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10万人に1人だけど、一人じゃない。Part.1

妻は、希少がんです。
10万人に一人しか罹患しない、珍しい病。

子宮筋腫がソフトボール程に大きくなってしまって、
全摘。
手術後の病理検査で、主治医に聞かされたのは、
初めて聞く病名でした。

2人で、何度も、泣きました。

ネットで検索するのは、安心したいから。
同じ病気から回復した人の話を読んで「大丈夫」って言いたかったから。

でも、見つからない。

ディスプレイに並ぶ文字に、希望を吹き消されて、
床に倒れて、泣き疲れて、眠る。

いや、何か、見つかるはず。

再びPCに向かい、数時間。
絶望的な文字が、敵キャラのように、次々と襲い掛かかって来る。
打ちのめされて、ベッドに倒れ込む。

声が出ないように、クッションに顔を埋めて、
暗闇の中で、泣き疲れて、また眠る。

何度も、何度も、繰り返した。

そして、やっと、見つけた。
その病気を専門に研究されている、お医者様を。

ホームページの隅にあった連絡先へ、
祈りを込めて、送信ボタンを押す。

すぐに返信メールが届いた。ありがたい。
指示通りに検体や資料を送り、新幹線を予約する。

初診日。病院の廊下。長椅子。
妻が、背中を丸めて、膝を抱えて、床を見つめている。
両腕で自分を抱きしめて、襲い来る不安と闘っている。
どんな言葉も、届かない。

名前が呼ばれた。
「検体と血液、PETーCT。全ての検査結果から、○○と診断します。」

やっぱりそうなんだ。

「でも、進行が遅いタイプなので、しばらく経過観察しましょう。
転移したら手術すればいい。何もなければ、そのままでいいです。
経過観察のまま、10年、何もなかった患者さんもいますよ。
頑張りましょう。」

あ りがとう ござい ます。 
もっと、ちゃんと御礼言わなきゃ。
頬を流れる涙が、暖かい。
嬉しくて、顔は笑ってるはずなのに、二人とも、泣いてる。

産婦人科学会では、2種類の抗がん剤の併用療法がセオリーという。
国立がん研究センターの見解では、抗がん剤の効果は期待できない。

患者が少なすぎて、ネットで調べても、正しい治療がわからない。
ずっと探していた答えを、今、もらえた。

経過観察中は、いつも、不安の海の中。
検査の度に、病院の廊下には、丸くなる妻がいた。
再発に怯え、転移の悪夢に魘される夜が、続く。

でも、だんだん、
膝を抱かなくても座れる日が、増えていった。

「10万人に一人って、世界で自分だけ不幸みたいに思ってたけど、
 日本に1.200人もいるんだよね。私だけじゃないんだね。」
だんだん、そう思えるようになった。

あれから8年。妻は今、元気に暮らしています。

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今も、難病で苦しんでいる人が、たくさんいる。
「同じ病名の患者が10人いれば、10通りの治療法を考えなければ」
これは、ドクターコトー診療所の、五島先生の言葉です。

人の身体は、それぞれが、違う宇宙みたいなもの。
同じ病名でも、年齢、体力、アレルギー、基礎疾患など、
人によって、ベストな治療法は異なるし、症状も違う。
だから、同じ病名でも、違う未来があるんです。
絶対治る。良くなると信じることで、元気になる人だって、絶対いる。
だから、どんな病気でも、明るく、前向きに、楽しく、生きて欲しい。

何もできないけど、本当に何もできないけど、祈っています。

闘病中の皆さんが、より良い治療を受けられますように。
痛みが、苦しさが、和らぎますように。
心穏やかに、過ごせますように。


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