにハノイ・ノイバイ国際空港に飛行機は降り立った。日本の建設会社が手掛けたという空港は近代的で、トイレなんかも清潔そのもの。
1時間ほどかけて入国審査を済ませると(ほとんど列に並ぶ時間だった。ベトナム人は整列をしない!)、ゲートの外には多くのベトナム人が各々誰かの到着を待っていた。まるで、ハリウッドスターが来日した時のような気持ちだ。大歓迎ムードである。と言っても、誰とも目は合わないのだけれども。
ぼくは日本から現地で使えるSIMカードを持ってきていた。Wi-Fiを持っていくのは手間だし、充電なども大変だ。ネットで買った格安SIMで1週間を過ごす。
ーSIMピン、忘れたよ…
スマホからSIMカードを取り出すために使う針金のようなピンを持ってき忘れた。何とか自力で解決できないかと思って、ボールペンの中に入っているバネを伸ばしてみたが無理だった。ボールペンが使えなくなった。
仕方なく、空港のSIMカードショップの人にピンを貸してくれないか頼んでみた。そこでカードを買うわけでもないのに図々しい。日本にいたら絶対そんな頼み事はしない。
受付のお姉さんは、笑顔でピンを貸してくれた。このやりとりに、ぼくは自分が日本のしがらみから解き放たれた気持ちになった。図々しいなんて気にしていられない。今、ぼくは日本人ではない!
現地のネットが繋がり、スマホには日本語で書かれたいくつかのメールが届いていた。
ぼくは今、日本から離れたベトナムにいる。日本のことなんて知るもんか。1週間、日本のことなんて考えずに過ごすんだ。
メールを読むでもなく、すぐにタクシーを手配しホテルに向かった。2週間ぶりの東南アジア。無駄に車線の多いハイウェイをタクシーは容赦無く飛ばしていく。何度経験しても落ち着かない。少しだけそわそわしてしまった。
気づけばぼくは、スマホでメールの返信をしていた。
やっぱりぼくは、日本人である。
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